神
毎日22時更新します…
林正徳は飛んでいた。
深夜の二時、家から近い郊外にあるゴルフ場上空を。
直立のままタンポポの綿毛のようにフワフワと浮遊する中年男性。
今日の昼、バイト先で立石というチンピラを殺してから。
正徳は〝モーフェート〟と名付けたスキルで一体何が出来るのか、実験を繰り返していた。
警察は現場検証で『立石はオナニー中に心臓発作を起こして死亡』との見解を示しており、一緒にいた正徳も事情聴取のみで帰されている。
ただし、検死解剖の結果は死因不明となるだろう。
何故なら心筋梗塞を起こした立石の心臓は至って健康なのだから。
モーフェートは脳内で発動する。
空間に存在している未知のエネルギーを『使役する』イメージだ。
スキルの発動条件について、ここまでは理解出来ている正徳。
エネルギーの正体や脳内での仕組みまでは不明だが操作には問題ない。
例えば立石の殺し方で言うとまず体に触れる事により心臓の冠動脈の位置をサーチ。
エネルギーを駆使して血管を全て塞ぐ。
これだけで心筋梗塞の出来上がり。
このエネルギー。
〝プラーナ〟と呼ぶ事にした。
空間に満ちたプラーナを水とするなら空を飛ぶのは水泳に近い。
立ち泳ぎで水面に浮かんでプカプカと流される感じ。
このやり方で三十分程前からゴルフ場の二十メートル上空を漂っていた。
「もう慣れました、と」
操作に、ではなく高さに。
彼は高い所が苦手だった。
空中にいても実際は水の中にいる感覚なので『落ちる』という恐怖はそれ程湧いてはこない。
正徳は立ち泳ぎを止め、ばた足からスクリューにイメージを切り替えた。
「?」
変化なし。
少し考えてペダル式の足漕ぎスクリューを漕ぐイメージをしてみる。
すると自転車並みのスピードで体が上昇して行く。
ぼぉぼぼぼっ。
緩く風を切る音。
ダウンジャケットを着て来たが少し寒い。
トイレが近くなると嫌なのでプラーナで体全体をガードするイメージをしてみる。
変化なし。
今度は具体的に流線形のロケットをイメージしてみた。
ピタ、と音と寒さが消える。
どうやらモーフェートを発動するには『自身が理解しているイメージ』が必要らしい。
足元のゴルフ場がだんだんと小さくなる。
「ゴルフ場って広いなぁ……私んちどこかな?」
空飛ぶ人あるある。
独り言を大声で話す、自分の家探しがち。
珍しくリアルネタを頭にメモする正徳。
昼間殺した男の事も少し考えてみる。
「…………」
何の感情も沸かない。
この辺は以前のままだ。
相変わらずの弱々しい目、自己肯定感だけ強い子供のような男。
「モーフェートを手に入れた時はSマン的立ち位置も考えたんだがなぁ。初日にいきなり人ぶっ殺しちゃったから。あのチビのせいで……」
人前に出るつもりなのか自身のキャラ付けに悩んでいる模様。
ヒーローは消えたようだ。
「アレだ。お助けマンよか神様的なヤツの方が面白いかな。神様」
才能ゼロ、自称作家の子供が考えるようなキャラ設定がこの後まさかの展開を生む事になる。
「天地創造だったかな? やってみるか」
一旦上昇ストップして立ち泳ぎに切り替えた正徳。
「……光、あれ!」
何も起こらない。
上空五百メートルで身も心も寒くなる中年男。
右手を前に突き出して割と本気でやったのだが。
間が持たなくて何か他に思いつくモノはないか考える。
そうだ、今日も扱ってきた段ボール。
「段ボール、あれ!」
……なんちゃっておじさん、と昭和の化石ギャグで誤魔化す彼の目の前に。
一枚の段ボールが現れてヒラヒラと落ちて行った。
それではまた…




