立石
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林正徳はバイトに来ていた。
昨夜自殺して覚醒。
超感覚を身に付けたばかりだが、ちゃんと仕事にも来ている。
彼は五感の残り一つ『味覚』もしっかり確認しており、他にも気になる事があって色々と調べていた。
この世界、空間全体に何かある種の力のような存在を感じるのだ。
その正体。
自分にどういった影響を及ぼすのかも、まだわかってはいない。
しかし正徳は感じている。
大いなる力の源があって、それを自分が行使出来るのではないかと。
本人的には昔から漫画ネタにもある超能力の類いだと考えている。
つまらない作家だけあって発想がベタなのだ。
これもあるあるだが机に座って「鉛筆動け!」とかやってはみた。
途中で照れが出てダメだったが。
「術式の問題かもしれん」
今は魔法や呪術の方向性で彷徨っているところだ。
バイトは郊外にある段ボール製造工場で印刷機の補助や雑務をしている。
製造ラインを通って作られたダンボールの検品・梱包・パレット積みを担当。
十年以上続いたのは単純作業の繰り返しで人間関係を必要としないからだ。
割と重労働なので体力には自信あり。
本人はアスリート並みのタフさを誇っているらしい。
誰も知らないが。
この日の昼休み。
テーブルが四脚程の狭い社内食堂。
いつものように昼食後、テレビを観ながら少年漫画誌を読んでいた正徳の前に。
缶コーヒーを片手に座るパンチパーマの中年男。
アルバイトの立石だ。
彼は元トラックの運転手だったが免停を食らって現在ここでバイト中。
正徳に背を向ける形でテレビを見始めた。
少々うんざりしながら漫画を読むフリを続ける正徳。
この男が。
お互いいい年なのに嫌がらせをしてくるのだ。
古いエアコンから小刻みな振動が伝わって来る。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…………
ガタガタン!
いきなり体ごと振り返る立石。
丸椅子に大股開きで座り直した。
「……少年漫画。面白いか?」
小柄な立石。
身長百七十五センチの正徳より十センチは小さい。
目を合わさず答える。
「えぇ。まぁ」
「えぇーッ。まぁーッ」
口調を大袈裟にマネてみせた。
誌面から目を上げない正徳。
暫く彼を観察していた立石は次の一手に出る。
「総務の三咲ちゃんサ、ムッチムチで堪んねーよな……後ろから突きまくりてぇ〜」
そう言うとイチモツを出して右手でしごき始めた。
正徳の顔を除き込みながら。
食堂にはまだ二人ほど人が残っている。
「ちょっ……」
視線を上げた時、立石と目が合う。
「おい、逝くまで見とけよ」
左手でガッと彼の右手を掴んで離さない変態。
どういう頭の構造なのか不明だがギンギンにはち切れんばかりだ。
子供の頃に祖父と一緒に風呂に入って以来、初めて自分以外のモノを見た正徳は気持ち悪くなってしまう。
自慢の腕力で右手を振り払おうとしたその時、ショックを受ける。
びくともしなかったのだ。
自分は今、この男に力ずくで凌辱されようとしている……
恐怖が突然彼に襲いかかった!
「や、やめッ」
逃げられない。
立石の血走った目を見て絶望する正徳。
これまで幾度となく受け入れてきた死の気配同様、直ぐに諦めて力を抜く。
動物が死の直前にスイッチを切るのに似て。
「え?」
………………何かが。
頭の暗い部分から侵食して来るのを感じた。
それは脳内を満たすとそのまま頭の外へと染み出て行き、やがて食堂へと拡散して……
否。
より濃く、濃くなってまた頭の中に戻って来た。
その時、正徳は全てを理解する。
力をどう使えばいいのか。
立石の手を通して感じるのだ。
正解が、その答えが。
コイツの殺し方が。
「んどぅ?」
立石が白眼を剥いてからテーブルに突っ伏す。
ドンッ。
缶コーヒーがひっくり返る。
自分が使った感覚を忘れない内に正徳はスチールの缶を丸めてみた。
クシャ。
手を使わずに。
それではまた…




