1章 私の理想
本城君のお兄さん、綾君は痩せている。
聞いたらなんと体重40kgだって!
身長160cmもあるのに!?
私なんて、140cmで50kg・・・。
本城君は「骨格標本みたいで好きじゃない、うるさいし」と言っていたけど、私は綾君みたいになりたい。
モデルみたいでかっこいい!!
休み時間、綾君が廊下の窓枠に腕を置いて風を受けながら数人の女子たちと話をしているのを見た。
ほとんど綾君が喋っていて、それをみんなが聞いているだけだったけど。
思い切って綾君に聞いてみた。
「初めまして、隣のクラスの小野崎凛子です。」
「聞いてもいい?」
「本城君は何でそんなに痩せているの?」
「どうやったらそんなに痩せられるの?」
話していた子も廊下にいた他の子もみんな本城君を見た。
本城君はこちらに向き直って言った。
「俺食べることに興味ないんだよね、兄弟5人いるんだけどさ、奴ら全員よく食うんだわこれが!肉も野菜もなんでもさ。しかもあいつら剣道・柔道・空手・弓道と運動してっから普通の何倍も食うわけ!ご飯なんて5杯も6杯もお代わりしてさ、見てるだけで腹いっぱいなわけよ。うえってなってさ。で、気づいたら食欲無くなって1日1食だけしか食えなくなってさ、気づいたらこうなってた訳よ。腹は減るんだけどさ、食べる気しないんだよね。
暇だから家中掃除して、洗濯して、買い物して、飯作ってやって、甥っ子と遊んでやって風呂入れてやって、勉強してってやってたら気づいたら家事と育児は俺の担当になっててさ、俺ん家今親いないじゃん?だからかな?飯食わないで家事育児して頭使ってたら肉なんてなくなってたよね。全部あいつらのせいだよ。俺がこうなったのは」
そのとき本城君(涼君)が「好き嫌いが激しくて食べられる物がないだけじゃないですか、人のせいにしないでください」と言って通り過ぎた。
本城君(綾君)は「ふん!」と漏らして話を続けた。
「要はご飯は1日1食にして、家事して、育児して、勉強すれば痩せるってことね」
「俺はそれで拒食症になって死にかけたけどね」