6章 できることをやろう
6章 できることをやろう
「まさにそれ、部屋なんて与えたらゲームに夢中になって呼んでも出てこなくて、
ママにやってもらうのが当たり前になって、おじさんになってもずっと家にいる
なんてことになったらどうしようって思ってた!」
「何年か前にテレビで特番やってたの“子供部屋おじさん”てやつ」
「昌みてると100%そうなりそうで絶対部屋なんて持たせないって思った!」
ママが早口でまくし立てた。
「確かにママに全部やってもらうんじゃ赤ちゃんと同じだもんな」
「じゃあこれからみんなで大人になる為に、“できないことに挑戦する”ことから始めてみようか?」
「パパはすでに大人だし、出来ない事なんて無いけど、昌と有咲はどうかな?」
「おじいちゃんの顔した赤ちゃんになんてなりたくないからやる」
話し合いの結果、家事はパパとママで分担。
僕は朝は自分で起きる、夜に明日の学校の準備をして忘れ物をなくす、帰って
きたらまず宿題を終わらせてから遊びに行く、たまにアリサと遊んであげる。
アリサは遊んだおもちゃのお片付けに挑戦することにした。
最初の一週間が辛かった・・・。
誰も起こしてくれないんだもん。生まれて初めて遅刻した。
クラスのドアを開けたとき、みんなが一斉にこっちを見てきて笑ってるし恥ずか
しかった。
帰ってきたら勉強するって言ったけど、友達と遊ぶって約束しちゃったし、宿題も
なかったからいいかなって思って遊びに行ったらママが、「昌はおじいちゃんの赤
ちゃんになりたいんだね」なんて脅してくる。
明日の用意を忘れて学校行っちゃって、体操着忘れたからママに持ってきてもらおう
と電話したら、
「忘れたのはあなたの責任です。自分で何とかしなさい」と切られた。
隣のクラスの涼君が借してくれた。恥ずかしかった。
金曜日、本城君と涼君が僕の家に遊びに来た。ママは仕事で出かけてるし、アリサは
夜パパが幼稚園に迎えに行って一緒に帰ってくる。
確かに今思えば、あのとき本城君の僕に対する態度とママに対する態度は違ってたか
も・・・。
あの電話の後のおじいちゃんの赤ちゃんの話をしたら「えらいじゃん、涼てめえ長谷川
見習えよ」とか
「こいつ口は出すけど手は出さないの典型でさ」と本城君のおしゃべりが止まらない、
逆に涼君は聞き流して黙ってお菓子に夢中だ。
この一週間で出来るようになったのは夜の準備だけ。
朝起きるのと帰ってきてからの勉強はいまだに出来ていない。
パパはアリサをお風呂に入れるのに苦労してる。ママが良いって泣いて聞かないから
一度も成功していない。
という話をするとまた本城君のおしゃべりが始まった。
「うちもそうだよ、2番目は未だに子供との距離感に悩んでるし、こいつは朝起きられ
ないし、初めは目覚まし時計とかスマホのアラームとか使ってたけど、うるせえだけで
全然起きねえからヘッドホン付けて爆音でアラーム設定してやったらやっと起きたよな」
「長谷川もやってみれば?」
(爆音目覚ましか・・・。ヘッドホン、ママに買ってもらわなきゃ)
「勉強はたまになら俺も付き合ってやるよ、ほかの奴らも読んでさ、うちの裏のジジイの
家でやろう、終わったらジジイの古い漫画とかゲームとかで遊べるし、それにババアが
スイーツ教室で作ったお菓子とかあるし、それに・・・」
もうすぐ夏休みになる。