2章 トンカツ
2章 トンカツ
公園に着くと、ベンチに涼君が座っているのが見えた。何かを食べているみたい。
トンカツだった。
そういえばぼくは涼君とはクラスが違うから一度も喋ったことない。なんか心臓が
ドキドキしてきた。
涼君の目の前に立ったのはいいけど、なぜか何度も話しかけようとすると声が出な
い。
トンカツのサクサクした音が響いてる。
何かお腹が減ってきたなぁ・・・
涼君がこっちを見てる。
もたもたしてるうちに5分もたってしまった。
涼君は手提げバックから2枚目のトンカツを出してザクっとかじりついた。
やめとけばよかったかも。それかアリサを連れてくればよかったかも。アリサなら
誰が相手だろうとすぐ仲良くなれるし、目の前に立って無言で見つめるだけの怪しい
やつにならずに済んだかも。
「ああの・・・、僕、本城君の友達の」変な声・・・
「長谷川、昌って言うんだけど」
「今、ちょっと・・・、いいかな?」
涼君はトンカツを食べ終えると言った。
「いいですよ」
涼君の右隣に座って思い切って聞いてみた。
「・・・あ、あのさ、本城君、僕の家にだけ、遊びに来てくれないんだけど、何か知らないかな?」
「長谷川君てそこのコンビニの上に住んでる・・・住まわれている長谷川君?」
涼君がペットボトルから水を出してバシャバシャ手を洗いながら聞いた。
本城君の家では10歳から11歳までの一年間は敬語で話さなきゃいけないルールがあるらしい。
変な感じ。
「長谷川君はご自分の部屋を持ってない・・・持たれてない?んですよね」
「あの人プライベート空間が確保されていないと死ぬ人ですし、友人の親御さんに気を遣いながら大人の対応をして、友人にも嫌われないように子供らしく遊ぶなんて器用なことができる人ではないので、長谷川君の家は少々疲れてしまうんだそうですよ」
「だからあの人を自宅に呼ぶなら親御さんが出かけている時間帯を狙うか、自宅に呼ぶ目的をゲームなどの遊びではなく親御さんも参加できる勉強会などにすると良いと思いますよ」
3枚目のトンカツにソースをかけながら言った。
「え・・・」本城君が僕の家に来ないのは僕が自分の部屋を持ってないから?
まさか自分の部屋がないせいで本城君を疲れさせていたとは思わなかったし、ここまではっきり言われるとも思ってなかった。
「・・・ごめん」膝を両手でぎゅっと握り、顔を下に向けて小さくつぶやいた。
「悪いのはあの人の性格なんで気にしないでください」
横でザクりと音がする。
「あの、今日は話聞いてくれてありがとう」
「さよなら涼君」涼君の顔を見ないように立った。
「はい、さようなら長谷川君」
顔が熱い、何かわかんないけど急に恥ずかしくなって走って帰った。