「ギルド解体前夜」
「ギャギャギャァァ!!!…」
「やっぱ弱体化してるな、もう魔法すら必要ねぇ。」
「そうだね。」
「もう…大半の魔物はいなくなったものね。」
「あぁ、これも勇者様のおかげだ。」
「…ねぇ、サミーもタリクも明日からどんな仕事するの?」
「俺はガタイがいいから荷物運びに当てられてるよ。」
「ん…僕は弟がやってる雑貨屋の手伝いをしに行く、これから品揃えが大きく変わるから需要も上がるだろうし。」
「あっそうだった、タリクには弟さん居たんだったね。」
「うん。」
「アリヤはどうすんだ?」
「私は…修道女になる。」
「いいのか?」
「いいの、魔物とはいえ…沢山の命を見殺しにしてきた訳だから。」
「…お前以上に真面目なヒーラーなんて、どこ探してもいねぇだろうな。」
「… … …」
「…あの日、三人で一緒にギルド登録して僕は本当に良かったと思ってる、ありがとう。」
「何よ、ギルド解体は明日なんだから明日言えばいいのに。」
「アリヤの言う通りだ、まだ言わなくていいだろ。」
「それより、最後の夜は星の下で火を囲もうっていう約束覚えてるか?」
「日の暮れまでもうすぐだ、酒を買って丘の上に移動しよう。」
「…そうだね、まだ早かったね。」
━半年前、勇者が魔王討伐に成功した。
それにより魔物の力が弱まり、大半が駆除され、必要性の消えた冒険者ギルドには遂に王から解体命令が下された。
魔物が消えた事で物資の運搬がしやすくなったので、今後は街同士を繋ぐ道を作る事に注力するらしい。
…それでも僕達は、ギリギリまでパーティーとして活動していた。
「…ダハハハハッあの時のタリクときたらタンクの俺の後ろに隠れて…」
「そんなのお互い様だろ!アンデッド相手にはす~ぐ怯えちまうのは誰だ?」
「あ~はははっ二人の子供の面倒を見て…お母さん大変だったよぉ?」
「オーイ、お母さん気取りすんな!」
「サミー、バァァァァ!」
「驚かねぇよ馬鹿!」
はははは…はは…。
「…ほら、お酒飲んでるんだからそんなしんみりしないの。」
「…何だかなぁ。」
「…正直明日にはギルドが無くなるって考えると…明日からはもうこんな風に集まれねぇと思うと。」
「…酒の火照りも、夜風に冷やされちまうなぁ。」
「… … …」
「ほっ。」
ボン。
「!?アリヤ、急にどうしたの?炎魔法なんて出して。」
「ただの炎魔法じゃないよ、見上げてみて?」
バーン、パチパチパチパチ
「ハッハッ、こんな応用もできたんだなお前。」
「戦闘には使えないけどね。」
「でも、本当に綺麗だよ。」
「あぁ、本当にな。」
「…本当になぁ」
「!やめてよそんな…あんた泣き上戸じゃないでしょ?」
「…やめてくれよ、お前がすすり泣くなんて気色悪いぞ。」
「…本当に、ありがとうなぁ?」
「…僕には咎めたくせにさぁ…ずるいよ。」
…本当にずるいよ。
結局、三人とも泣いてしまったじゃないか。
「だが…何はともあれ、魔物が消えたのは良いことだ。」
「改めて、平和の到来に乾杯!」
「あんた、今日はいつにもまして勝手な事するね。」
「…乾杯!」
「乾杯って…タリクも言ってやりなよ~。」
「…あっそうだ、乾杯は私に任せて。」
「…明日からも皆に神のご加護があらんことを!」
「乾杯!!!」
満天の夜空には箒星が光っていた。
「弟よ、兄様が帰って来たぞ。」
「…!あぁ、お帰り兄さん。」
「残ってるポーションとか武器はどこに売るんだ?」
「一応監視の人とか、行商人とかに売ろうかなって思ってる。」
「そっか…それで、さっきから何を隠してるんだ?」
「…何も?」
「…」
そこには、兎の魔物が居た。
「兄さん…いや、魔物はもうじき絶滅するでしょ?」
「だから一匹位は…生きてても良いかなぁって。」
「…」
「…」
「…そうだな。」
「!」
僕には、何故か魔物がとても愛らしく見えていた。
「…兄さんさぁ、彼女とかできなかったの?」
「…機会がないだろ。」
「…アリヤさんって人の事気になってるって、前帰ってきた時言ってたじゃん。」
「…だからぁ、機会が無かったんだよ。」
─あんな別れかたしちゃったら、話す気になんてならないよ。
「…では、皆のこれからの物語に…幸あれ!」
━さようなら。
ほぼセリフだけの小説を書いてみたいと思い、執筆してみました。
もし良ければ、落ち着いた夜にもう一度読んでみて下さい。
もしかしたら、何か感じ方が変わるかもしれません。