第7話『こまが舞えば、子らも笑う』
雪がちらちらと降り始めたある日。村の広場に、子どもたちの姿がなかった。
「寒くて、外に出られないんだよ」
そう呟いたのは、わんぱく坊主のアレンだった。
家にこもってばかりの子どもたちは、元気を持て余し、家の中で小さなため息ばかりついていた。
その様子を見た晃志は、ふと懐からひとつの木片を取り出した。
「雪の日はな……“こま”がええとよ」
そう言って、晃志は小屋に籠もり、手を動かし始めた。
竹を芯にし、木を削り、底に鉄の釘を打つ。八女で幼いころから親しんでいた、あの“和こま”を思い出しながら――。
昼下がり、晃志はこまをいくつか携え、広場の軒下に子どもたちを呼び集めた。
「これば、見てみんね」
くるくると円を描きながら、赤と緑の模様が踊るように回る。
子どもたちの目が、ぱっと輝いた。
「すごい……どうやったら回るの?」
「おじちゃん、それ貸して!」
晃志は笑いながら、こまの紐の巻き方、手の角度、投げるタイミングを一人ひとりに教えた。
最初は転がるだけだったこまも、少しずつ回りはじめ、やがて――技が流行りだす。
「見て見て、“鳴子回し”!」
「おれの“影回し”のほうがすごいぞ!」
子どもたちはこまに名前をつけ、自分なりのスタイルで競い合いはじめた。
やがて、村の大人たちもそれに引き込まれ、自然発生的に「こま回し選手権」が開かれた。
「優勝賞品は……晃志さんの特製お茶石鹸!」
その声に、女性陣も沸き立つ。
そんな中、ひとりだけ、うまくこまが回せず、しょんぼりしている少年がいた。
晃志はそっと隣に腰を下ろす。
「回らんときは、“待つ”とよ」
「……待つ?」
「ああ。手も、道具も、自分も。焦るとね、うまく回らん。けど、心を落ち着けて、“待つ”と……ふと、回り出すっちゃ」
晃志の手が、その子の小さな手に添えられた。
ひと巻き、ふた巻き。紐を丁寧に整え、そっと放つと――くるり。
こまは、ゆっくりと、けれど確かに、雪の中を舞った。
「やった……! 回った!」
子どもの歓声に続き、村の空気が弾けるように笑い声に包まれる。
その様子を遠くから見ていたエミリアは、そっと胸に手を当てた。
「灯りのない村に、光が増えてきた……あの人が、ひとつずつ、灯してくれている……」
降り積もる雪のなか、こまが踊り、笑いが舞い、人々の心に火がともってゆく。
晃志の“技”は、ただ回るこまだけでなく、回らなかった心まで――やさしく回し始めていた。