9.キャサリンの疑問
森の奥深くへ入るほど獣道は細くなり、四人は迫る木々の枝を掻き分けながら前に進む。
「もっとさー、強力な火の魔法をズドーンと撃って、道を作ることはできないの?」
とキャサリンが思いつきでのたまう。
「そんなことできたら、とっくに使っているわよ」
前を歩くエンジェルは必死だ。後ろからは、エリオットがテオドールを心配する声が聞こえてくる。
「頬、大丈夫か?」
「平気さ。血も止まったようだし」
「ごめんな。オレが下手くそで」
「そんなことないさ。助けてくれて嬉しいよ」
そこでキャサリンは立ち止まって振り向く。一瞬、テオドールとエリオットはギョッとした顔をした。
「どうしたんだい、お嬢さん?」
キャサリンはまじまじと二人を見つめる。そして何かに気づいたように踵を返すと、スタスタと前を歩くエンジェルに駆け寄った。後ろの二人に聞こえないように小声で囁く。
「ねぇ、エンジェル」
「何よ。こんな時に」
「私、気づいてしまったんだけど」
「何を?」
キャサリンはもう一度後ろを見る。二人が離れているのを確かめると、前に向き直り
「あの二人ってデキてるの?」
と尋ねた。
「今頃、気づいたの?」
「エンジェルは知ってたの?」
「初めて会った時から二人ともアタシの仲間だって気づいたわ」
「ひどい! どうして教えてくれなかったの?」
キャサリンは頬を膨らませる。
「一緒に冒険に行くと約束したのに、そんな理由で断れないでしょ」
「一体、私はどうすれば……」
キャサリンはその場にへなへなと崩れ落ちる。
「あー、みっともない。また獣や魔物に襲われるわよ」
「せっかくイケメンと冒険できたのに。しかも二人も」
(でも、初めから私は恋愛の対象じゃなかったんだ……)
「せめて邪魔しない程度に応援してあげることね」
あくまでもエンジェルは冷たい。
「応援って何ができるんだろう……」
キャサリンは振り返る。そういう目で見ると、テオドールとエリオットはあまりにも親しげで、仕草の一つ一つが恋人同士のようだった。
エリオットが何か冗談を囁き、テオドールが珍しく微笑む。肩が触れ合うたび、どちらからともなく少しだけ距離を詰めていた。
「ねぇ、エンジェル」
「今度は何よ」
「どっちがタチで、どっちがウケなのかなぁ?」
今度はエンジェルが盛大に躓いて転ぶ。
「もう、勝手に妄想してなさいよ……」
慌てて、テオドールとエリオットが駆け寄って起こし上げた。空を見上げると、夕暮れの気配が近づいている。
「そろそろキャンプを張らなきゃいけないわね」
「さっき休憩したところまで戻ろうか?」
エリオットが提案する。
「その方が良さそうね。本当はもう少し奥まで行きたかったけど」
四人は今来た道を逆に戻る。結局、キャサリンの疑問は解消されずじまいだった。