表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第1話:想いは口にしないと伝わらないですわ!
7/32

7.お姫様ポジション争奪戦

翌朝。キャサリン、エンジェル、テオドール、エリオットの四人は、ノズルクの街を出発し、東の集落リベレストを目指して歩き出した。


二泊三日とはいえ、荷物はそれなりに多い。最初こそ平等に分け合っていたが、十分も経たないうちに、キャサリンの足取りは目に見えて鈍くなっていた。


「やっぱり重いよ〜」


「だらしないわねぇ。歩き始めて、まだ数分よ?」


「だってぇ〜」


ぼやくキャサリンに、テオドールが無言で近づく。彼女の背負っていた荷物を一部取り上げて、自分の荷物に重ねた。


「……お嬢さんには無理だ。私が持とう」


そのさりげない気遣いに、キャサリンは目を輝かせる。


「テオドールって、性格もイケメンなんだね!」


褒められて、テオドールは困ったように頭を掻いた。エンジェルが後ろに視線を巡らせると、エリオットの顔がほんの少しだけこわばっている。


リベレストの手前には、大きな吊り橋がかかっていた。四人で渡ると橋がぐらりと揺れ、キャサリンは思わず足を竦ませる。


「ひゃっ……こ、怖いです……!」


「ふふ。怖がりさんね」


エンジェルはひらりと追い越して、優雅に先へ進む。


次にやってきたエリオットが、うずくまったままのキャサリンに手を差し伸べた。


「しょうがないなぁ。……ほら、お嬢さん」


キャサリンは頬を赤らめながら、その手をしっかりと握る。


「勘違いするなよ。……邪魔だから、だ」


ツンとしながら、エリオットは後ろを振り返らずにキャサリンを引いていく。背中から「ツンデレ、素敵!」という声が聞こえた気がした。


一番後ろから、テオドールが表情を曇らせながらひとりで歩いてくる。渡り終えるなり、エンジェルが囁いてきた。


「……寂しそうな顔、してたわよ」


「べ、別に……そんな顔なんて……」


慌てて顔を撫でるテオドール。その様子に、エリオットが何かを察したように駆け寄ってきた。


「おい、どうした? なんかあったのか?」


その瞬間、テオドールの表情がパッと明るくなる。それを見て、エンジェルは小さく笑った。


「……ほんと、分かりやすいわね」



リベレストの集落は、とても小さい。玉ねぎ農家が身を寄せ合って、できた集落らしい。道端の至るところに玉ねぎが落ちていた。


冒険者が珍しいのだろう。一人の農夫が四人に近づいてきた。


「おまえさんたち、どこへ行くんだい?」


「私たち、ヤンパインの森へ行くんです」


「や、やめた方がいい。あそこは最近、クマ以上に凶暴な生き物が出るんだ」


「クマ以上? 初めて聞いたわ」


エンジェルが首をかしげる。少なくともノズルクの街でそんな噂は聞かなかった。おそらく誰もわざわざ行こうとしないからだろう。


「どうする?」


とキャサリンは不安げに尋ねる。


「“どうする?”じゃないの。依頼を引き受けた以上、やり遂げなければいけないでしょ。ヴィンセントさんのためにも、サファイア先生のためにも」


「凶暴な生き物に襲われるなら、先生に怒られた方がいいなぁ」


「……期待したアタシがバカだったわ」


とエンジェルはキャサリンの手を強く引いて、森の方へ向かう。テオドールとエリオットも顔を見合わせて後に続いた。


リベレストの集落を抜けると、すぐに広大な森が広がる。民家は一つもない。森の入口には二つの石像が向かい合わせになって奉られていた。


「これはクマ?」


エリオットが近づいて石像に触れようとする。それをテオドールが止めた。


「よせ。呪われたらどうするんだ!」


ガシッと手を掴まれるなり、エリオットは顔を赤らめた。その反対側でキャサリンはペチペチと石像に触っている。


「何も起こらないよ~」


「アンタは呪われていなさい」


エンジェルの呆れた声が響いた。


森に入ってしばらくは、木々の隙間から陽射しが差し込み、獣道を明るく照らしていた。けれども、次第に辺りは暗くなり、蔓延る木の根に足を取られて転びそうになる。


「見て! あそこ……」


キャサリンが指差すところには、キツネらしき獣の亡骸が転がっていた。


「クマがいるかもしれないわね」


エンジェルの言葉に他の三人も警戒を強めた。キャサリンは、当然テオドールかエリオットのどちらかが守ってくれるものだと期待していたが、二人は肩を寄せ合い、互いを守っているように見える。


「あのー、もしもし」


キャサリンが二人に声をかけた。


「どうしたんだい、お嬢さん?」


テオドールが答える。キャサリンはエリオットが目も合わせてくれないことに、少しだけ傷つく。


「ここはやっぱり、お姫様を守ってくれる騎士が必要よね?」


キャサリンは祈るように両手を組んで、瞳を潤ませながら言った。その襟首をエンジェルが後ろから掴む。


「ちょっと、何するのよ!」


「……ったく、しょうがない子ね。前はアタシ、後ろはあの二人が守るから、あんたは真ん中を歩いていなさい」


と面倒臭そうな口調で言われた。


キャサリンはキョロキョロと左右を見回す。


「横から襲われたら、どうすればいいの……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ