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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第1話:想いは口にしないと伝わらないですわ!
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5.イケメンパラダイス

酒場「風鳴亭」は、今日も酔客や冒険者で賑わっていた。キャサリンとエンジェルは入口で立ち止まったまま固まっている。もちろん、二人とも店に来るのは初めてだった。


「ちょっと、エンジェル。早く奥へ行きなさいよ」


「イヤよ。あんな酔っ払いたちの輪に入るなんて」


そんな二人を見かねたのか、ピンク色のワンピースを着た女性が声をかけてくる。


「あら、初めてのお客様かしら? 今日はどんな用事で来たの?」


ふんわりとした笑顔に安心して、キャサリンは縋りつくように頼る。


「私たち、冒険者を探しに来たんです!」


そして、二人とも初めての冒険であること、一人あたりの報酬が少ないことを話した。


「私はセレスティーナ。この店で冒険者たちの仲介をしているのよ」


そう言って、遠くを見るように手をかざしながら店の中を見回す。


「……あそこの壁に立っているウルリッヒさんはどうかしら? 結構な歳だけど、まだまだ現役よ」


キャサリンとエンジェルは、同時にその男性に目を向ける。


「……イケメンじゃないね。しかもおじいさんだし」


「……ちょっと痩せ過ぎて頼りないわ」


セレスティーナは顔を引き攣らせる。それでも気を取り直して、奥のテーブルに一人で座っている男性を指差した。


「彼はね、最近冒険者になったばかりなの。あなたたちと同じく初心者だから、引き受けてくれると思うわ」


短く刈り込んだ髪の毛、キリッとした太い眉、ギュッと結んだ口元、座っていても分かるくらいがっしりとした体つき。目線は落ち着きなく、周囲をうかがうようにキョロキョロと動いていた。


「正統派のイケメンだね」


「私のお眼鏡にも適ったわ」


キャサリンとエンジェルは顔を見合わせて頷き合う。


「お気に召したようね。それでは紹介してあげるわ」


セレスティーナは先導して奥のテーブルに向かう。近づく気配にその冒険者は顔を上げた。


「確か、テオドールくんだったよね。この子たちが一緒に冒険に行きたいって言うの。いかがかしら?」


テオドールと呼ばれた冒険者は、二人をチラチラと見る。人見知りなのか、なかなか目を合わせようとしない。それでも挫けずにキャサリンは依頼の内容を説明した。


「報酬は安いんだけど……」


キャサリンの声が小さくなる。テオドールはしばらく考え込んでいたが


「良いだろう。私も駆け出しゆえ、経験を積みたかったところだ」


と快諾してくれた。キャサリンとエンジェルは手を取って喜びあう。


「私はキャサリンです。よろしくね」


「アタシはエンジェル。よろしく」


「それじゃ一人目はこれで決定ね。もう一人は……」


セレスティーナは再び店の中を見回す。その時


「なんか面白そうな話してるじゃん、オレも混ぜてよ」


と一人の青年が割り込んできた。長めの髪を後ろに流し、シュッとした顔つきをしている。その目はらんらんと輝いていた。


あまりの気安さにエンジェルは手で追い払おうとしたが、キャサリンを見ると目がハート型になっている。


「イケメンがもう一人……パラダイスだわ」


「アンタ、顔さえ良ければ人柄はどうでもいいのね」


セレスティーナが、その青年に事情を説明する。テオドールが引き受けたことを伝えると


「じゃあ、オレもやりまーす。エリオットっていうんだ。よろしくな」


と自己紹介をして右手を差し出す。すかさずキャサリンが握り、エンジェルとテオドールもためらいがちに握り返した。


「それじゃ、パーティー結成の記念に飲んでいかない? 最初の一杯はおごってあげるわよ」


セレスティーナの言葉に全員が同意する。キャサリンとエンジェルはお腹が空いていたので料理も頼んだ。一通り注文を終えるとセレスティーナは


「お父さ~ん!」


と通る声で父親を呼ぶ。すぐに大柄の男性がカウンターの奥から店に出てきた。どうやら、この店のマスターらしい。弛んだ顎に、でっぷりとしたお腹。調理しているからか、シャツはところどころ汚れている。


「キャー、国宝級のイケメンだわ」


「イケメン? 眼医者に行った方がいいよ?」


キャサリンには、どこがイケメンなのかさっぱり分からない。


「何、言ってるのよ。欲をすべて手放した者だけが到達できる、究極のだらしなボディ。手入れなんて一切なし、なのに全身が奇跡のバランスで成り立ってるわがままボディ。しかも、本人が無自覚なのが、また罪なのよねぇ……」


けなしているのか褒めているのか分からないエンジェルの言葉に、セレスティーナはこめかみをピクピクさせる。


「やめてくれよ。俺はそんな趣味ねぇんだ」


とマスターは全力で首を横に振る。エンジェルはそれでも挫けずに


「あら、こっちの世界にくれば今の百倍はモテるわよ」


と誘惑する。


「冗談じゃねぇ、俺はのんびり料理してる方が性に合ってるんだ」


マスターは胸を張る。その仕草さえ、エンジェルをときめかせていることには気づいていない。


「そんなに気に入っていらっしゃるなら、うちのマスターにも何か奢ってくださると嬉しいですわ」


セレスティーナはおどけて微笑んでみせる。


「ハイハイ、国宝級のイケメンに一杯だけよ」


とエンジェルはマスターに向けてウインクを投げた。マスターは渋い顔をして受け止める。


「さあさあ、おしゃべりはこれくらいにして料理お願いね」


セレスティーナはマスターの背中を押して、カウンターの中へ入っていった。


「あー、もったいないわね」


とエンジェルはため息をつく。キャサリンは苦笑いするしかなかった。


ふと、テオドールとエリオットを見ると、二人で親しげに話している。いや、正確にはエリオットが一方的に話していて、テオドールが戸惑いながら相槌を打っている。その様子はあまり楽しそうに見えない。


ここは私が入らなきゃ、とキャサリンは会話に加わる。テオドールはホッとした顔を見せたが、エリオットが一瞬睨みつけたのをエンジェルは見逃さなかった。


(あら、もしかしてこの子……)


エンジェルの疑念が確信に変わるのに、そう時間はかからなかった。

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