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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第2話:“普通”なんて自分で決めるものですわ!

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12.泣いてもいいんだよ

結局、ユリウスはレクサスによって無罪放免となった。ネトラーネの方針は相変わらずだが、少なくともユリウスを責める者は誰もいなかった。


キャサリンたちは灯台のある防波堤で旅立ちの準備をする。問題が解決した以上、ネトラーネに居続ける理由は無かった。


エンジェル、テオドール、エリオットの三人が準備を終える中で、キャサリンだけが遠くを見つめていた。視線の先にはミュリエルとユリウスがいる。


何を話しているかまでは聞こえない。それでも、二人の笑い声が風に乗って届くと、キャサリンの胸がきゅうっと締めつけられた。


(ああ……やっぱり、私のことなんて最初から眼中に無かったんだ……)


本当はずっと分かっていた。あのキスは、一瞬の嘘。それでも信じたかった。夢を見たかった。


そっと涙を拭うキャサリンの後ろから、エンジェルが気づかぬふりで肩を抱いた。


「大丈夫よ。世間にはまだまだイケメンがいるわ」


キャサリンがこくりと頷く。テオドールとエリオットも寄り添った。


「片想いって、つらいよな。でも……想った分だけ、人は優しくなれるんだ」


「いっぱい泣いて、また笑えばいい。オレたちは、ずっと一緒だからさ」


再び振り向いた時のキャサリンは満面の笑みを浮かべていた。精一杯の強がりに三人の胸が痛む。


「みんな、大好きだよ!」


気づけば四人で泣いていた。それぞれが誤魔化すように誰かを冷やかそうとするが、涙が止まらない。キャサリンはあらためて「仲間っていいなぁ」と思うのだった。



ノズルクへ向かう馬車の中で、四人は言葉も交わさず、黙ったままでいた。テオドールとエリオットは肩を寄せ合って眠っている。キャサリンは懲りもせず、窓の外を眺めていた。エンジェルはそんなキャサリンを優しく見守る。


「ねぇ、どうしてミュリエルさんは、石板に書かれていた名前を“ユルゲン”に変えたのかな?」


「レクサスを守りたかったのよ。彼の地位とか名誉とか。だから、ユルゲンの過去もでっち上げたんでしょ」


「え? あれも嘘なの?」


「そうよ。そんな何百年も昔に花と戯れていたり、音楽を愛していたりしたなんて、知る由もないじゃない。あれだってレクサスの過去だと思うわ」


エンジェルの洞察力にキャサリンは感心する。


「どうして、そこまでしてレクサスを守りたかったのかな」


「そりゃ、もちろん……まだ愛しているからじゃない?」


キャサリンの脳裏に、仲睦まじく寄り添っていたユリウスとミュリエルの姿が蘇る。


「あの二人、幸せになれるといいね」


「アンタもね」


何故だか分からないが、二人とも自然に笑いがこぼれた。


「恋愛なんて一筋縄じゃいかないのよ。この二人がうらやましいくらいだわ」


そう言って、エンジェルはテオドールとエリオットを指差す。


「エンジェルも“推し”さんと結ばれると良いね」


「いいのよ。アタシは遠くから見ているだけで幸せだわ」


「今頃、風鳴亭でくしゃみしてたりして」


「じゃあ、確かめに行くわよ!」


俄然、元気になったエンジェルを見て、キャサリンはもう一度笑った。

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