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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第1話:想いは口にしないと伝わらないですわ!
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3.キャサリン、冒険に出なさい

サファイアは落ち着き払って椅子に座り、エンジェルが淹れたお茶に口をつける。その向かいでキャサリンは申し訳なさそうに体を縮めていた。


「別に、私はむやみに怒っているのではありません。あなたを落ちこぼれにしたくないから、あえて厳しくしているのです。分かりますか?」


「ごもっともです……」


「そろそろ、あなたには冒険に出てもらわなければいけませんね」


「冒険?」


サファイアの唐突な提案に、キャサリンは思わず身を乗り出していた。


「誰かの依頼を引き受けて、ノズルクの外へ冒険に行くのです」


「でも、それって冒険者の仕事じゃ……」


「キャサリン・グレイスウッド!」


「は、はい……」


サファイアの厳しい声が飛ぶ。


「いいですか。錬金術とは実践の学問です。机の上で覚えた知識だけでは、何一つ役に立ちません」


「でも、私……ノズルクの外に出るのは、まだちょっと怖いというか……」


「だからこそ、です。あえて不安を乗り越え、自分の力で考え、選び、行動する。そうして初めて、あなたの調合にも“魂”が宿るようになるのですよ」


「魂……」


なんだかスケールの大きな話になってきて、キャサリンは眩暈がしてきた。


「このノズルクにもあなたにぴったりの“初心者向けの依頼”がいくつか来ています。難易度も低めで、報酬はそれなり。そして何より、あなたにしか向かない案件もあるのです」


「つまり、今が冒険に出るチャンスってことよねぇ」


エンジェルが口を挟む。


「そうです。現場での経験を積むのが、あなたの成長に何より必要なのです。キャサリン、覚悟を決めなさい」


どうやら、キャサリンに拒否権は無いらしい。戸惑いながらも、キャサリンはエンジェルに視線を向けた。


「一緒に行ってくれるよね……?」


「もう仕方ないわね。アタシも刺激が欲しかったところだし、付き合ってあげてもいいわよ」


「やったー! だから大好き」


そう言って、キャサリンはエンジェルに抱きつく。それを見て、サファイアは咳込んだ。


「そうと決まったら、さっそく依頼主のところへ行ってもらいましょうか」


「依頼主って、もう決まっているのですか?」


「ええ、こちらをごらんなさい」


サファイアがテーブルに広げた依頼書を、キャサリンとエンジェルは覗き込む。ずっと引き受けてくれる冒険者が見つからなかったのか、ところどころ色あせている。


「年季入ってるわね、これ……もしかして、アタシたちが最後の希望?」


エンジェルが顔を顰めた。キャサリンも苦笑いする。


そこに書かれていたのは「月影の記憶(ルナ・メモリア)」と呼ばれる魔法細工のブローチを探してほしいという依頼だった。お世辞にも報酬は良くない。腕利きの冒険者なら跨いでしまうだろう。


「月影の記憶はヤンパインの森にあるそうです。初めての冒険にはちょうど良いでしょう?」


ヤンパインの森はノズルクの南にある。鬱蒼とした森であり、住民たちが足を踏み入れることは滅多にない。


「でも、あそこってクマが出るんじゃ……」


エンジェルが不安を口にする。


「だからこそ、冒険者を雇うのです。二人も雇えば十分でしょう」


この報酬を四人で割ると、一人あたりの取り分は微々たるものだ。


「誰か雇われてくれるかしら?」


エンジェルがキャサリンを見ると、一人だけ別世界に入っていた。


「じゃあ、イケメンの冒険者と知り合える絶好の機会なのね?」


「はぁ? アンタ、何考えてるのよ」


「だって、こんな時でなければイケメンと知り合えないでしょ? 店に来るのはおじさんばかりだし」


「おじさんの価値が分からないなんて、かわいそうね」


エンジェルは蔑むような眼差しでキャサリンを見る。サファイアの視線も冷たい。


「とにかく依頼主に会って、詳しい話を聞きなさい。成長の第一歩は、扉を叩く勇気からですよ。依頼主が住んでいるのは……」


サファイアが言う住所を、キャサリンは頭で覚えようとしている。エンジェルはやれやれと代わりにメモを取った。

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