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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第2話:“普通”なんて自分で決めるものですわ!

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6.恋のフラグは突然に

啖呵を切ってみたものの、他に石板を見るアイデアが無かったキャサリンは、途方に暮れてネトラーネの町を彷徨っていた。いつのまにか潮の香りが強くなり、顔を上げると灯台のある防波堤が見えた。歩き疲れて腰を下ろす。


「これから、どうしよう……」


キャサリンはため息を漏らした。


その時、背後から声がかかる。


「おいおい、女の子が一人で何してるんだい?」


振り返ると、粗末な服を着た中年の男たちが三人立っていた。顔は陽に焼けて真っ黒で、昼間から酒を飲んでいたのか、足元がふらついて呂律が回っていなかった。


「べ、別に、散歩しているだけですけど……」


キャサリンは素っ気なく答える。


「へぇ、よそ者だな。ネトラーネに観光か? 案内してやってもいいんだぜ?」


「いえ、結構です」


立ち去ろうとするも、一人が行く手を塞ぐ。


「まぁまぁ、ちょっとくらい世間話でもしようじゃないか……」


男の手が肩に伸びかける。キャサリンが、かばんの中の爆弾に手を伸ばしたその時だった。


「俺の彼女に何をするんだ?」


涼やかでよく通る声が響く。


キャサリンが振り向くと、日差しを背に受けて一人の青年が立っていた。整った顔立ちにパッチリ見開いた目、スラッとしたその姿にはどこか気品が漂っていた。


「げっ、ユリウス……! わ、分かったよ、すまねぇ!」


男たちは手を引くと、さっさとその場を立ち去った。


「……え? あの、彼女って……?」


キャサリンはイケメンの言葉に戸惑ってみせる。


「そうでも言わないと港の連中は引かないからね」


青年は微笑んだ。キャサリンはポッと頬を赤らめる。


「君、俺の家に来た子だよね。ずっと追いかけてきたんだ」


「“俺の家”って、まさか……」


「そう、俺はユリウス。町長の息子さ」


大したことでもないかのようにユリウスは言う。


(ハイスペックイケメン……)


キャサリンは頭の中でファンファーレが鳴り響くのを感じた。


「どうして追いかけてきたの?」


「う~ん、どうしてだろうね。君が父さんに追っ払われたからかな」


キャサリンは先ほどのやり取りを見られたことが恥ずかしくなる。


「あの……ネトラーネの“シソ”って誰なんですか?」


「あー、“ユルゲン・ヴィネルト”だね。俺の先祖さ。父さんは心酔してるんだ。“私と似てる”ってね」


ユリウスは視線を落とした。


「でも、いい迷惑さ。そいつが“男は男らしく、女は女らしく”って言い出したんだからね」


「あら、あなたは反対なの?」


「うん、だって俺は男が好きだから」


思いがけないユリウスの告白に、キャサリンは誰かに聞かれていないかキョロキョロ辺りを見回す。


「大丈夫? ネトラーネでそんなこと言ったら追放されちゃうよ?」


「大丈夫さ。おかげで父さんからは“成人したのに彼女さえ作らないバカ息子”って言われるけどね」


ユリウスは肩を竦める。


「父さんは“力こそ正義”だって主張するけど、俺はそんな考え方、大嫌いなんだ。それって野蛮で粗暴なだけだろ?」


キャサリンは同意するように頷く。確かに彼女も苦手なタイプだった。


「しかも、男が泣いたり悩んだりするのは恥とされる。そんなの、苦しむ人を余計に追い詰めるだけだ」


ユリウスの熱弁に、キャサリンの脳裏にはエンジェルやテオドール、エリオットの顔が浮かぶ。


「私の仲間にもね、色んな人がいるんだけど、それを“当たり前”だって思っていたかも……。こんなに辛い想いをしている人がいるなんて知らなかったよ。ごめんね」


「別に謝らなくてもいい。君がそう言ってくれるだけで、ちょっとは救われるよ」


ユリウスの言葉に、キャサリンはホッとしたように笑った。潮風が二人の間を吹き抜け、港のざわめきが少しだけ遠のいて聞こえる。


「ねぇ。もし良かったら、一緒に俺の家に入ってみないか?」


「でも、さっきは追い返されたし……」


「だったら、俺の“彼女”ってことにしよう。そう言ったら港の連中も引いてくれたからね」


キャサリンは戸惑ったように視線を泳がせたが、次の瞬間、悪戯っぽく微笑んだ。


「“彼女”かぁ……上手に振る舞えるかな?」


「俺の方が君に惚れたってことにしようよ。こう見えても演技は得意だからさ」


二人は小さく笑い合った。


「私、キャサリン。よろしくね」


そう言って、キャサリンが差し出した右手が、ユリウスにしっかりと握られる。そこには、秘密を共有した者同士の親密な空気が生まれていた。

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