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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第2話:“普通”なんて自分で決めるものですわ!

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5.いざ、ネトラーネへ!

翌朝早く、キャサリンたち一行とミュリエルは、コルピポを出発してネトラーネへ向かった。最初は和気あいあいと言葉を交わしていたが、ネトラーネへ近づくにつれて、すれ違う人たちの視線が冷たいことに気づく。


特にエンジェルの言葉や仕草、テオドールとエリオットの近すぎる距離には目ざとく反応した。小さな子どもが親に「見ちゃいけません」と手を引かれて去っていく。


「話には聞いてたけど、ひどいものね」


エンジェルがミュリエルに囁く。


「これでもまだマシな方さ」


「つくづく、ノズルクって自由な街だと思うよ」


エリオットが感慨深そうに言う。


「私たちは、その自由を当たり前だと思ってはいけないな」


テオドールが自分を戒めるように呟いた。


どれくらい歩いたのか。左に曲がる手前でミュリエルが立ち止まる。


「ここを曲がるとすぐにネトラーネへ入る門がある。残念ながら我々はここまでしか来れない」


「大丈夫。必ず石板の文字を写してきますね」


キャサリンは気丈に振る舞う。本当は怖がっているのが、長年そばにいたエンジェルの目には分かった。


「必ず日没までには戻ってくるのよ。もし何かあったら、アタシたちが助けに行くからむやみに動き回らないこと」


「もう、エンジェルは心配性だな……」


おどけたように笑うキャサリンに、いつものように絡めない自分が、エンジェルはもどかしく感じた。せめて抱きしめて安心させる。テオドールとエリオットは今にも泣きそうな顔をしながら、キャサリンの手を握った。


「じゃあ、行ってきまーす!」


キャサリンは手を振って、曲がり角の向こうに消えていった。



ネトラーネはノズルクよりも田舎であり、町の中心部にたどり着いても家並みはまばらで長閑だった。


ただ、町の至るところには「家族とは男女であるのが普通!」とか「誇りを守ろう!健全な町ネトラーネ」とか看板が掲げられていて、異様な雰囲気を醸し出していた。


道を行く男たちは、誰もがあの四人とは正反対で、男性的である。それは髭や短髪、筋肉といった分かりやすい男らしさではなく、風鳴亭のマスターを彷彿とさせる無自覚な男らしさだった。エンジェルがそばにいなければ、キャサリンは気づけなかっただろう。


庁舎はすぐに見つかった。要塞のような石造りの建物。入口ではクレームをつけにきた老人と門番の男たちが争っている。あまりにもの野蛮さにキャサリンは身の毛がよだちそうになった。


町長の家は棟続きになっていて、この辺りでは立派な豪邸である。ご丁寧に「同性愛者お断り」という札まで貼ってあった。やはり入口には大柄な門番の男が立っている。キャサリンはおずおずと声をかけた。


「あの~」


「なんだね、お嬢さん」


ギロリと睨みつけるような眼差しに、キャサリンは思わず後ずさりする。だが、ここでくじけている場合ではない。


「私、石板を見に来たんです。中に入れてくれますか?」


門番はいかにも面倒そうに片眉を上げると、キャサリンを上から下まで値踏みするように見つめてきた。


「一人で来てるようだが、恋人は? 旦那さんは?」


「いませんけど……」


「ん? それじゃ条件を満たしていないじゃないか?」


キャサリンは言葉に詰まる。


「えーと、別に女の子一人でもいいじゃないですか?」


「それなら、本当に“健全な恋愛”をしてるか、ちょっとテストしてみようか?」


門番は舌なめずりをする。


「たとえば、オレと手でもつないでみるとか……」


キャサリンは門番の顔をまじまじと見つめる。その強面はエンジェルのお眼鏡になら適いそうだが、キャサリンは違う。


「すみません。私、顔にうるさいので」


「ちっ、最近の娘は見かけで人を判断しやがって!」


門番が悔しそうな声を上げる。キャサリンが肩を竦めると、中から「何事だ」と声が聞こえて、門番より少し背の低い男が現れた。


「こ、これは、レクサス様。申し訳ございません。この娘が生意気なことを言うもんで……」


レクサスはキャサリンを見やる。権力者ならではの鋭い眼光に、キャサリンは足が震えそうになるのを必死でこらえた。


短く刈り込んだ髪、蓄えられた髭、よく鍛えられた厚みのある上半身。そしてパッチリと見開いた潤んだ瞳が印象的だった。


「わ、私、石板が見たいんです」


キャサリンは勇気を振り絞って訴える。


「何のために?」


「そ、それは、考古学に興味があるからで……」


「ならば、ネトラーネの始祖は誰か答えてみよ」


レクサスの問いかけに、キャサリンは頭をフル回転させる。


(シソ? 紫蘇に名前なんてあるのかしら?)


「えっと……大葉さん?」


レクサスはしばらく思案顔でいたが


「この女を追い返せ!」


と言い残して去っていった。後に残されたキャサリンは唖然として門番と顔を見合わせる。門番はニヤニヤしながら


「お嬢さん。実は裏ルートってやつもあるんだぜ。もちろん、条件付きだがな」


と意味深な交渉をしてくる。頭に血が上ったキャサリンは


「結構です!」


と啖呵を切って踵を返した。

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