2.石板の解読、条件つき
数日前、キャサリンたち一行は、酒場「風鳴亭」の看板娘セレスティーナから、ある冒険を紹介されていた。
「これが依頼書なんだけど、コルピポに住む考古学者からよ」
「コルピポって、どこ?」
キャサリンがエンジェルに小声で尋ねる。
「やーねぇ。コルピポって言えば、東の港町“ネトラーネ”の手前にある集落じゃない」
「寝取られ?」
キャサリンの、おそらくは悪気のない間違いにセレスティーナはこめかみをピクピクとさせた。
「ネトラーネ! ”レ”じゃなくて“ネ”よ。そこのところお間違いなく!」
エンジェルも容赦なく突っ込む。セレスティーナは挫けずに話を続けた。
「ネトラーネでは最近、古代の文字が刻まれた石板が見つかったの。けれども、町長の家に保管されているみたいで、誰でも簡単に見られないみたいだわ」
「その考古学者が自分で見に行けない理由って何なのかしら?」
エンジェルは腕を組んで考え込む。その間にテオドールと依頼書を見ていたエリオットが疑問を口にした。
「この“ただし、男女の恋人同士か夫婦に限る”って、どういう意味だろう?」
その言葉にキャサリンとエンジェルは依頼書を覗き込む。
「あら、アタシたちは該当しないじゃない」
ゲイを公言しているエンジェルに、男同士で相思相愛のテオドールとエリオットは対象外だった。
「じゃあ、俺が“コレ”と一緒に行って来ようかな」
いつの間にカウンターから出てきたのか、マスターがニヤニヤしながら小指を立ててそばにいる。
セレスティーナは若干キレ気味に
「お父さんは料理でも作っていてちょうだい!」
と無理やりカウンターの中に押し込んでしまった。
「“コレ”がいるんだって、残念だね」
キャサリンはエンジェルに向かって小指を立てる。
「あら、色気がある男は彼女の一人や二人いても不思議じゃないわ。却って、攻略し甲斐があるってものよ」
「その前向きなところ、私たちも見習いたいよ」
テオドールが感心したように呟いた。
「それはさておき、この依頼、引き受けてみる?」
セレスティーナは四人の顔をうかがう。全員がしばらく考え込んでいたが
「受けまーす」
とキャサリンが手を挙げた。
「“受けまーす”って、もし石板を見られなかったら無駄足になるわよ?」
エンジェルが呆れたように言う。
「そんなの行ってみないと分からないよ。もしかしたら、何か事情があるのかもしれないし」
「そうだな。とりあえず話を聞いてみる価値はあるんじゃない?」
エリオットも同意する。当然、テオドールも同意した。
「仕方ないわね。もしお金にならなくても、後で文句を言うんじゃないわよ」
エンジェルも渋々と同意した。
結局、一行は三日後に出発することになった。その間にキャサリンが“素直に想いを伝えられる薬”を作りたいと言い出したのである。
「だって、隠し事されたら真相を解明できないでしょ?」
「そうね。この話、何か裏がありそうだわ」
男たちが不安げに顔を見合わせる。キャサリンだけが好奇心で胸をわくわくさせていた。




