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ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第2話:“普通”なんて自分で決めるものですわ!

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1.素直になれる薬、作りますわ!

「さぁ、後はこれを入れたら完成ね」


キャサリンは何やら怪しげな黒い粉を入れて、大鍋の中身をかき混ぜる。それをエンジェル、テオドール、エリオットの三人が不安そうな面持ちで見守っていた。


「ちょっと、爆発させないでよね。アタシたちまで巻き込まれたら、堪ったもんじゃないわ」


エンジェルがわざとらしく怯えてみせる。


「大丈夫だよ。今回はしっかり手順も確認したし、材料も手元に揃えたんだから」


「その大丈夫が、絶対とは限らないのが、アンタの恐ろしいところよ」


テオドールとエリオットも同意するように頷く。


「どうやら、完成したようね。ほら、爆発しなかったでしょ?」


キャサリンは嬉しそうに微笑んで、大鍋の中身をビーカーに注ぐ。それは、限りなく黒に近い紫色だった。途端に男たち三人の顔が蒼ざめる。


「誰か試してみない?」


キャサリンの顔はあくまでも無邪気だ。三人はそれぞれ“おまえが飲め”と目配せする。


その時、表で馬車が停まる音が聞こえた。全員の視線が工房の扉に集中する。


「キャサリン・グレイスウッド!」


いつものようにサファイアが威勢よく入ってきた。けれども、キャサリンが真面目に調合しているのを見て、面食らったような顔をする。


「ちょうど良かった。先生、飲んで!」


キャサリンはにこにこしながらビーカーを差し出す。サファイアは顔を引き攣らせながら後ずさりした。


「こ、これは何ですか……」


「“素直に想いを伝えられる薬”ですよ」


「うっ……」


色も然ることながら、匂いも強烈である。サファイアは後ずさりを続けたが、壁際まで追い詰められてしまった。男たちはニヤニヤして助けてくれそうになりない。


「ゴホン……キャサリン、そういうのはまず作った貴方が試すものですよ」


ね?とサファイアは男たち三人に同意を求める。殺気のこもった眼差しに彼らは大げさなくらい頷いてみせた。


「えー、材料を知ってるからイヤだな……」


と言いつつも、キャサリンはゴクリと飲み干した。他の全員がホッと胸を撫で下ろす。


しばらくは何の変化も無かったが、突然キャサリンはエンジェルの顔を見つめた。


「エンジェル、今日もイケメンだね! 髪型が素敵!」


「帽子を被っているのに、どうして分かるのかしら?」


続いてテオドールを見た。


「テオドール、今日もイケメンだね! 特に声が素敵!」


「それって見た目の話じゃないよな?」


そして、エリオットにも目を向ける。


「エリオット、今日もイケメンだね! その変な服が素敵!」


「せめて“おしゃれ”って言ってくれないか?」


キャサリンは、最後にサファイアの方も向いた。何を言われるのか、恐怖で顔が強張っている。


「サファイア先生、今日もお美しいですね! 年齢より若々しいメイクが素敵!」


「……なるほど。“年相応ではない”ということですね」


一体、何が起こっているのか、誰もがキャサリンの一挙一動に注目する。ふと我に返ったかと思うと


「あら、お世辞を言う薬になっちゃった」


と不思議そうな顔をするので、全員がずっこけた。


「キャサリン・グレイスウッド!」


サファイアの説教は小一時間ほど続いた。もちろん、本心でもないのに「美しい」と言ったことも含めて。


「まったく……。何のためにそんな薬を作ろうとしているのですか?」


「今度の冒険に持っていきたいんです」


「私が尋ねているのは“使い道”です」


「想いを伝えられなくて苦しんでいる人を助けてあげたいんです」


そう言ってキャサリンはテオドールとエリオットを見る。二人は前回の冒険のことを思い出して顔を赤らめた。


「想いを伝えることが必ずしも幸せとは限りませんよ」


サファイアはキャサリンをたしなめる。


「そうかな……」


「そうですとも。黙っている方が良い場合だってあるのです」


「あとちょっとで完成するのにな……」


「アンタ、サファイア先生の話、聞いてなかったわね?」


エンジェルは突っ込むが、キャサリンは難しそうな顔をしていた。


「……伝えなきゃ始まらないこともあると思うの」

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