1.素直になれる薬、作りますわ!
「さぁ、後はこれを入れたら完成ね」
キャサリンは何やら怪しげな黒い粉を入れて、大鍋の中身をかき混ぜる。それをエンジェル、テオドール、エリオットの三人が不安そうな面持ちで見守っていた。
「ちょっと、爆発させないでよね。アタシたちまで巻き込まれたら、堪ったもんじゃないわ」
エンジェルがわざとらしく怯えてみせる。
「大丈夫だよ。今回はしっかり手順も確認したし、材料も手元に揃えたんだから」
「その大丈夫が、絶対とは限らないのが、アンタの恐ろしいところよ」
テオドールとエリオットも同意するように頷く。
「どうやら、完成したようね。ほら、爆発しなかったでしょ?」
キャサリンは嬉しそうに微笑んで、大鍋の中身をビーカーに注ぐ。それは、限りなく黒に近い紫色だった。途端に男たち三人の顔が蒼ざめる。
「誰か試してみない?」
キャサリンの顔はあくまでも無邪気だ。三人はそれぞれ“おまえが飲め”と目配せする。
その時、表で馬車が停まる音が聞こえた。全員の視線が工房の扉に集中する。
「キャサリン・グレイスウッド!」
いつものようにサファイアが威勢よく入ってきた。けれども、キャサリンが真面目に調合しているのを見て、面食らったような顔をする。
「ちょうど良かった。先生、飲んで!」
キャサリンはにこにこしながらビーカーを差し出す。サファイアは顔を引き攣らせながら後ずさりした。
「こ、これは何ですか……」
「“素直に想いを伝えられる薬”ですよ」
「うっ……」
色も然ることながら、匂いも強烈である。サファイアは後ずさりを続けたが、壁際まで追い詰められてしまった。男たちはニヤニヤして助けてくれそうになりない。
「ゴホン……キャサリン、そういうのはまず作った貴方が試すものですよ」
ね?とサファイアは男たち三人に同意を求める。殺気のこもった眼差しに彼らは大げさなくらい頷いてみせた。
「えー、材料を知ってるからイヤだな……」
と言いつつも、キャサリンはゴクリと飲み干した。他の全員がホッと胸を撫で下ろす。
しばらくは何の変化も無かったが、突然キャサリンはエンジェルの顔を見つめた。
「エンジェル、今日もイケメンだね! 髪型が素敵!」
「帽子を被っているのに、どうして分かるのかしら?」
続いてテオドールを見た。
「テオドール、今日もイケメンだね! 特に声が素敵!」
「それって見た目の話じゃないよな?」
そして、エリオットにも目を向ける。
「エリオット、今日もイケメンだね! その変な服が素敵!」
「せめて“おしゃれ”って言ってくれないか?」
キャサリンは、最後にサファイアの方も向いた。何を言われるのか、恐怖で顔が強張っている。
「サファイア先生、今日もお美しいですね! 年齢より若々しいメイクが素敵!」
「……なるほど。“年相応ではない”ということですね」
一体、何が起こっているのか、誰もがキャサリンの一挙一動に注目する。ふと我に返ったかと思うと
「あら、お世辞を言う薬になっちゃった」
と不思議そうな顔をするので、全員がずっこけた。
「キャサリン・グレイスウッド!」
サファイアの説教は小一時間ほど続いた。もちろん、本心でもないのに「美しい」と言ったことも含めて。
「まったく……。何のためにそんな薬を作ろうとしているのですか?」
「今度の冒険に持っていきたいんです」
「私が尋ねているのは“使い道”です」
「想いを伝えられなくて苦しんでいる人を助けてあげたいんです」
そう言ってキャサリンはテオドールとエリオットを見る。二人は前回の冒険のことを思い出して顔を赤らめた。
「想いを伝えることが必ずしも幸せとは限りませんよ」
サファイアはキャサリンをたしなめる。
「そうかな……」
「そうですとも。黙っている方が良い場合だってあるのです」
「あとちょっとで完成するのにな……」
「アンタ、サファイア先生の話、聞いてなかったわね?」
エンジェルは突っ込むが、キャサリンは難しそうな顔をしていた。
「……伝えなきゃ始まらないこともあると思うの」




