19.冒険の後に乾杯を
風鳴亭は今日も酔客と冒険者で賑わっていた。打ち上げをしていた四人もつられて大声になる。
「今回の冒険はアタシの活躍のおかげね」
「えー、月影の記憶を輝かせたのは私だよ」
「おだまり! 煙玉と爆弾を間違えた癖に」
「今ここで言わなくても、シクシク……」
とキャサリンは泣き真似をする。その反対側ではテオドールとエリオットが相変わらず仲睦まじそうに肩を寄せていた。
「テオドールにはすっかり助けられたな」
「いや、私はエリオットがいたから最後まで戦えたのだ」
二人は顔を見合わせて笑う。そこにキャサリンとエンジェルが入り込む余地はまったく無かった。
「次の冒険はどうするおつもりですの?」
酒と料理を運んできたセレスティーナが尋ねる。
「ねぇ、みんなどうする?」
キャサリンが身を乗り出して三人の顔を見る。
エンジェルは「面倒よ。また付き合うなんて」と毒づいたが、その顔はまんざらでもなさそうだった。
テオドールは「お嬢さまの望むところなら、どこへでもついて行くぞ」と頼もしいことを言ってくれる。
エリオットは「テオドールがいくなら、オレも行くよ」と、みんなの見てる前でその腕にしがみついた。テオドールはポリポリと頭を掻く。
「それなら、ちょうどいい依頼があるのよ」
セレスティーナが意味ありげに微笑む。
「えっ、どんな依頼?」
キャサリンが目を輝かせた。
「東の港町でね、古代文字の刻まれた石板が発見されたらしいの。でも誰も解読できなくて困っているみたいよ」
「それって……私たちの出番じゃない?」
「そうかもね。腕試しにはぴったりかも」
キャサリンの言葉にエンジェルが頷く。テオドールとエリオットも興味をそそられたように顔を見合わせた。
「じゃあ次の冒険も決まりだね!」
キャサリンが勢いよく席を立ったその時。
バァン!
酒場の扉が勢いよく開かれた。
「キャサリン・グレイスウッド!」
張りのある声が響き渡る。
振り向くと、サファイアが仁王立ちをしていた。その目は怒りに燃えている。
「は、はい!?」
キャサリンが背筋をピンと伸ばす。
「冒険の報告は本日夕刻までと言ったはず! なのに、どうしてあなたはここでのんびりしてるのですか!」
「ま、まだ日が暮れただけで……その、ほんの数分……」
「言い訳無用! これは教育的指導です!」
店内の誰もがそっと視線を逸らす中、エンジェルはすでにカウンターへ移動し、マスターに色目を使っている。マスターは苦虫を噛み潰したような顔で相手をしていた。テオドールとエリオットは仲良く耳元で何か囁き合い、完全に二人だけの世界。
「ちょ、ちょっと誰かぁ~。助けてぇぇぇ!」
キャサリンの叫び声が、風鳴亭の天井を突き抜けるように響き渡った。




