表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロイン志願ですけど、男同士の恋愛(ボーイズラブ)を応援しますわ!  作者: 石月 主計
第1話:想いは口にしないと伝わらないですわ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/32

17.後悔が終わるとき

ノズルクの街に入った四人は、風鳴亭を通り過ぎて、西の郊外にあるヴィンセントの家へ向かう。たどり着いたのは夕暮れが迫る頃だった。


扉を開けると、中の空気がひんやりとしている。寝台ではヴィンセントが毛布をかけて横たわっていた。


「ヴィンセントさん……大丈夫ですか?」


キャサリンが寝台まで近づくと、顔色のすぐれないヴィンセントがゆっくりと笑った。


「戻って来てくれたんだね。ありがとう……」


その声からは具合の悪さが伝わってきた。


キャサリンは月影の記憶を取り出し、そっとヴィンセントの手のひらに乗せる。窓から差し込む夕陽を浴びて、赤く煌めいていた。


ヴィンセントの目に光が宿り、涙がこぼれ始める。


「ありがとう……アリオスとの思い出が蘇るようだ」


愛おしげに握りしめて、胸に押し当てる。


キャサリンは道中で起こった奇跡を話した。ヴィンセントは感慨深そうな表情を浮かべて、何度もしきりに頷く。そして


「儂もアリオスの想いを受け止めていたら、未来は変わっていたのかもしれないな」


と自嘲気味に笑う。後悔とも諦めともつかない横顔。エンジェルがその肩にそっと寄り添った。細くて今にも折れそうな肩。


「これが報酬だ。少ないかもしれないが、みんなで分けると良い」


ヴィンセントは枕元の袋を指差す。キャサリンが遠慮がちに手に取ると、ずっしりと重い。そう感じるのは初めての冒険を終えたからなのか、今さらながら依頼の重さを痛感しているからなのか。


ヴィンセントは苦しそうに胸を押さえる。次第に呼吸も荒くなってきた。


「お医者さんを呼びますか?」


キャサリンの申し出をやんわりと断る。


「大丈夫じゃ。儂はもう思い残すことは何もない」


「でも……」


「アタシが残るわ」


エンジェルが名乗りを上げた。


「アタシなら、いざという時に回復魔法が使えるし」


他の三人も残りたそうな顔をするが、エンジェルの気迫に帰らざるを得なかった。


「もし何かあったら、私たちを呼んでね」


キャサリンは気遣わしげにエンジェルを見た。


「大丈夫よ。アンタはぐっすり眠って明日に備えなさい」


エンジェルは、テオドールとエリオットを見やる。


「お二人さんはお幸せに」


二人はもじもじしながら俯く。エンジェルはフッと笑って扉を閉じた。



夜が更けようとしていた。キャサリンは寝台の上で大の字になり、深い眠りに落ちていた。


どれだけ外で音がしても、月が明るく部屋を照らしても、目を覚ます気配はない。まるで、重圧から解放された子どものようだった。


テオドールとエリオットは、ひとつの寝台で身を寄せ合っていた。互いの温もりを確かめ合いながら、言葉少なに微笑みを交わす。安堵と幸福と、少しの照れ臭さが混ざり合う、静かな夜の時間だった。


その一方で、エンジェルはただ一人、ヴィンセントの枕元に寄り添っていた。次第に弱々しくなっていく呼吸。回復魔法はもはや効力を示さず、エンジェルは見守るしかできなかった。


「……アリオス、迎えに来てくれたのか」


ふと、うわごとのようにヴィンセントが呟く。エンジェルは辺りを見回すが、人の気配は無い。


「あの日、おまえの想いに気づけなかったこと、森の中へ置き去りにしたこと、今でも後悔しておる。それでも許してくれるのかい?」


エンジェルはヴィンセントの手を両手で包み込む。ヴィンセントは満足そうな笑みを浮かべ、それっきり何も言わなかった。


「バカね……。そんなに長い間、一人で背負い込まなくても良かったのよ」


エンジェルの目から、とめどなく涙が流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ