13.あと一歩の勇気
キャサリンは、たいまつで地面を照らしながら、目を凝らした。後ろを歩くテオドールも注意深く辺りを見渡す。
「……こんなに暗いと、ちょっとした光でも目立つはずだよね」
キャサリンが、足元の草をかき分けながら言った。
「ああ。何か反射してないか、よく確認しないとな」
テオドールの声は落ち着いていたが、どこか張り詰めたものを感じさせる。
「……ねえ、テオドール。あの、さっきはありがとね。お守りの話のとき、“仲間”って言ってくれて」
「……礼を言われるようなことじゃないさ」
「でも、なんか嬉しかったよ。そういう風に思ってくれてるんだなって」
テオドールは、わずかにうつむきながら歩みを進めた。
「……最初は、ただの仕事だと思ってた。でも、気づいたら……いつの間にか、大切な人を守りたいと思ってる自分がいた」
キャサリンはその横顔をそっと見上げる。どこか寂しげな目をしていた。
「特に、エリオット……でしょ?」
ぴたりとテオドールの足が止まる。
「……分かるよ。すごく、分かる。あの人、なんていうか……放っておけないよね」
しばらくの沈黙のあと、テオドールが小さく笑った。
「……あいつ、気は強いけど本当は臆病だ。俺とは……似てるんだと思う」
「だったら、ちゃんと伝えてあげたら? テオドールの気持ち」
「……それができたら、苦労しない」
「うん、そうだよね。でもね」
キャサリンは月の光を仰ぎながら、柔らかく笑った。
「想いは口にしないと伝わらないよ」
その言葉に、テオドールは何かを飲み込むように息を詰まらせた。
*
暗闇の中、エリオットとエンジェルは少し距離を置きながら、地面や茂みに視線を走らせていた。
「……ねえ、エリオット」
「なにさ、集中してるのに。何か光った?」
「違うわ。あんたの顔に書かれているのよ」
「……え、何か書いてある?」
エリオットは両手で顔をペタペタと触った。
「“気まずいです”って文字が浮かび上がってるわ」
エンジェルが片眉を吊り上げてニヤリと笑う。エリオットはため息まじりに肩を竦めた。
「……そんなに分かりやすいかな、オレ」
「分かりやすいっていうか、見てるこっちがムズムズするのよ。ねえ、そんなに逃げてばっかで、後悔しない?」
「……逃げてるつもりなんか、ないけどさ」
「じゃあ何? 言いたくないの? それとも……言って、傷つくのが怖いの?」
エリオットの手が、わずかに止まった。
「エンジェルって、なんでそう……えぐるようなこと、さらっと言うんだよ」
「経験よ。私も黙ったまま終わったことがあるから」
その一言に、エリオットが初めてエンジェルの方をまっすぐ見た。
「……そうなんだ」
「でもね。言わなかったことをずっと後悔してるの。だから決めたわ。“怖くても口にする”って」
エリオットは黙ったまま、目線を地面に落とす。夜の静寂の中で、彼の喉がゴクリと鳴った。
「……怖いよ。本当のことを伝えたら、嫌われるんじゃないかって」
「じゃあ、一つ言っておくわ」
エンジェルが一歩、エリオットに近づく。たいまつの炎が二人の顔を明るく照らした。
「“怖い”って言えるのは、アンタが彼を大事に思っている証拠よ」
エリオットの瞳が少しだけ揺れる。
「……言えるかな、オレ」
「大丈夫。今の顔で言えば、きっと全部、伝わるわよ」
エンジェルの言葉に、エリオットはこくりと頷く。はにかんだ笑顔には、キラリと涙が光っていた。




