12.守りたいもの
森の奥へ進むほど、道は険しくなり、ごつごつとして歩きづらくなっていた。四人とも荷物を背負っているせいで、足取りはどんどん重くなる。
エンジェルでさえ珍しく口数が少ない。けれどキャサリンが気になっていたのは、テオドールとエリオットが、相変わらず目を合わせようとしないことだった。まるで、どちらかが先に声をかけられるのを待っているかのように。
ようやく森の最深部にたどり着く頃には、夕陽が木々の隙間から赤く差し込んでいた。
「もう、クタクタだわ……」
エンジェルがどっさりと地面に腰を下ろし、両脚を投げ出す。
「でも、いい運動になったでしょ?」
キャサリンが笑顔で声をかけると、エンジェルはうんざりとした顔を向ける。
「アタシたちはね、運動じゃなくて“冒険”をしてるの。お忘れなく」
「だったらマスターも連れてくれば良かったね。ちょっと痩せて素敵になったかもよ?」
「やだ、それじゃ魅力が半減しちゃうわよ。ふくよかだからこその推しなのに」
そんな軽口が飛び交い、自然と笑い声がこぼれた。今日になって、四人でこうして笑ったのは初めてかもしれない。
「このあたりに月影の記憶があるのかなぁ……」
キャサリンがふと辺りを見回す。だが、それらしきブローチは見つからない。
「あのおじいさんの話では、この辺りに落としたってことだったわよね。獣とか魔物とかに持っていかれてなければ……」
「満月の光で輝くんでしょ? だったら、夜を待つしかないね」
キャサリンが空を見上げる。幸い、雲一つない晴天だった。まるで、四人に味方してくれているかのように。
*
焚き火を囲んで、空に浮かび始めた満月をぼんやりと見上げながら、キャサリンがぽつりと呟いた。
「ねぇ……月影の記憶って、なんだかお守りみたいだよね」
その言葉に、皆の視線がブローチのありかを探すように動いた。まだ見つかっていないけれど、確かにどこかにあるはずと誰もが信じていた。
「願いを叶えてくれるわけじゃないけど、なんか……持ってると気持ちが強くなるっていうか」
キャサリンの言葉に、誰からともなく頷きが返ってくる。
「ふーん。じゃあ、アンタは何を守りたいの?」
エンジェルが問いかけると、キャサリンは少しだけ考えてから笑顔を見せた。
「うーん……“想いが届く瞬間”かな。誰かだったり自分だったり。そういうのって、尊いでしょ?」
「……アンタらしいわね」
エンジェルは肩を竦めたが、どこか優しい目をしていた。
「俺は……“自由”かな」
エリオットが手元の矢を弄びながら、ぽつりと呟く。
「誰かに決められたくないし、誰かのために自分を偽るのも嫌だ。……だから、自分で決めて、自分で守りたい」
「それって……カッコいいな」
キャサリンが素直な感想をこぼす。
しばらく沈黙が落ちたあと、今度はテオドールが静かに口を開いた。
「私は……“仲間”かな」
「仲間?」
キャサリンが尋ね返すと、テオドールは焚き火を見つめたまま続けた。
「昔は一人で戦っていた。仕事でも、日常でも。けれども、こうして一緒に旅をして……やっと“誰かを背中で守る”ってことの意味が分かってきた気がする」
「……テオドール」
エリオットが視線を向ける。テオドールは照れ臭そうな笑顔を見せた。
「じゃあアタシは、“推し”かしらね。……ふふ、笑うとこじゃないわよ」
とエンジェルがニヤニヤしながら加わった。
「“あの人”の佇まいとか、ぶっきらぼうなところがね。アタシのお守りみたいなもんなの。……守りたいって思うし、失いたくない」
エンジェルの言う“推し”が誰なのか、みんな分かっていたが、茶化しはしなかった。ただ、焚き火の音と虫の声の中、みんながそれぞれの思いを胸に抱いていた。
キャサリンは思う――
(月影の記憶が見つかって、みんなが幸せになってくれるといいなぁ)
「そろそろ、いい頃合いじゃない? 月影の記憶を探しに行きましょう」
エンジェルが先に立ち上がって、他の三人も後に続いた。
二手に分かれると効率が良いだろうという話になり、キャサリンとテオドール、エンジェルとエリオットでペアを組む。
「いい? 何かあったら大声で叫ぶのよ。聞こえたら、もう片方はすぐに駆け寄るように」
エンジェルの言葉を合図に、四人は暗闇の中、月影の記憶を探し始めた。




