10.背中合わせの夜
日が傾き、森の中が淡い茜色に染まる頃。四人は先ほど休憩した小さな空き地へと戻ってきた。
「ここにテントを張りましょう。火も起こさなきゃ」
エンジェルが手際よく枝を集め、魔法で火を起こすと暖かいオレンジの光が周囲を照らす。キャサリンは慣れない手つきでテントを広げようとするが、どうにも形にならない。
「も〜、どうしてこれ、こんがらかってるの?」
「貸してごらん」
テオドールがさりげなくテントの布を整え、支柱を立てる。
「やっぱりテオドールは頼りになるね〜!」
キャサリンが笑顔で手を合わせようとするが、横でエリオットが軽く咳払いをしたのに気づいて、慌てて手を引っ込めた。
焚き火を囲んでの簡単な夕食は、干し肉とパン、それからエンジェルが煮込んだ薬草スープ。森の夜は冷え込んていたが、火のそばなら暖かい。
「ふう……やっと落ち着いた感じね」
「意外と楽しかったかも。まあ、獣は怖かったけど」
キャサリンは毛布にくるまりながら、ぼそりとつぶやく。
「今日の見張り、誰が最初?」
エンジェルの威勢の良い声が響いた。
「オレとテオドールでいいよ。交代で見張るから、おまえたちは先に寝てくれ」
エリオットが焚き火に小枝をくべながら答える。
「そうね。アタシは魔法を使って疲れたし、この子も眠そうだもの」
エンジェルは軽く肩を竦め、キャサリンを促してテントへ向かった。
火を囲んで、テオドールとエリオット、二人きりの時間が流れた。
しばらくは薪の爆ぜる音だけが響く。やがて、エリオットが口を開いた。
「……なあ、テオドール」
呼びかけにテオドールは顔を向ける。戦闘中とは打って変わって、穏やかで柔らかだった。
「おまえって、どんなのが……タイプなんだ?」
「……いきなりだな」
「いいじゃん、暇だし。……変な意味じゃないよ。ただ、ちょっと気になってさ」
テオドールはしばらく黙っていたが、やがてぽつりとこぼした。
「……自分を引っ張ってくれる相手、かな。強くて、でもどこか優しい……そんな人に惹かれるんだ」
エリオットの笑みが、一瞬だけ強張った。
「へえ、意外。おまえ、引っ張る側だと思ってた」
「私は……体が大きいから、そう思われやすいだけだ」
そう言って目を逸らすテオドール。その仕草に、エリオットはどこか複雑な表情を浮かべた。
「オレもさ……似てるかも」
「似てる?」
「うん。甘えられる人がいいって思ってた。強くて、どっしり構えてて、頼れて……そういう人に憧れてたんだ」
沈黙が落ちる。火の粉がふわりと舞い上がり、夜空に溶けていった。
どちらからともなく交わした視線が不安に揺れる。何か話したいのに、うまく言葉にならない。
そのやりとりを、テントの隙間からキャサリンはそっと覗いていた。
「じれったいね」
「仕方ないわよ。お互い、相手に“ないものねだり”してるんだもん」
「私は何ができるのかなぁ……」
「それは冒険が終わってから考えましょ」
エンジェルは早々に寝息を立てる。キャサリンはもう少し見守っていたかったが、睡魔に襲われて、いつしか眠ってしまった。




