1.錬金術師キャサリン
「――あっ!」
小さな爆発音とともに、工房の開け放った窓からは白い煙がもくもくと噴き出した。
調合用の釜の前でしゃがみこんでいたキャサリンは、焦げた前髪をはたきながら、何度目かのため息をつく。
顔をしかめても存在感のある大きな目。瞳の色はブルーだ。腰まで伸びたブロンズの髪が朝日を浴びて煌めいている。
「ねえ、キャサリン。朝から爆発って、アンタの目覚まし代わりかしら?」
煙の向こうから、つま先で床を軽く鳴らしながらエンジェルが現れた。いつもどおり腰に手を当て、呆れ顔でこちらを見下ろしている。
「今日こそ上手くいくと思ったのに……なんで? 分量合ってたはずなんだけどなぁ……」
「その“はず”が、まったく当てにならないのがアンタよ。材料入れる前に寝ぼけてなかった?」
「そ、そんなことないよ!」
「前にもやったじゃないの、あの時はアンタの顔が真っ黒になったわね」
「ぎゃー! もう言わないで、あれは忘れて! お願いっ!」
キャサリンは駆け出しの錬金術師。アカデミーで基礎を学び、実践を兼ねて工房を構えたものの、何かを初めて作る時は必ずと言っていいほど失敗していた。
「この調子じゃサファイア先生に、また怒られるわね」
エンジェルからサファイアの名前を聞いて、キャサリンはビクッと体を震わす。
アカデミーにいた時は毎日のように怒られた記憶しかない。もちろん、工房を構えてからもしばしば店に来ては、怒られてしまうのだが。
「そもそも、アンタは手当たり次第に物を置くから、いざという時に使う材料を間違えるのよ。ちゃんと整理整頓しなさい」
エンジェルはどこまでも厳しい。容赦なくキャサリンの痛いところをついてくる。きっと幼馴染ゆえの気安さからだろう。
黒いマントに身を包み、黒い三角帽子を被ったその顔はまだあどけない。けれども、口から吐き出す言葉は毒舌ばかりだった。
「男のくせに毒ばっかり吐いてたら、いつまでも彼氏できないよ〜」
「アンタも、そんなにずぼらだと彼氏はできそうにないわね」
そう言って、エンジェルは箒を手に取り、飛び散ったものを片付け始める。キャサリンもまた何か言われる前に片付けを手伝った。