第四章:着ぐるみたちの、まじめな肝試し
ある夜、廃校の中庭に集まった着ぐるみたち。
クマノスケが深刻そうな顔(表情は変わらない)で、静かに語った。
「最近……人間たち、廃校に近づかなくなってきてる」
「えっ、それって…私たちが怖がられてるってこと…?」
「えっ、怖いの?わたしたち!?」
「いやいや、ふわふわのうさぎとか、猫とか、怖いわけないじゃん!」
「……というわけで!」
ラビラビがバッと腕を広げる。
「肝試しで、“怖がられるってどういうことか”を体験してみようの会、始めまーす!!」
「えっ、私たちがやるの!?」
「うん!怖がられる存在として、心構えが必要だから!」
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そして始まる、“逆・肝試し大会”。
教室を暗くして、キャンドル風ライトを灯し、
みんなが順番に「怖い着ぐるみ演技」を披露する。
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「ぐおおおお……私は…かつてこの校舎で…忘れられた…体育祭マスコットォ……」
クマノスケの低い声に、みんな(演技として)キャー!
「わたしは…お昼休みの時間が終わっても…ずっと…ずーっと…給食を食べていた……ネコだ……」
「みけ、それただの食いしん坊だよ!」
「うさぎの耳…ひとつなくなったら…もう誰か分からない…誰か、わたしを…名付けて……」
「ラビラビ、なんか文学っぽくて逆に怖い…!」
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最後に、図工室の奥に設置された“おばけ部屋”に、1匹ずつ挑戦することに。
だけど入るたびに…
「うわっ、ここ…鏡がいっぱい…」
「…ねぇ、今そこに映ったの、ほんとに自分だけだった?」
「えっ…なにそれ…言わないでよ…ほんとに怖くなってきた……」
だんだんと、“怖がらせ役”のはずの着ぐるみたちが、自分たちの影にびびり始める。
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結果:
全員が肝試しを終えたあとは、ぐるっと輪になってキャンドル囲んでほっと一息。
「結論としては…」
「…わたしたち、怖がられるの、向いてないね」
「うん。やっぱり、笑われる方が好きだなぁ…」
みんなでしんみりしていたそのとき。
遠くの体育館のドアが――**ぎぃ…**と、ひとりでに開いた音がした。
「……ねぇ、誰かいたっけ?」
「……わたしたち、全員ここにいるよね…?」
着ぐるみたちは、そろって振り返った。
……
……
……その夜だけ、誰も“ふざけた声”を出さなかった。
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オチ:
翌朝、七海が来てみると、
体育館の入り口に、小さな紙が貼られていた。
《きょうはきゅうぎじょうきんし こわいのいた byクマノスケ》