第二話:放課後きぐるみ談話室
ある日の放課後。
人の気配がなくなった旧校舎の、3年1組の教室。
「……やっと静かになったなぁ」
と、誰かが大きく背伸びをした。
声の主は、クマの着ぐるみ“クマノスケ”。長年、体育倉庫の隅にいたベテラン。
「お昼の授業中、ずっと黒板の後ろで立ってたんだからね。背中がムズムズしてたよ〜」
と嘆くのは、ネコの着ぐるみ“みけ”。毛並みがふかふか、だけどおしゃべりが止まらない。
「そもそもなんで君は黒板の後ろなんかにいたのさ」
「だって昨日、校長先生が夢に出てきて、『後ろで反省してなさい』って…」
「夢にまで出てくるのか、校長……」
窓のそばでは、ウサギの“ラビラビ”が教卓に座って、ポップコーンをぽりぽり食べていた。
「今日は誰か来ると思ったんだけどなー。七海ちゃん、最近忙しそうだよね」
「語る者、っていうのも、大変そうだもんねぇ」
「でもさ」クマノスケがぽつりと言った。
「話してくれるって、うれしいもんだよな。語ってもらうと、なんか、くすぐったいけど、あったかい気持ちになる」
「そうそう! 私なんか、昔の持ち主の子が“おねしょしちゃった話”まで語ってくれたんだから!」
「それは語らなくてよかった話では…?」
着ぐるみたちは、笑った。
誰かの思い出をまとって、ずっと待っていた。
でもこうして、誰もいない教室でおしゃべりする時間も――わるくない。
そのとき、廊下のほうから「ぽてっ…ぽてっ…」と足音。
扉が、そっと開いて――ひょこっ、と顔を出したのは、タヌキの“ポンタ”。
「お〜い、今日のおやつ会、忘れてないよね?」
「わすれてないよー! ポップコーンは用意してあるし、あと、ラムネもある!」
「…あとクッション用に、蒼真の体操服、勝手に借りといた!」
「それはバレたらまずいって!」
きぐるみたちだけの、ひみつのおしゃべりとおやつ会。
今日もまた、廃校のどこかで、小さな“きぐるみの夜”が始まっていた。






