3話 フィールド解放 ☆
裏社会のボスのような、闇の王冠をかぶったアバターがあらわれた。
Lv :3
ATK:7
DEF:7
HP :3
召喚権を使って無条件に召喚できるのはLv2以下のみ。Lv3以上は条件を満たさなければ召喚できない。今召喚された<闇の支配者 ビッグファーザー>の召喚条件が、同種族のLv1に重ねる、だということは深慧にもわかった。が、SARウインドウで検索をかけてもあんなカードは見つからない。すべてのカードはリアライズ公式サイトで公開されているはずなのに。<チャレンジ・フィールド>は登録されていたが、<デス・フィールド>なんてものはなかった。
「アタックフェイズ開始時、ビッグファーザーの効果。自分の場にほかのアサシンがいなければ、自分に1ダメージ与えられる。そうしたら自分のトラッシュからアサシン1枚を召喚」
ダメージエリアからトラッシュに落ちていた<暗器使いのジョニー>が両用エリアに蘇生された。自分のカードによってダメージをうけたので、<デス・フィールド>の下に4枚目のカードも置かれる。
秀はゆがんだ笑みをうかべた。遊真の残りライフは6。ジョニーとビッグファーザーの攻撃でフィルタがめくれなければ死は確定する。フィルタがきても<デスサイズ>でとどめを刺せる。
「終わりだ。ジョニーで直接攻撃」
「攻撃宣言時にインタラプト起動」
遊真のかざしたカードが光った。
「相手とじゃんけんして、勝てばLv2以下のアバター1枚をスリープさせる」
「またじゃんけんか」
遊真は笑っていた。
「じゃんけん」
秀も表情をゆがめながら手をだした。
「ぽん」
遊真はチョキ、秀はパー。
攻撃の準備をしていたジョニーの足元にバナナの皮があらわれた。
「<そこ、バナナの皮落ちてるよ>」
遊真がプログラムを唱えた。
するとジョニーがすっ転んだ。頭を強打したジョニーは目をまわす。
チャレンジカウンターが2枚になる。
「だがビッグファーザーで直接攻撃」
秀の言葉にしたがってビッグファーザーが動きだす。HP3の攻撃が遊真を襲った。
【遊真ライフ6→3】
攻撃可能な秀のカードは<デスサイズ>のみ。そのHPは2。遊真の残りライフは3。このターンでは決めきれない。そう考えた秀は直接攻撃をやめ、<村人A>を破壊した。
「ターンエンド」
秀:手札2、E2。
遊真のアバターは全滅させられた。なのに。
秀は遊真をねめつけた。
「なんでそんな顔ができる」
遊真の瞳は、子どものように輝いていた。
「スタートフェイズ。ドロー、Eチャージ&ドロー」
遊真:手札3、E2。
「メインフェイズ。起動、<リトライ!>。Eを1払い、トラッシュからLv2のチャレンジャーを手札に加える」
<村唯一の医者>が手札にもどった。
「そのあとじゃんけん」
「またか」
「勝てばLv1のチャレンジャーを蘇生できる」
両者が構えた。
「じゃんけん、ぼん」
遊真はパー、秀はチョキ。
「だああ負けたああ」
そのリアクションをみて、秀は無自覚に失笑をこぼした。
「でも<チャレンジ・フィールド>の効果。1ターンに1度だけ、じゃんけんをやりなおせる」
水色と橙色のフィールドが輝いた。
「じゃんけん」
秀もこぶしをふるい、
「ぽん」
遊真はパー、秀はグー。
「よっし。<村人A>をオッドに召喚」
チャレンジカウンターが3枚になる。
「もういっちょ起動、<かかったな!>。じゃんけんに勝てばアバターを1枚破壊できる」
いやそうな顔をしながら秀も構える。
そのようすを深慧は無表情に見下ろしていた。
「じゃんけん、ぽん」
遊真はチョキ、秀はパー。
バナナの皮で転んだショックからようやく回復してきたジョニーだったが、目覚めて周りを見まわしていた矢先に、串刺しになって破壊された。
4枚目のチャレンジカウンターが加わる。
「イーブンに召喚、<村唯一の医者>。アタックフェイズで直接攻撃」
医者の2ダメージが入るも、
「フィルタ起動、<影から現れる影>。手札からアサシンを召喚できる。パリティに召喚、<影隠れのシャドウ>」
【秀ライフ6→5】
「<村人A>でアタック」
スリープしていないアバターはガーディアンになる。ガーディアンがいるかぎりプレイヤーは攻撃されない。シャドウが秀に背中をむけ、村人の前に立ちふさがった。
『とりゃあ』
村人の目をつむった投石が奇跡的に命中。暗殺者は粒子となって散った。
「<チャレンジソード>の攻撃時、相手とじゃんけんする。勝てばHP+1。じゃんけん、ぽん」
遊真はグー、秀はパー。
「むぅ。もうやりなおせないもんなぁ」
さっき<リトライ!>でフィールド効果は使っている。2ダメージの斬撃をあびせた。
【秀ライフ5→3】
デッキの上から1枚が<チャレンジ・フィールド>の下に置かれた。
「これでチャレンジカウンターが5枚」
<チャレンジ・フィールド>が煌めく閃光を放つ。
「フィールド解放」
フィールドカードが裏返った。
「<チャレンジマスター・フィールド>」
5枚のチャレンジカウンターが遊真の前にうかんだ。
「カウンター5枚のうち、2枚を手札に加えて、3枚をEチャージ」
秀は、自分のなかに生じていた感情を抑えた。それを怒りに塗り替えていく。
「……邪魔するな、おれの再起を」
「リアライズはひとりでやるものじゃない。だれかといっしょに笑うためのものだよ」
「笑うのは勝ったやつだけだ。勝てなきゃ意味がない」
「ぼくも敗けてばっかだったよ」
遊真は笑みを咲かせた。
「でもぼくは、リアライズが大好きだ」
「それはおまえが強いからだ。弱いやつは奪われるしかない。なにもかも奪われる。強いやつがすべてを手にいれる。強者は弱者をふみつけていることにも気づかない」
「……無自覚にふみつけられる悲しみはわかるよ」
「お、おまえになにが」
「ずっと近くに強い人がいたんだ。みんなあの人のことばっかりで、ぼくは、あの人のことがきらいだった。いなくなればいいって思ったこともあった」
視線がまじわる。
「だけどその前に、悲しいことは悲しいって、相手に伝えなきゃわかんないよ」
秀は表情を硬くする。
「つ、伝えてもわかるわけがない、強者に弱者の気持ちなんて」
「わからないのは、気持ちを伝えてないからだったんだよ。うまく伝わらなかったら、そのときは、思いっきりけんかすればいい」
遊真が微笑んだ。
「そしてそのあと、いっしょにリアライズするんだ。笑いあうための相互理解を」
秀の脳裏に思い出が吹き抜けた。
友だちといっしょにリアライズをした記憶。
光輝とも幼いころから何度も対戦してきた。
あのころは純粋に楽しんでいた。
変化がふりかかったのは中等部から。
少しずつ実力差がひらいていき、プレイヤースキルより経済力が重要になった。周りから自分だけが置いていかれた。嫉妬から攻撃的になり、みんなと遊ぶのがつらくなっていった。
「エンドフェイズ」
前みたいにリアライズを楽しみたい。
でも、実力差がひらいて楽しめなくなった。
さみしかったんだ。
みんなと対等になりたい。いっしょに遊びたい。
むかしみたいに笑いあいたい。
……そう、伝えられていたら。
秀は、またみんなで笑いあう光景を幻視した。
成早光輝の瞳から光が失われていく。その胸には暗殺者の短剣が刺さっていた。
秀の足もとに水滴がこぼれ落ちた。
「Eを4払い、ダメージ4枚を裏返してSPにする」
フィールドカードの下に3枚まで裏向きで置いておけるスキルカードは、5枚のカウンターをためてフィールド解放しなければ使えない。そのうちの1枚が遊真の手にあらわれた。
「ブラスタースキル発動」
遊真がさけんだ。
「幻想を爆ぜろ、<オーバーヒート>」
スキルカードから幾何学的な轟炎が放たれた。秀のデッキの上から1枚ずつめくられ、フィルタでなければダメージエリアにいく。3枚目で合計ダメージが10枚になった。
【秀ライフ3→0】
『ゲームエンド。勝者は新遊真』
審判者が宣言すると、闇の保護結界が粒子となって崩壊していく。同時に秀の結界装置も砕け散り、なかに入っていたカードも消失した。