2話 チャレンジャーVSアサシン ☆
ゲーム同好会には3人しか在籍していない。
深慧は中等部からのメンバーだった。ほかのふたりは高等部と大学部の先輩である。
リアライズのガチ勢が多いこの学園で、エンジョイ勢ですらないゲーマーは絶滅危惧種なのだ。
サークル棟2階の部室に今はふたりきり。自作の高性能メガネをかけた大学部生が深慧に笑いかけた。
「ARを使った新感覚ゲームを考案したのだよ。ゆくゆくはこの学園都市全体を舞台にするため、リアライズとも融合させて全校生徒に広めたいがね。しかし今はまだ開発途中でね、ひとまず高等部校舎での試験運用を頼みたいのだが」
「いいですよ。西条さんのゲーム楽しみだし」
「美鈴ちゃんとよんでくれてもいいんだぜ」
「インストールどうすればいいですか」
「おそろしく自然なスルー。ボクでなきゃ泣いちゃうね」
大学部の西条美鈴に頼まれ、こうしてひとけのない廊下を歩いていたのだが。向かいの廊下に遊真を見つけた。なにかをさがしているような。不安そうに。焦っているような。
やみくもに歩くだけだったし、どうせならついていこうと考え、小走りであとをつけた。
そして、辻崎秀と対峙するすがたを目撃した。
「<チャレンジ・フィールド>」
遊真は水色と橙色の保護結界。
相手は影のような黒い保護結界。
「<デス・フィールド>」
どちらもきいたことのないフィールド名。公開されている保護結界をダウンロードし、インストールしただけの模倣結界でなく、深慧と同じく自分自身で設計した創成結界だろうか。
OARウインドウに互いのフィールドカードの初期状態が表示された。
<チャレンジ・フィールド>
【ライフ10/手札5/E0】
<デス・フィールド>
【ライフ10/手札5/E0】
両者のあいだにピエロのようなマスコットキャラがあらわれた。OARの審判者AIだ。
『きしし』
審判者が笑うと、その両目玉がスロットのようにまわりはじめた。回転が止まったときには、左右の目に互いのプレイヤー名と先攻後攻が表示されていた。
『先攻は新遊真』
遊真の結界装置のロックが解除されて光った。
「スタートフェイズ。Eチャージ&ドロー」
遊真:手札5、E1。
先攻はドローできないが、手札から1枚をEに変換すれば、代わりに1枚ひける。
「メインフェイズ。オッドに召喚、<村人B>」
アバターを召喚できる場は3つある。
奇数エリア。偶数エリア。両用エリア。
遊真からみて左側の場に、女の子アバターが召喚された。
Lv :1
ATK:3
DEF:3
HP :2
カードのステータスがOARに表示される。
「アタックフェイズ。<村人B>で直接攻撃」
『えいっ』
あまり強そうではないパンチが秀にHPの数値分のダメージ与えた。秀のデッキの上から2枚がダメージエリアに置かれる。
【秀ライフ10→8】
残り8ダメージで遊真の勝ち、と拓磨は祈るようにつぶやく。
「ターンエンド」
遊真:手札4、E1。
エンドフェイズ終了後、相手ターンのスタートフェイズに移る。
「スタートフェイズ。ドロー、Eチャージ&ドロー」
秀:手札6枚、E1。
「メインフェイズ。オッドに召喚、<闇の初任務 フェーヴル>」
暗殺者が召喚された。
Lv :1
ATK:1
DEF:1
HP :3
Lv1でHP3か、強いな、と深慧は思う。
後攻でも召喚権はターン1だが、
「装備デバイス接続、<デスサイズ>」
秀の右手に黒い大鎌があらわれた。
ATK:5
HP :2
「こいつのコストは自身に1ダメージだが、<デス・フィールド>の効果を発動。自分ターン中、自分のカードによって自分がダメージをうけるとき、1ターンに1度だけ、ダメージを1軽減できる」
コストを軽減した。ダメージは2のまま。
「自分のカードによって自分がダメージをうけたとき、デスカウンターを+1」
デッキの上から1枚が<デス・フィールド>の下に入った。
「えっ」
遊真が声をこぼした。
「ダメージうけなかったのに」
「<デス・フィールド>は自分のカードによるダメージを自分がうけなかったら、ダメージをうけたことにできんだよ」
秀が答えた。
「アタックフェイズ。フェーヴル、直接攻撃」
若い暗殺者が駆けだした。
投擲された短剣が、遊真に3ダメージ与えた。
【遊真ライフ10→7】
「<デスサイズ>でも直接攻撃」
秀自身が遊真に鎌をふりおろした。ダメージエリアにカードがいく。
1ターン目でもう半分けずられた。深慧がそう思ったときだった。
ダメージ計算で2枚目にめくれたカードが輝いた。
「フィルタ召喚」
遊真がそのカードを手にした。
「<村唯一の医者>」
偶数エリアに白衣を着た褐色肌の医者があらわれた。
Lv :2
ATK:3
DEF:6
HP :2
デッキに12枚までいれられるフィルタカードは、ダメージ計算時にめくれたら即時発動できる。
【遊真ライフ7→6】
フェーヴルのダメージ計算時にめくれていれば<デスサイズ>の追撃をしのげていた。タイミングが悪かったな。深慧はそう考えたが、遊真は笑っていた。
「なに笑ってやがる」
秀が顔をゆがませる。
「あと6ダメージでおまえは死ぬんだぜ」
死ぬ。その言葉はよく使われるが、今のは言葉どおりの意味に聞こえた。深慧は怯えた表情の宇野拓磨を見やる。ただのカードゲームを観戦しているようには見えない。なにが起きている。カードゲームに勝った相手を物理的に殺せるとでも。まさか。それなら遊真があんなふうに笑えるはずが。
「カードゲームは楽しまなくちゃ」
遊真は秀に笑いかけた。
「いっしょに楽しもうよ、リアライズ」
「……ターンエンド」
秀:手札4、E1。
ターン終了宣言したプレイヤーの結界装置はロックされる。逆にターン開始時、スタートフェイズ前に遊真の結界装置のロックは解除された。
「スタートフェイズ。ドロー、Eチャージ&ドロー」
遊真:手札5、E2。
「メインフェイズ。パリティに召喚、<村人A>」
男の子アバターが、ほかのふたりとならんだ。
Lv :1
ATK:5
DEF:1
HP :2
「Eを1払って接続、<チャレンジソード>」
遊真の手にも装備デバイスがあらわれた。
ATK:5
HP :2
「アタックフェイズ」
アバター3枚と装備デバイス、フル盤面で遊真の攻撃がはじまる。
「<村人A>で直接攻撃」
『とりゃっ』
秀に2ダメージ入るが、ダメージカードが輝いた。
「フィルタ起動、<闇からの一閃>」
医者を黒いもやが覆い、刃に切り裂かれて破壊された。
「自分に1ダメージ与え、ATKかDEF3以下のアバターを1枚破壊」
起動後、使ったカードはトラッシュにいき、事実上ダメージを回復できるが、その効果でダメージを喰らったのでプラマイゼロとなった。
【秀ライフ8→7→6】
自分のカードによってダメージをうけたので、デッキの上から1枚がデス・フィールドの下にいく。
「<村人B>で直接攻撃」
『えいやっ』
2枚がダメージに加わる。今度はフィルタなし。
【秀ライフ6→4】
遊真はチャレンジソードをもって駆けだした。
「<チャレンジソード>の攻撃時、相手とじゃんけんする。勝てばこの攻撃中のHP+1」
「じゃんけんだと」
互いの手が発光した。
遊真は剣を左手にもちかえ、秀も大鎌を床に突き立てた。
審判者がじゃんけんBGMを流す。
「じゃんけん、ぽん」
遊真がパー、秀がグー。
「よっしゃ。3ダメージ」
「インタラプト起動、<デスシールド>」
死神の鎌が現象化し、HP3の攻撃をふせいだ。
「攻撃を無効化。さらに自分のダメージが3以上なら1回復、6以上ダメージがあればもう1回復」
秀のダメージエリアから2枚がトラッシュにいった。
【秀ライフ4→6】
「むぅ」
遊真はもとの位置にもどった。
「じゃんけんしたとき、チャレンジカウンターを+1」
デッキの上から1枚が<チャレンジ・フィールド>の下に入った。
「ターンエンド」
遊真:手札3、E1。
「ドロー、Eチャージ&ドロー」
秀:手札4、E2。
秀が手札から1枚をかざした。
「起動、<闇からの一閃>。自分に1ダメージ与え、<村人B>を破壊」
村人の女の子が影刃に斬られて粒子となって散った。
「<デス・フィールド>の効果でダメージ軽減」
ダメージは増えず、デスカウンターは3枚に増えた。
秀は続けてカードをかざした。
「コストにEを2払い、召喚条件でLv1のアサシンの上に重ねる」
フェーヴルが二次元化し、今から召喚されるカードの下に入った。
「レベルアップ」
奇数エリアに深い闇が渦巻いた。
「いでよ、Lv3、<闇の支配者 ビッグファーザー>」