表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/53

49話 リアライズしよう

 めいが祐田を拘束した。

 久莉栖のウインドウに着信が入る。<デス・フィールド>が消え、通信が回復したのだ。着信履歴には母親ばかりがならんでいた。今の着信も母からである。

 ひと息ついてから応答する。


「はい」


《あなた、いったいなにをしていたのですか。私がどれほど連絡したと思って》


「お母様、ご要件は」


《親にむかってなんですか、そのいいかたは》


「なにか要件があったのでは」


 感情的になっているのを自覚したような間があった。


《……あれはどういうことです》


「あれとは」


《切札大祭の映像を観ました。あなたが使っていたのは<デス・フィールド>でしたね。あれがいったいどのようなものかわかっているのですか》


「私はあやつられていたようです。記憶は失われていますが、その件に関わっているとおぼしき生徒をたった今、拘束しました。風紀委員会でさきの事件との関連性や、背後にいる組織についても調べるつもりです」


《なにをいっているのですか。カルティアの名に泥を塗るような失態をさらしておきながら、これ以上学園にいられると思っているわけではないでしょうね》


「思っていますよ。自分の学費は自分で払えますし、ここは生徒たちの特別自治区ですから、いくら榎家でも私を退学させることはできません」


《家の支援なしでやっていけるとでも》


「やっていけますよ。私には、親友と盟友がいますから」


《久莉栖、退学しないというのならば、あなたを榎家から除名しなければなりませんね》


「それでかまいません」


《なっ》


「この学園に入れてくださったことには感謝します。おかげで大切な人に出逢えました。ありがとうございます。そしてごめんなさい。私は私の道をゆきます。カルティアとは無関係な私として生きていきます」


《ほ、本気でいっているのですか》


「私はもう、過去や他人にしばられることはやめたんです。もし自由と引き換えに除名されるのであれば、あまんじてそれをうけいれましょう」


《ちょ、ちょっと待ちなさい。だれにそそのかされたのですか。そんなことをして》


「お母様、最後にこれだけはいわせてください」


 そういって久莉栖は満面の笑みをたたえた。


「子離れしろや、粘着クソババア」


《なっ、なな、なんですって》


「いつもそう思っていました。それでは」


《親にむかってなんて口のきき》


 久莉栖は通話をきり、相手のアカウントをブロックした。


 これできっぱり終わったわけではないだろう。

 けれど、過去の呪縛は断ちきれた。

 今からやっと、あたらしい未来にむかって歩いていける。





 秋休み明け。

 眼帯をとった深慧は、教室でクラスメイトに囲まれていた。

 彼ら彼女らをひとりでさばくのは不可能だったが、塩対応の深慧に対して、明るく対応してくれる遊真のほうに人が流れ、護衛役みたいになっている拓磨の助けもあって嵐をしのげた。

 準優勝したことで有名になり、高等部生以外にも話しかけられるようになってしまった。しばらくはひとりで廊下を歩くこともできない。

 机のなかにラブカードが入っていることもあった。


「またか」


 昼休み、それを見つけてため息をこぼす。


「なんだよ、せっかくラブカードもらったのにため息とかついちゃって」


 拓磨がやってきた。


「顔も知らないやつから一方的によびだされるのがうれしいのか、おまえは」


「うれしいだろ。それがラブカードなら」


 大げさにため息を吐いてやる。


「決闘だろうが告白だろうがどうでもいいし、相手の都合にあわせていってやる義理はないよな」


「いかなかったら悪評流されるけどな。あと断りかたも気をつけないと」


「……ラブカードでよびだすとか、相手の気持ちをいっさい考えずに自分の気持ちを押しつける行為だろ。閉鎖的なコミュニティではこれを無視すれば悪影響になる。それがわかっているなら性格悪いし、無自覚ならなお悪質だ。こんなことをする人間は好きになれない。会ったことはないが、すでにうっすらきらいだな」


「辛辣ぅ」


「こっちの時間を奪っておいて好かれると思ってるほうがどうかしてる」


「遊真もラブカードもらってんだろ。いい子おらんの」


 よばれて遊真もやってきた。


「ぼくもそういうのはいいかな。好きな人いるし」


 深慧と拓磨は目をまるくした。


「え、好きな人いるっていった?」


「うん」


「マジで。え、だれ」


 遊真はめずらしく口ごもり、声をひそめた。


「大学部の四条さん」


「えーあー。そういう好きだったの?」


「まあ」


 ふたりのやりとりをきいて、なぜか深慧の脳裏には久莉栖の顔がうかんだ。


「そうだ、深慧」


 遊真がこっちをむいた。


「午後の月例試験、くるよね」


 投げかけられて深慧は笑った。


「ああ。いくよ」


 そういって結界装置(デッキケース)をかざす。


「リアライズしよう」

これでいったん完結です。

読んでくださりありがとうございます。


『おもしろかった』

『続きが気になる』

と思ったら、↓の☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。

ブックマークもいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ