48話 楽しむ心 ☆
ルキフェルの翼が深紅に塗り替わり、黒い瘴気と赤い鮮血が踊るように渦巻く。
《でたぁああ。久莉栖選手を相手にみせた凶悪コンボ。無効化されない6ダメージ》
破壊衝動につき動かされ、超重力をやぶってルキフェルが飛翔した。
《生徒会長の連勝記録がやぶられ――》
「スキル発動」
煌河の手にもスキルカードがあらわれた。
《なんとここでスキル発動宣言。しかしすでにアンチスキルは使っているはず》
E3、SP3が吸収された。
「再起動しろ、<ドラゴニック・フルドライブ>」
<スタビリー・ドラゴン>が雄叫びをあげた。
《<ドラゴニック・フルドライブ>ですとぉおお》
高密度の赤黒い瘴気弾が放たれる。
『”傲慢の断罪衝動“』
それは<スタビリー・ドラゴン>の盾にあっさりはじかれた。
《なにが起こったんだぁああ。これはまさか、ブートした<スタビリー・ドラゴン>がガーディアンとなり、ルキフェルの直接攻撃から煌河選手を護ったのでしょうか。どうやらそのようです。攻撃スキルを防御スキルとして用いるとは。さすがはKGTカップ絶対王者。大胆不敵なプレイング》
そうか、それがあったか、と深慧は内心でぼやいた。勝利を焦りすぎた。緊張感が保てなくなっていたのを今さらながら自覚する。AIとの対戦でこんな見落としは絶対しないのに。
ひさしぶりだった。楽しすぎて冷静さを失うなんて。
SPに変換できるダメージはもうない。これ以上はなにもできない。
「ターンエンド」
深慧:手札1、E3。
煌河は深く息を吐いた。
「あぶなかった。攻撃スキルを防御に使わされてしまったね」
言葉とは裏腹に、その表情は楽しさで満ちていた。たぶん深慧も同じ顔をしていた。
「スタートフェイズ。ドロー、Eチャージ&ドロー」
煌河:手札3、E2。
「メインフェイズ。起動、<ドラゴン・リバイブ>」
E1を吸収し、トラッシュから2枚のドラゴンを手札に加えた。
《<ドラゴン・リバイブ>は自身のダメージが4以上のときのみ使え、トラッシュからカード名の異なるドラゴンアバター2枚を手札に加えられます》
「起動、<アップグレード>」
奇数エリアに魔法陣が描かれる。
「<スプラ・ドラゴン>と<デスペル・ドラゴン>を進化素材とし、グレードアップ」
手札のドラゴン2枚が魔法陣に吸収された。
「いでよ、<ウェルテクス・ドラゴン>」
緑と赤の竜鱗をまとったドラゴンが啼いた。
Lv :3
ATK:7→8
DEF:7→8
HP :3→4
「アタックフェイズ。エンシェント・ドラゴン、直接攻撃」
古代龍の息吹が深慧を襲った。2枚目のダメージが輝く。
「フィルタ召喚」
両用エリアに『封印2』のカードが置かれた。
【深慧ライフ7→5】
「2回攻撃」
ふたたび息吹が放たれた。
【深慧ライフ5→2】
「次は<スタビリー・ドラゴン>」
「スキル発動」
《深慧選手もスキル発動宣言》
E3、SP3を吸収した。
「よみがえれ、封じられし悪魔、<暁の大虐殺>」
トラッシュからあらわれたのは、
「顕現せよ、殺戮の破壊者、ジェノサイド=デストロイヤー」
触手を生やした4つ目の怪物だった。
「“破壊砲哮”」
攻撃中の<スタビリー・ドラゴン>が焼き消された。
《攻撃スキルの防御利用返しだとぉおお》
煌河は眉をひそめる。
「やっぱりそうくるか。さすがだよ」
その視線は、深慧の手札と今顕現したガーディアンを見つめていた。
煌河の場の攻撃可能なカードは3枚。
<ドラゴシューター>
<ウェルテクス・ドラゴン>
<古代龍 エンシェント・ドラゴン>
どれも残りの攻撃回数は1回。<ウェルテクス・ドラゴン>は攻撃時に相手アバター1枚とバトルする能力をもっているが、ガーディアンへの攻撃中にバトル破壊しても、攻撃対象がいなくなるだけで直接攻撃にはならない。ガーディアンのDEFは4だから、ATK3の<ドラゴシューター>では勝てない。ガーディアンの除去には進化ドラゴンのどちらかを使う必要がある。が、深慧の残りライフは2。<ドラゴシューター>のHP1ではけずりきれない。進化ドラゴンの片方でガーディアンを除去し、もう片方で直接攻撃するしかないわけだが、深慧が防御札をにぎっていた場合、ガーディアンなしでターンをわたしてしまう。ここは<ウェルテクス・ドラゴン>でガーディアンを攻撃破壊、強制バトルで<|破滅を見つめる悪魔《ユニヴァース=カタストロフィー》>を破壊。<ドラゴシューター>で1ダメージ与え、バックアップ3枚の<古代龍 エンシェント・ドラゴン>をガーディアンとして残しておくのが無難。
煌河はみずからの胸に手をあてた。今、自分はカードゲームを楽しんでいるだろうか。
これまで遊んだ相手でもっとも強かったのは、藍久と久莉栖のふたり。深慧はそれと同じかそれ以上に強い。あるいは過去最強の相手かもしれない。そんな相手を前に、真剣になりすぎているのではないか。カードゲームでなくカードバトルをしているのでは。
煌河は思いだした。リアライズはカードゲームだ。相手プレイヤーや観客たち、みんなとともに楽しみ、よろこびをわかちあう遊びなんだ。
自然と笑みがこぼれていた。
「3回攻撃だ、エンシェント・ドラゴン」
古代龍が殺戮の破壊者を見下ろす。
「“エンシェント・ブレイズ”」
その息吹によって殺戮の破壊者は破壊された。
煌河は深慧に笑いかけた。
「いくよ。<ウェルテクス・ドラゴン>と<ドラゴシューター>で同時直接攻撃」
赤緑竜が咆哮し、竜の拳銃にエネルギー弾がこめられる。
深慧は目をつむった。
手札のカードは<失われし理想郷>だった。
進化ドラゴンアバターとドラゴン装備デバイスの同時攻撃が決まる。
【深慧ライフ2→0】
『ゲームエンド。勝者は辰巳煌河』
静寂。
そして歓声がわきおこった
《きっ、決まったぁあああ。<ウェルテクス・ドラゴン>と<ドラゴシューター>の同時攻撃5ダメージが炸裂。深慧選手のライフ2をけずりきり、激闘を制したのは生徒会長、辰巳煌河選手。絶対王者の威厳を守りきりました》
煌河が深慧のもとに近寄ってきた。
「防御札じゃなくてよかったよ。そうだったら僕の敗けだった」
「<堕天の破壊衝動>を撃ったときは勝ったと思ったんですけどね」
「あはは。最後の手札はなんだったんだい」
「これです」
深慧は<失われし理想郷>をみせた。煌河は笑った。
「なるほど。あぶなかった。エンシェント・ドラゴンをガーディアンに残しても、それで『封印』されていたね。絶対王者なんてよばれるせいで、ついつい保守的になりそうだったけど、リアライズを楽しんだおかげで攻撃できた」
煌河が深慧の目を見すえた。
「きみはどうかな。リアライズを楽しめたかい」
問われた深慧は胸に手をあてる。鼓動の音をきいて、まっすぐ視線をかえした。
「はい。楽しかった」
宿命者を創ってからはじめて、全力でやって敗けた。
悔しい。でも楽しかった。
だれにも敗けなくなってから、いつしか手加減するようになり、やがてだれとも遊ばなくなってしまった。
父に対する罪悪感か。それだけなのか。
あるいは、リアライズをきらいになりたくなかったからか。
今やっと、安心してこう思える。
(おれは、リアライズが大好きだ)
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