表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/53

48話 楽しむ心 ☆

 ルキフェルの翼が深紅に塗り替わり、黒い瘴気と赤い鮮血が踊るように渦巻く。


《でたぁああ。久莉栖選手を相手にみせた凶悪コンボ。無効化されない6ダメージ》


 破壊衝動につき動かされ、超重力をやぶってルキフェルが飛翔した。


《生徒会長の連勝記録がやぶられ――》


「スキル発動」


 煌河の手にもスキルカードがあらわれた。


《なんとここでスキル発動宣言。しかしすでにアンチスキルは使っているはず》


 E3、SP3が吸収された。


再起動(リアライズ)しろ、<ドラゴニック・フルドライブ>」


 <スタビリー・ドラゴン>が雄叫びをあげた。


《<ドラゴニック・フルドライブ>ですとぉおお》


 高密度の赤黒い瘴気弾が放たれる。


『”傲慢の断罪衝動スフェル・バニッシュメント“』


 それは<スタビリー・ドラゴン>の盾にあっさりはじかれた。


《なにが起こったんだぁああ。これはまさか、ブートした<スタビリー・ドラゴン>がガーディアンとなり、ルキフェルの直接攻撃から煌河選手を護ったのでしょうか。どうやらそのようです。攻撃スキルを防御スキルとして用いるとは。さすがはKGTカップ絶対王者。大胆不敵なプレイング》


 そうか、それがあったか、と深慧は内心でぼやいた。勝利を焦りすぎた。緊張感が保てなくなっていたのを今さらながら自覚する。AIとの対戦でこんな見落としは絶対しないのに。


 ひさしぶりだった。楽しすぎて冷静さを失うなんて。


 SPに変換できるダメージはもうない。これ以上はなにもできない。


「ターンエンド」


 深慧:手札1、E3。


 煌河は深く息を吐いた。


「あぶなかった。攻撃スキルを防御に使わされてしまったね」


 言葉とは裏腹に、その表情は楽しさで満ちていた。たぶん深慧も同じ顔をしていた。


「スタートフェイズ。ドロー、Eチャージ&ドロー」


 煌河:手札3、E2。


「メインフェイズ。起動、<ドラゴン・リバイブ>」


 E1を吸収し、トラッシュから2枚のドラゴンを手札に加えた。


《<ドラゴン・リバイブ>は自身のダメージが4以上のときのみ使え、トラッシュからカード名の異なるドラゴンアバター2枚を手札に加えられます》


「起動、<アップグレード>」


 奇数エリアに魔法陣が描かれる。


「<スプラ・ドラゴン>と<デスペル・ドラゴン>を進化素材とし、グレードアップ」


 手札のドラゴン2枚が魔法陣に吸収された。


「いでよ、<ウェルテクス・ドラゴン>」


 緑と赤の竜鱗をまとったドラゴンが啼いた。


  Lv :3

  ATK:7→8

  DEF:7→8

  HP :3→4


「アタックフェイズ。エンシェント・ドラゴン、直接攻撃」


 古代龍の息吹が深慧を襲った。2枚目のダメージが輝く。


「フィルタ召喚」


 両用エリアに『封印2』のカードが置かれた。


【深慧ライフ7→5】


「2回攻撃」


 ふたたび息吹が放たれた。


【深慧ライフ5→2】


「次は<スタビリー・ドラゴン>」


「スキル発動」


《深慧選手もスキル発動宣言》


 E3、SP3を吸収した。


「よみがえれ、封じられし悪魔、<暁の大虐殺ルゲンロート・カルネージ>」


 トラッシュからあらわれたのは、


「顕現せよ、殺戮の破壊者、ジェノサイド=デストロイヤー」


 触手を生やした4つ目の怪物だった。


「“破壊砲哮”」


 攻撃中の<スタビリー・ドラゴン>が焼き消された。


《攻撃スキルの防御利用返しだとぉおお》


 煌河は眉をひそめる。


「やっぱりそうくるか。さすがだよ」


 その視線は、深慧の手札と今顕現したガーディアンを見つめていた。

 煌河の場の攻撃可能なカードは3枚。

 <ドラゴシューター>

 <ウェルテクス・ドラゴン>

 <古代龍 エンシェント・ドラゴン>


 どれも残りの攻撃回数は1回。<ウェルテクス・ドラゴン>は攻撃時に相手アバター1枚とバトルする能力をもっているが、ガーディアンへの攻撃中にバトル破壊しても、攻撃対象がいなくなるだけで直接攻撃にはならない。ガーディアンのDEFは4だから、ATK3の<ドラゴシューター>では勝てない。ガーディアンの除去には進化ドラゴンのどちらかを使う必要がある。が、深慧の残りライフは2。<ドラゴシューター>のHP1ではけずりきれない。進化ドラゴンの片方でガーディアンを除去し、もう片方で直接攻撃するしかないわけだが、深慧が防御札をにぎっていた場合、ガーディアンなしでターンをわたしてしまう。ここは<ウェルテクス・ドラゴン>でガーディアンを攻撃破壊、強制バトルで<|破滅を見つめる悪魔《ユニヴァース=カタストロフィー》>を破壊。<ドラゴシューター>で1ダメージ与え、バックアップ3枚の<古代龍 エンシェント・ドラゴン>をガーディアンとして残しておくのが無難。


 煌河はみずからの胸に手をあてた。今、自分はカードゲームを楽しんでいるだろうか。

 これまで遊んだ相手でもっとも強かったのは、藍久と久莉栖のふたり。深慧はそれと同じかそれ以上に強い。あるいは過去最強の相手かもしれない。そんな相手を前に、真剣になりすぎているのではないか。カードゲームでなくカードバトルをしているのでは。


 煌河は思いだした。リアライズはカードゲームだ。相手プレイヤーや観客たち、みんなとともに楽しみ、よろこびをわかちあう遊びなんだ。

 自然と笑みがこぼれていた。


「3回攻撃だ、エンシェント・ドラゴン」


 古代龍が殺戮の破壊者を見下ろす。


「“エンシェント・ブレイズ”」


 その息吹によって殺戮の破壊者は破壊された。

 煌河は深慧に笑いかけた。


「いくよ。<ウェルテクス・ドラゴン>と<ドラゴシューター>で同時直接攻撃」


 赤緑竜が咆哮し、竜の拳銃にエネルギー弾がこめられる。


 深慧は目をつむった。

 手札のカードは<失われし理想郷(ロスト・アルカディア)>だった。


 進化ドラゴンアバターとドラゴン装備デバイスの同時攻撃が決まる。


【深慧ライフ2→0】


『ゲームエンド。勝者は辰巳煌河』


 静寂。

 そして歓声がわきおこった


《きっ、決まったぁあああ。<ウェルテクス・ドラゴン>と<ドラゴシューター>の同時攻撃5ダメージが炸裂。深慧選手のライフ2をけずりきり、激闘を制したのは生徒会長、辰巳煌河選手。絶対王者の威厳を守りきりました》


 煌河が深慧のもとに近寄ってきた。


「防御札じゃなくてよかったよ。そうだったら僕の敗けだった」


「<堕天の破壊衝動バニッシュメント・デスドライヴ>を撃ったときは勝ったと思ったんですけどね」


「あはは。最後の手札はなんだったんだい」


「これです」


 深慧は<失われし理想郷(ロスト・アルカディア)>をみせた。煌河は笑った。


「なるほど。あぶなかった。エンシェント・ドラゴンをガーディアンに残しても、それで『封印』されていたね。絶対王者なんてよばれるせいで、ついつい保守的になりそうだったけど、リアライズを楽しんだおかげで攻撃できた」


 煌河が深慧の目を見すえた。


「きみはどうかな。リアライズを楽しめたかい」


 問われた深慧は胸に手をあてる。鼓動の音をきいて、まっすぐ視線をかえした。


「はい。楽しかった」


 宿命者(シックザール)を創ってからはじめて、全力でやって敗けた。


 悔しい。でも楽しかった。


 だれにも敗けなくなってから、いつしか手加減するようになり、やがてだれとも遊ばなくなってしまった。

 父に対する罪悪感か。それだけなのか。

 あるいは、リアライズをきらいになりたくなかったからか。


 今やっと、安心してこう思える。


(おれは、リアライズが大好きだ)

読んでくださりありがとうございます。


『おもしろかった』

『続きが気になる』

と思ったら、↓の☆☆☆☆☆から作品の応援をお願いします。

ブックマークもいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ