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1話③転 成早光輝の消失

「伊達深慧くん、かな」


「来客が多いな」


「え」


 深慧は気にせず昼食を進める。

 学生会副会長が近づいてくる。


「へぇー弁当なんだ。寮生だよね。自炊してるの。それとも彼女とか」


 椅子をもってきて正面にすわられた。ウインドウの透過率を0%に設定していないから、半透明のむこうがわに相手の顔が見えて集中できない。ここで透過率を切っても相手にわかる。しかたなくウインドウをとじた。


「なに」


「こっわ。おれ高等部3年だよ。成早(なるはや)光輝(こうき)。先輩を敬ってよ」


「歳上を敬って歳下を敬わないのは理にかなってない」


「んー? まあ、たしかに……ってこんなこと話しにきたんじゃなかった。昼休み終わっちゃう」


 深慧は食べ進める。


「んんっ。えっと、伊達深慧くん。きみは中等部の途中からずっと実技試験のPvP(対人戦)が0点だね。初等部の高学年にあがったあたりから中等部の最初のころまでは悪くない成績を残しているのに。なにか理由があるのかな、全試合を棄権してる(・・・・・・・・・)のには」


 深慧は食べ進める。


「おーい、聞いてる? 対して筆記試験は満点に近い。中等部の最初は赤点もとっていたのに。初等部のころもそれほどよくなかった。実技試験を放棄した代わりに力をいれたんだろうけど、将来を考えるとあまりいい印象にならないんじゃない。勉強したいなら外の学校でもいい。せっかくこの学園にきたのに、実力を示せなくちゃなんのために入学したのかわからない。アド損でしょ。ねえ、ちょっと」


 昼食を終えた深慧は弁当箱を片づける。


「筆記試験だけじゃ大学部への進学もあやしいよ」


「PvPを放棄しても単位足りるのは計算済み」


「それでも就職先は減るよ。プロになるのも厳しい」


「そんなものになろうとは思わない」


「ちょいちょい。切学生の最大の目標はプロになることだろ」


「無数の屍を無自覚にふみつけてか」


 光輝はきょとんとする。

 弁当箱をしまって深慧は立ちあがる。


「あっ待てって。おれはきみのためを思って」


 さっさと深慧は空き教室をあとにした。

 ぽつんと光輝だけが残される。


「はぁ? なんなのあいつ。わけわかんね。服装めっちゃダサいし」


 ドアがひらかれた。もどったきたのかと思ったが、


「おっ(すぐる)


 同級生の辻崎秀だった。


「おれがここいるってきいたん」


「ああ」


「おれもう飯食っちゃったけど」


「それはどうでもいい」


 秀が結界装置(デッキケース)をかざした。


「1戦ぐらいやる時間あるだろ」


 光輝はぽかんとし、困惑気味に笑った。


「あーうん。そういうことね。うん、いいけど」


 結界装置(デッキケース)をだしながら光輝は思う。ずっと勝てなかったからだろう。おれたちとの対戦をさけるようになっていたのに、いまさらどういうつもりだ。多少のレアカードをひいたていどでくつがえる実力差ではない。それぐらい秀もわかっているはず。まさか高利貸しにひっかかったわけじゃないよな。大きな実力差を埋めるにはカードバンクで借りられるRP(リアライズポイント)だけじゃ足りない。それはないと思いたいが。


 秀の眼差しをみていると、ひどく心がざわつく。いやな予感がしていた。

 たぶん気のせいだろう。無意識にそう思ってしまった。


 両者は結界装置(デッキケース)を構え、同時に宣言した。


「フィールド展開、リアライズ」





 翌朝の空は重たく曇っていた。

 昼休みに入るまでに、そのうわさは学園全体に浸透していた。


「行方不明ってマジ?」

「失踪事件だって」

「高等部学生会の副会長らしい」

「あの人なんてったっけ」

「成早光輝先輩」

「うっそ」

「イケメンだし悩みとかなさそうだったのに」

「キラキラオーラ出てたよね」


 雲がじわじわと大きくひろがっていく。


「寮にも実家にも帰ってないらしい」

「誘拐されたとか」

「それか」

「だれかに殺されたか」


 ぽつぽつと雨がふりはじめる。


「それはないっしょ」

「だよね。だって」

「殺人事件なんて紀元前の話だもん」


 遠くの空で雷鳴がうなる。

 高等部1年4組。深慧はクラスメイトに囲まれていた。


「昨日、成早先輩と話したってほんと」


「……それが?」


「なにか知ってんじゃないの」


「空き教室で昼食べてたら向こうが勝手にきただけ。接点はないし知るわけがない」


 積極的でも消極的でもない否定を続けたが、深慧に対する疑いが完全に晴れることはなかった。みんな理由をさがしていた。成早光輝の深刻な悩みか、誘拐犯でも見つからないかぎり、ふつうに考えてありえないこともそれらしく思えてしまう。

 いつもひとりでいる深慧にとって悪影響というほどのことは起こらない。

 が、昨日会った感じだとなにかを思いつめて失踪するようには見えなかった。その前に友人や恋人や家族に相談するだろう。なにかしらの事件に巻きこまれたと考えるのが自然。しかしそれはDCF(次元圧縮力場)に覆われたこの惑星では不自然極まりないことだった。





 生徒会棟と隣接した4階建てのサークル棟。

 放課後、学生たちはサークル活動に励んでいた。

 スポーツ系や文芸系などもあるが、リアライズ情報部、ガチ勢サークル、ネタデッキ研究会、フィールド研究会などリアライズ関係のサークルが全体的に多い。

 遊真はいろいろ体験入部し、今日はネタデッキ研究会にお邪魔していた。意外にも大人数のメンバーたちとわいわい遊んでいたところ、ウインドウに着信が届いた。すぐに切れてしまったが、相手は仲のいいクラスメイトの宇野(うの)拓磨(たくま)だった。

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