7話 宿命の黙示録 ☆
「Eチャージ&ドロー」
遊真:手札4、E1枚、場にアバターなし。
「メインフェイズ。E1払って起動、<リトライ!>。トラッシュからLv2のチャレンジャーを手札にもどす。選ぶのは<エンターティナー>。それからじゃんけん。勝ったらLv1のチャレンジャーを召喚できる。じゃんけん、ぽん」
遊真はチョキ、深慧はグー。
「チャレンジ・フィールドの効果でやりなおす。じゃんけん、ぽん」
遊真はパー、深慧はグー。
「オッドに蘇生、<村人A>」
チャレンジカウンターが2枚になる。
「起動、<チャージャー>。デッキの上から1枚をEチャージして、じゃんけん、ぽん」
遊真はグー、深慧はチョキ。
「勝ったらもう1枚をEチャージ&1ドロー」
チャレンジカウンターが3枚になる。
「起動、<かかったな!>。じゃんけん、ぽん」
遊真はパー、深慧はグー。
「<宿命の堕天使>を破壊」
漆黒の堕天使が串刺しにされた。
チャレンジカウンターは4枚になった。
「Eを1払って起動、<アップグレード>」
このターン4枚目のプログラムが輝いた。
「手札の<村人B>と、場の<村人A>を進化素材にして」
ふたりの村人を吸収し、奇数エリアに魔法陣が描かれた。
「グレードアップ。<村一番の拳闘士 斗争>」
進化デッキからチャレンジャーがあらわれた。
Lv :3
ATK:8
DEF:7
HP :2
白いひげを生やし、白い道着をまとった、褐色肌で太腕の男だった。
「<エンターティナー>を召喚。アタックフェイズ」
遊真は手札もEも使いきり、剣をにぎった。
「<チャレンジソード>の攻撃時、じゃんけん、ぽん」
遊真はグー、深慧はパー。
剣をもちなおして遊真が迫りくる。楽しそうな笑顔。
その光が強いほど深慧の闇は深くなる。
深慧は歯をかみしめた。そんな表情で戦うな。
「インタラプト起動、<血濡れの聖域>」
ダメージ2の攻撃は不可侵の聖域によって阻まれた。
「攻撃を無効化し、自分の場に『封印』カードがあれば、Eチャージ&ダメージ1回復」
深慧のEが3枚になり、ダメージエリアから1枚をトラッシュに送る。
【深慧ライフ5→6】
攻撃をふせがれた遊真だが、
「でもこれで、チャレンジカウンターは5枚」
下に5枚目のカードが置かれ、水色と橙色の保護結界が閃光を放った。
「フィールド解放」
フィールドカードが裏返った。
「<チャレンジマスター・フィールド>」
5枚のチャレンジカウンターが遊真の前にうかんだ。
「4枚をEチャージ、1枚を手札に。斗争で直接攻撃」
【深慧ライフ6→4】
「斗争の2回攻撃」
ふたたびこぶしが迫る。この『2回攻撃』と<エンターティナー>のダメージが通れば敗ける。フィルタがくることを祈ってダメージ計算に入る。
8枚目のダメージが置かれたとき、そのカードが黒く輝いた。
「フィルタ起動、<失われし理想郷>」
場の<エンターティナー>が二次元にもどった。
「場のカード1枚を『封印』する」
封印されたカードは、その持ち主のスタートフェイズ開始時まで場に存在しなくなる。ガーディアンにならないし攻撃もできない。場を離れたわけじゃないからバックアップも使えない。
【深慧ライフ4→3】
即死圏内のダメージ量だが、遊真の場に攻撃可能なカードは残っていない。
「ブラスタースキルを撃てば遊真の勝ちだな」
「Eも4あるし」
観衆からはそんな声もあがるが、
「……ターンエンド」
遊真は手札0、E0で、悔しそうにつぶやいた。
よくわかっていない人のために深慧が教えてやる。
「スキルカードはゲーム開始時、フィールドカードの下に3枚いれておける。だがブラスタースキルは1枚しかいれられない。おまえの選んだブラスタースキルは相手に4ダメージ与える<オーバーヒート>なんだろ」
遊真は図星をつかれた顔をした。
「<オーバーヒート>のコストはE4だけじゃない。SP4も支払わないと発動できない。SPを払う方法は、ダメージエリアのカードをその数だけ裏返すこと。今のおまえのダメージは3。コストを払えない」
もちろん深慧はそれを計算していた。だから前のターン、直接攻撃せずに<エンターティナー>を狙ったし、安心してこれだけダメージを喰らえた。
「スタートフェイズ開始時に『封印』が解かれる」
奇数エリアのカードから闇が噴出した。
「顕現せよ、生贄喰らいの使魔、サクリファイス=イーター」
黒い羽根が舞い、六本足の黒鳥があらわれた。
Lv :1
ATK:1
DEF:6
HP :1
左右にそれぞれふたつある眼が妖しく光る。
「<悪魔の棲む邪眼>も顕現」
眼帯に隠された深慧の右眼から、禍々しい赤いオーラが立ちのぼった。
ATK:3
HP :1
「これで宿命カウンターは5枚」
深慧のフィールドが黒い閃光を放った。
「フィールド解放」
漆黒の瘴気と、濃薄豊かな紫色の瘴気が渦巻いた。
「<†永久を刻む宿命の暗黒領域†>」
5枚の宿命カウンターが目の前にうかぶ。
「カウンター3枚をEチャージ、2枚を手札に」
深慧:手札5、E6。
「<悪魔の棲む邪眼>の顕現時、手札から『封印』アバターを召喚し、その『封印』をひとつ解く」
両用エリアに『封印1』のアバターが置かれ、封印カウンターが0になって黒い瘴気を発した。
「顕現せよ、暗黒より出でし虚無、ダークネス=ヴァニタス」
赤い瘴気をまとった闇があらわれた。
Lv :1
ATK:3
DEF:3
HP :2
黒闇の奥で赤い眼光と赤い牙がきらめく。
「ドロー、Eチャージ&ドロー」
深慧:手札5、E7。
「このままアタックフェイズ」
深慧が宣言したとき、
「アンチスキル発動」
遊真がさけんだ。
「Eを2払い、ダメージ2枚を裏返してSPにして、自分に2ダメージ」
【遊真ライフ7→5】
フィールドの下から1枚のカードが遊真の手にあらわれた。
「眠れ、<シャットダウン>」
深慧の場に重力がふりかかった。
「相手の場のカードすべてをスリープさせる」
おおっ、と歓声があがった。
ブラスタースキルと同じく1枚しかいれられないアンチスキル。その効果によって、3枚の宿命者だけでなく、邪眼の封印を解いた深慧も動けなくなった。
遊真は笑う。ライフはまだ5も残ってる。<オーバーヒート>を使われてもだいじょうぶ。対して相手のライフは3しかない。次のターンで勝てる。
「エンドフェイズ」
深慧が宣言した。
「ブラスタースキル発動」
E4が闇の光に変換され、ダメージ4枚が裏返ってSPを生成した。
深慧のトラッシュから闇の瘴気があふれだす。
「互いの場にガーディアンがいなければ使え、相手に3ダメージ与える」
観衆からは困惑の声。
「それだけ」
「オーバーヒートより弱くね」
ただし、と深慧は続けた。
「自分のトラッシュにある『封印』アバターがちょうど6種類なら、代わりに6ダメージ」
観衆がざわめくなか、トラッシュから6枚のカードが深慧の頭上にうかびあがった。
<常闇を纏いし漆黒の影>
<生贄喰らいの使魔>
<暗黒より出でし虚無>
<宿命の堕天使>
<殺戮の破壊者>
<破滅を見つめる悪魔>
堕天使たちの歌声が響く。彼ら彼女らの踊りによってふみつけられた地面から闇の瘴気が沸きあがり、渦巻くように立ちのぼっていく。終末を告げる歌がきこえるなか、無数の黒い羽根が舞い、暗黒のかなたから滅びの光がふくれあがった。
「定められた終焉を謳え、<宿命の黙示録>」
世界の終わり、あるいは始まりのような、闇と光の舞踊が爆発的に遊真を呑みこんだ。
【遊真ライフ5→0】
『ゲームエンド。勝者は伊達深慧』
審判者と互いの保護結界が静かに消えていく。
勝者と敗者、光と闇、そのあいだに明確な境界線がひかれた。