【第九話】
「ね、相良君。今度、買い物に付き合ってよ」
「買い物?」
いつもの様にコンビニで買ってきたポテチとかを食べながらゲームに興じていたら東雲さんがそう聞いてきた。
「一緒に出かけても大丈夫なの?」
「むしろ、こうやって家に出入りしてる方がハイレベルかと思うけど?」
それもそうだ。買い物なんて大した事ではない。金城君がいつ来るのかと最初はビクビクしていたけども、本当に尋ねて来ない。なんでも基本的には東雲さんからの誘いが無い限りは来ることはないらしい。
「金城さんがなんか言いそう」
「あー……。それは言いそう。一緒に誘えば良いんだけども、今回はなぁ」
「何か問題でもあるの?」
「その亮太への誕生日プレゼントを買うのよ」
「なるほど。それはダメだ。でもお父様への言い訳は立つんじゃない?」
「そうね。それじゃ、早速明日いい?」
東雲さんと私服で会うのは初めてだ。土日に家に行くことはないし、平日に家に言っても制服のままで遊んでるし。なんで着替えないのか聞きたくなったこともあるけど、女の子に「着替えないの?」とか聞けないし。
「お待たせ。よしよし。年上の女の子を待たせる様なことはしないのは感心感心」
「って言っても待ち合わせ時間の十分前に来ただけだけどね。時間ちょうどに来てくれて助かったよ」
東雲さんは紺色のセーターに白の長めのスカート、茶色のロングブーツにクリーム色の薄手のコートを羽織っていた。対して僕は使い古したジーンズに量販店のフリースにスニーカーという、なんともつまらない格好で顔面偏差値の差もあって不釣り合いな感じになってしまった。
「あのさ、相良君はファッションセンスって知ってる?」
「センスってパタパタするやつの事?ってくらいの知識ですね」
「だろうねぇ。折角だから、誕生日プレゼントを選び終わったら相良君のファッションチェックもしてあげるわ」
そう言って駅に向かって東雲さんは先に歩き始めた。僕はそれを追いかける格好になってなんだか情けない気分。でも仕方ない。年上美人のお付きの人、そんなもんだろうし。
「今日って近藤さんとか一緒に来ないの?」
「そんなの一緒にいたら私は何者なのかってなるじゃない。基本的には学校の送り迎えと、なんかのイベント時だけよ」
「そうなんだ。ってことは学園祭の時は近藤さんも近くにいたりしたの?」
「ええ。いたわよ。気が付かなかった?ビンビンに雰囲気出してたと思うけど。それで私に近寄る人が相良君以外には居なかったくらいだし」
「全然気が付かなかった……。じゃあ、気が付いてたら今こうして一緒にいることも無かったのかなぁ」
「かもね。あっと、この駅で乗り換え」
僕達は上下で交差する電車に乗り換えて降り電車の終点までやってきた。
「この駅、というより、この駅の近くにある公園が好きなんだぁ」
「公園って、この池のある公園?」
駅前の案内看板には駅の南側に広がる公園が描かれていた。かなりの面積だ。
「そう。その公園。春は桜で綺麗なのよね。でも今の季節は何もないから空いてると思う。後で行きましょう」
そう言って僕達は北口の商店街に向かった。北口は駅のロータリーもあって大きな家電量販もあって賑やかな感じだ。
「早速だけど、高校三年生が貰って嬉しいものってなんだと思いますか」
「うーん。そうだなぁ。と、その前に確認なんだけども、金城さんって東雲さんのことが好きなの?」
「それはライク?ラブ?」
「ラブの方かな」
「どうだろう。ずっと一緒にいるから良くわかんない」
東雲さんは、少しだけ寂しそうな顔を見せたけども、すぐにいつもの明るい顔に戻って僕に回答を急かしてきた。
「うーん。基本的に異性からの誕生日プレゼントは何を貰っても嬉しい気がするしなぁ。定番のマフラーとか?」
「それは去年渡した。手袋はその前に。だから装備品は大概渡してる感じ」
「装備品って……。そうだ。カメラとかどうなのかな。あ、でも流石に予算オーバーか」
「カメラ!良いかも!予算なんて領収書をお父様に出せばなんとでもなるから!早速見に行こう!」
僕達は家電量販店に行ってカメラコーナーを眺めていた。というよりも立ち尽くしていた。
「沢山ありすぎて分からん……そもそもの思いつきでカメラって言ったけども、このレンズ交換式のやつと一体型のやつ、何が違うんだ……」
「ここは無難に店員さんに聞いてみましょう?」
そして店員さんを捕まえて、高校生の誕生日にカメラをプレゼントしたいけどもどんなのが良いのか分からない。とストレートに聞いてみた。その店員さんはカメラにかなり詳しいようで、色々と教えてくれた。
「なるほど。それじゃあこっちのレンズ一体式のコンパクトデジカメが良さげね」
「にしても値段がピンキリだ……。これなんか格好いいけども十万円近いし。流石に高校生のプレゼントで十万円はねぇ」
「だから予算はどうでもいいって。去年のプレゼントしたマフラーも何万円もしたし。いくらだったっけな……」
これは一般人の考える世界の話ではないらしい。そうとなれば、見た目でいい感じのを選んで、店員さんに用途を聞くのがいい。僕は目についたカメラを店員さんに用途を聞いたみたらスナップ写真を撮影するには最高で、プレゼントするには無難なものらしい。そんでもって画質も良いらしい。センサーサイズが大きいとか言ってたけども、その辺は良く分からなかった。
「ありがとー!今年の誕プレはつまらないものにならなくて良かったわ。相良君に選んでもらって良かった!相良君もカメラとか欲しい?なんなら一緒に買ってあげるわよ?」
「いいって。いきなりそんなの持って帰ったらかーちゃんになんて言われるか分からんよ」
「そう?それじゃ次は相良君の服を選びに行きましょう」
あ、やっぱりそれもやるんだ。着せ替え人形。なんか予算的に厳しいものを選ばれても困るしな……。なけなしのお小遣いをかき集めても三万円が良いところだ。予算を先に伝えて……。
「あ、このコートなんて格好いい!ほら!」
身体に当てられたコートは確かに良い感じだ。ほら、コートを買えば中身が見えないから一番お得……。そう思っていた頃が僕にもありました。
「ちょっと!値段みた⁉︎」
「値札ってどこについてるの?」
「ここ。これ」
お値段八万円。とても買える値段ではない。
「あの、できれば予算三万円でお願います……」
「予算かぁ……。そういうの決めて買い物したことがないからなぁ」
ここにきて東雲財閥のお嬢様感を見せつけてきた。値札を見ないでここからここまで全部頂戴、とか言い始めてもおかしくない。
「いやさ、なんかのゲームだと思って。制限は三万円。それで良い感じのを選ぶゲーム」
「ゲーム!いいかもそれ!」
ゲームの言葉に反応する東雲さん。なんとか方向性をこっちに持って来ることができた。コートで八万円から始まってたら全身揃えたらいくらになるんだ。