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【第六話】

 自宅に帰って先に晩御飯を食べてからお風呂に入って今日のことを考える。東雲さんは金城君のことをどう思っているのだろうか。幼い時からの付き合い、半ば許嫁みたいな立場の人みたいだから窮屈に感じているのだろうか。

「わからんな」

 

 二十二時くらいに部屋に入って寝る準備をしていたらスマホの着信音が鳴り響いた。かけて来たのは東雲さん。こんな遅くにどうしたのだろうか。今日のことかな。

「はい。もしもし」

「あー。出てくれた。もう寝てたりした?」

「いや。まだ起きてるよ。どうしたの?」

「ごめんね。なんか気を使わせちゃって。亮太のこと」

「ああ、いいですよ別に。でもなんか不思議な雰囲気でしたけども、仲が悪かったりするんですか?」

「うーん。ストレートに聞いて来るわね。仲が悪いということはないんだけども、どうも私の趣味じゃないのよね。お父様は気に入ってるみたいなんだけども」

 受話器の向こうでため息が聞こえた。

「ね、例のゲーム、レベルは?十五超えた?」

「超えたよ」

「やった。フレンドになろう。私のアカウントは……」

 そう言って嬉しそうに話す東雲さん。一体僕のことをどう思っているのだろうか。まさか僕に気があるのだろうか。いやいやそんなことはないだろう。差し詰、例のお父様に一矢報いるための存在、的なところだろう。

「あんまり長電話してるとどこにかけてたのか詮索されちゃうからこれで。続きはゲーム内のチャットでしましょ」

 通話記録まで見ているのか。なんて息苦しい生活なのか。あの豪邸に住んでてもそんなことまで監視されていたら居心地は悪いだろうな……。

 

 『ねぇ、亮太のことどう思った?』

 早速ログインしてフレンド登録、チャットを始めたわけだけど、いきなりこれか。

 『うーん。完全無欠の隙がない人?』

 『やっぱりそう感じるかー。正直趣味が合わなすぎて息が詰まるのよね。でもお父様のことを考えるとね』

 『ちょっと聞いていい?』

 『ん?なに?』

 『なんで一人暮らししてるの?』

 『そんなの決まってるじゃない。自宅にいたら窒息死しちゃうからよ。亮太は多分私の監視者兼ゴーレム、なのかも知れないわね。今日のことも多分お父様に話していると思うし』

 なるほどそれは息苦しい。生活の全てを縛られる感覚。考えただけで息が詰まる。

 『そこに僕が現れたわけだ』

 『そ。だから声をかけてくれて嬉しかったの。学校じゃ誰も声をかけてこないから』

 文面からも伝わる寂しさ。学校に通ってて誰からも声をかけられない生活。想像しただけで息が詰まる。そんな状況で東雲さんは学校に通っているのか。だったら少しでも自分がその気分を紛らわせる存在になればいい。

 『僕はそういうしがらみがないから、気を使わなくてもいいよ』

 『使うつもりないし』

 『ですよねー』

 『でも、ありがと。ねぇ、明日も家に来てくれる?明日は亮太は来ないはずだから』

 『大丈夫なの?』

 『私が大丈夫って言ってるんだから大丈夫』

 そんな会話をしていたらあっという間に十一時を回っていた。普段なら早寝な僕はもう寝ている時間だ。最近はゲームが面白くて夜更かししてしまっているのだけれど。

 『それじゃ、そろそろ寝るかな』

 『そうね。それじゃまた明日。これで落ちるね』

 そう言って東雲さんはオフラインとなった。

「明日も来てね、かぁ」

 これはもしかしたらもしかするのだろうか。東雲さんは僕に気があるのだろうか。

 

 翌日、東雲さんのマンションに行くと、待ってましたとばかりにインターホンに出て下まで降りてきた。

「そういえば東雲さんって受験はどうするの?」

「んー。するよー」

「高校三年生のこの時期に僕みたいのと遊んでても大丈夫なの?」

「こう見えて成績はいいのよ。学年五位以内から落ちたことないし」

 いつ勉強してるんだ……。それを聞いたら昨日もゲームから落ちた後に受験勉強をしていたとのことで。

「やっぱりお邪魔なんじゃないの?寝不足にならない?」

「相良君は私と一緒にいるのは嫌?」

「そういうわけじゃないけども。単純に邪魔になってないかなって思って」

「そんなことないわよ。良い息抜きになるもの。相良君といると」

 なんか本当に勘違いしてしまいそうだ。そんな風に僕を見てるのかと思うと。

 その日は僕がゲームをプレイして敵の効率の良い倒し方を教えてもらったり、課金方法について教えてもらったり。

「東雲さんは課金しているの?」

「残念ながら。毎月収支報告するのが一人暮らしの約束だからね」

「ご飯抜いて課金とかは?」

「レシート貼付だからなぁ」

「会社か」

「そ。息苦しいでしょ?でも自宅にいる方が嫌だから」

 そう言ってまた暗い一面を表に出した。そういえば、お母さんはどうしているのだろうか。こういう場合、お母さんが緩衝材になってるなんてケースがあるけれども、東雲さんには当てはまらないのだろうか。

「そういえばさ、東雲さんのお母さんって何してるの?やっぱりバリバリのキャリアウーマンだったりするの?」

「お母さん、かぁ。そういう風に呼んでみたかったなぁ……」

「あ、なんか悪い」

 過去形で答えたという事は、そういう事なのだろう。だとしたら尚更一人娘の東雲さんを心配するお父さんの気持ちも分からんではない。

「良いのよ別に。隠すような事じゃないし。それに……ううん。いいや、やっぱり」

 何かを言おうとしたのだろうけど、僕にはそれを聞くことは出来なかった。

 そして、この日もゲームの攻略方法とか僕の学校での様子なんかを話して帰宅時間が迫ってきた。

「そうだ。和人に言われたんだった」

「ん?何を?和人君って相良君のお友達だっけ?話の限りだと親友になるのかしら?」

「まぁ、そんなところ。でさ、和人が東雲さんの写真が見たいって言ってて。一枚良いかな」

「うーん……」

 写真一枚でそこまで悩むのか。何か不味い事でもあるのだろうか。と思っていたら東雲さんから種明かしというか告白があった。

「私の写真ね、それだけで利用価値があるらしくて。特に隠し撮りとかじゃないものは。まぁ、使い道はなんとなく想像がつくけれども。だから撮影するのは良いけども、その和人君に渡したりはしないでね。あくまでも相良君のケータイの中だけにしてね」

「そこまで言うなら、見せたら消そうか?」

「ううん。それは良いかな。相良君は信じてるから」

 なんかこう言われるとますます勘違いしてしまいそうになる。今ここで僕に気があるのか聞いてみたくなってくる。でも勘違いだった場合、この関係は終わりを告げるだろう。そう思うと怖くて聞けない。

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