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【第五話】

 東雲さんに教えて貰ったオンラインゲームは僕もハマってプレイ時間がどんどん伸びた。おかげで今日は寝不足だ。

「どうした良樹。寝不足か?」

 席に座ってからずっとあくびをしていたからだろう。和人が声をかけてくる。

「ああ。ちょっとな。例の東雲さんに教えて貰ったオンラインゲームが面白くてさ。和人もやってみないか?スマホでも出来るぞ。ただし、めちゃくちゃ容量食うけども。出来ればパソコンの方がいいと思うぞ」

 ぼくはそう言ってゲーム名とやりかたを簡単にレクチャーしてたら始業のチャイムが鳴ってしまった。

 

「和人、さっきのゲームな、レベルが十五になるとフレンドと遊べる様になるぞ。それにはもちろん東雲さんも含まれるわけだが……」

「そう!それ!俺、まだ東雲さんってのがどんな人なのか見たことないんだよね。写真とか撮影していないのかよ!」

「写真か……そういえば撮影していないな。飼ってる猫の写真ばかりだ」

「そう言うのじゃなくてなんか自撮り写真とか送って貰えばいいじゃんか。連絡先知ってるんだろ?」

「それがさ、スマホ持ってないんだよ。家電に固定メールアドレスしか連絡方法がない」

「マジで?今の時代そんな人が居るなんてな。なんか逆に新鮮だな。よし!じゃあ、良樹が今度写真を撮影してきてくれ。そして俺にそのオンラインゲームのヤル気を出ささせてくれ!」

 なんて言われて写真撮影のミッションを与えられたわけだが。放課後になって電話をかけてみたが、出ない。まだ家に帰ってないのか。まぁ、東雲パパには家に来るなって言われてないから、東雲さんの家に行ってみようか。

 と、部屋番号を押してみたけども返事がない。まだ家に帰ってないようだ。暫くここで待つか?でも警備員に摘み出されそうだな。と思って帰ろうとしたら玄関ホールの自動ドアが開く音が背後でした。

「あれ?相良君。来てくれてたの?」

「涼子、こちらは?」

 東雲さんの隣には僕よりも背の高いスラッとした出立ちのイケメン君が立っていた。

「うん。相良君。この前知り合って友達になったんだー」

「友達?涼子に?」

「そう。私に。変?」

「いや、変じゃないけどお父様がよく許したなって思って」

「私、いつまでも鳥籠の中にいるつもりはないから」

 なるほど、この人が亮太君、で間違いなさそうだ。確かに完全無敵って感じがする。向かうところ敵なし。そう言われても納得するような容姿に態度。

「そうか。なんか失礼な事を言ってしまった。僕は金城亮太」

「えっと、僕は相良良樹といいます。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 何気ない挨拶なのに彼の眼光には威圧感を感じた。僕を敵視しているのだろうか。東雲さんを自分だけのものにできなくて。

「で、この後はどうするの?」

「えっといつもの……」

「あ、映画ね、映画。いいよ。今日は何を観る?」

 そんなことを話しながら玄関ホールを歩いて抜ける。

「亮太にはゲームのこと内緒なの」

 後ろをついて歩いていた僕に東雲さんがやってきて耳打ちしてきた。

 それりゃそうか。ただでさえリアルの友人が出来ただけであの通過儀礼だ。ネットの友人だなんて知られたらどうなることやら……。

「あの、金城さんは東雲さんとどのくらいのお付き合いなんですか?」

「僕かい?幼い頃、物心ついてからずっと一緒だよ。でもそれだけかな」

 そう言って東雲さんの方を見る金城さん。まるで「それだけじゃないよ」と言われるのを待っているかの如く。それを東雲さんは感じたのか「それだけよ」とだけ答えてエレベーターのボタンを押した。

 

 家に入るといつものように飲み物を入れてリビングにやってくる東雲さん。ティーポットを持ってきているので金城さんもいつも紅茶を飲んでいるのかも知れない。そしてトレーに乗せられたミルクと砂糖を見てこう言ってきた。

「君は何回目なんだい?」

「え?」

「何回でもいいでしょ。そんな回数だけで争っても仕方ないでしょ。それじゃ、今日の映画を決めましょう?」

 そう言って金城さんが選んだのは恋愛ものの映画だった。確か東雲さんはもっとアクション的なものが好きなようだったけども……。それを言おうとしたら東雲さんは僕に目線を送って首を軽く横に振った。この二人の関係は一体どんな感じなのかな。微妙に分からん。とても仲が良い、と言う感じでもない?つまらない水を差してこの場の雰囲気を壊す方が怖く感じてそれ以上の詮索はしないことにしたけども、やっぱりこの二人には違和感を感じる。

「どうだった?」

「ん?何が?」

 金城さんが東雲さんに聞いたのは多分、映画の感想。即出てこないところをみると上の空というかつまらないなぁって感じだったに違いない。正直、僕もつまらなかった。

「ああ、映画ね。そうねぇ。あんなヒーローみたいな彼氏なんて存在するのかしら?」

「いたら気になるの?」

 まるで自分がそうだとも言わんとばかりに自信たっぷりに東雲さんに聞いている。

「私は完全無欠なヒーローはちょっとなぁ。なにって人間味がないじゃない?ちょっとは弱点がないと。そう言うのがないとからかうこともできないじゃない?」

 からかうか。確かに東雲さんはそういうのが好きそうだ。幸にして僕はまだ揶揄われてないけども、もう少し仲が良くなったらきっとからかってくるだろう。なんとなくそう思う。でも金城さんは東雲さんの事をそういう風に見ていないように感じる。完全無欠な自分の完全無欠な彼女。そうあって欲しい、みたいな雰囲気を感じる。多分だけど、東雲さんはそれを息苦しく感じている気がする。

「涼子は僕のことをからかいたいのかい?」

「そうねー。でも亮太はからかうような部分がないから」

「そうか」

 少し満足そうで少々鼻につく。まるで僕のことはからかいの対象になっていると思っているかのように。

 その後もたわいの無い話をして録画しておいたらしいテレビドラマを見て。このテレビドラマも多分、金城さんの好みだろう。東雲さんがなぜそこまでするのか分からないけども。

「あれ。もうこんな時間だ。東雲さん、僕はもう帰るよ」

「そうかい。それじゃ僕も失礼する事にするよ」

 出来れば一人で帰りたかったが、金城さんがついて来るようだ。何を言われるのかと思っていたら早速エレベーターの中で話しかけられた。

「君は……」

「相良です」

「ああ、すまない。相良君は涼子のことをどう思っているんだい?」

「それはどういう意味でのことですか?」

「そうだね。単刀直入にいうと恋愛感情、かな」

「そうですね。まだ出会ってから日が浅いのでそこまではなんとも。でも話てて楽しいとは思いますよ」

「楽しい?」

 あれが楽しいのか?と言わんばかりの反応で少々びっくりした。

「金城さんは東雲さんと話てて楽しく無いんですか?」

「涼子は常になにか壁を作っていて楽しく話す、というよりも事務的になってしまうのが残念なところだ。相良君には楽しそうに話しかけるのかい?」

 これは正直にイエスと答えるのが吉なのか、単純に自分が楽しく感じているだけだというのが吉なのか。ゲームを隠してるくらいだから多分後者が正解だろう。そう思って僕はこう答えた。

「新しい友人ですからね。なにかと僕が話しかけてて色々話を聞いてくれるので楽しく感じているのかも知れません」

「なるほど。そういうことかい。もし涼子の壁を壊す方法が分かったら教えてくれると嬉しいかな」

「分かりました。僕にそんなことが出来れば、ですが」

 そんな会話をしながらマンションを出ると一台の車がエントランスに入って来ていた。

「相良君も乗っていくかい?送るよ」

「あ、いえ。僕は自転車なので」

「そうかい?近くに住んでるのかい?」

「いえ。運動のために多少の距離は自転車で移動しているんです」

「そうかい。それじゃ、気をつけて」

 そう言って車に乗り込み金城君は去って行った。

「自転車なんて嘘だけどね」

 なんか息が詰まる。あれ以上話してたら健康に良くない。そうとまで感じる違和感があった。

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