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【第三話】

「あ、いらっしゃい!今ドア開けるね!」

 マンション玄関のオートロックに部屋番号を打ち込んだら東雲さんの声がした。自動ドアが開いてホテルみたいなロビーを抜けてエレベーターで最上階まで向かう。

「あれ。変だな。最上階のボタンが押せない」

 エレベーターに乗ったのまでは良いんだけど最上階のボタンを押しても点灯しない。と、そこに携帯電話が鳴動した。

「あ、ごめんなさい。エレベーター押せなかったでしょ。ルームキーを当てないと押せないの。今からそっちに行くからロビーで待ってて」

 そう言われてロビーのソファに身体を沈めた。このソファも高級品なんだろうな。こんなマンションなだもんな。なんて考えていたら東雲さんがエレベーターホールからやって来るのが見えた。と同時にエントランスから三人の男が入ってくるのも見えた。なんか嫌な予感がしたので早々に立ち上がって東雲さんの方に駆け寄った。

「んもう!来ないでって言ったじゃない!」

「しかし、お嬢様。御父上の御言い付けですので。相良様、今日のところはお引き取り願えませんでしょうか?」

「相良君、そんなの言うこと聞かなくていいから。早くこっちに!」

「あ!お嬢様!」

 東雲さんは僕の手を引いてエレベーターホールを駆け抜けてエレベーターに乗って扉を閉めた。外からは、東雲さんを呼ぶ声がしたけども、構わずにルームキーを照会させてエレベーターは最上階に向かって行った。

「これでもう大丈夫だから。あの人たちはルームキーは持ってないから」

「でも大丈夫なの?主に僕が」

「ああ、パパから言われたことね?それは大丈夫だから。ちゃんと説明してあるから」

「許可を取ったってこと?それじゃなんでさっきの人たちは……」

「説明はしたのよ?」

 許可は取ってないのか……。本当に不安になってきたぞ。実家が心配になってきた。

「さ、上がって」

「お邪魔します……」

 廊下を抜ければ、あの吹き抜けのリビング。相変わらず凄い光景だ。

「今日はゲームをします」

「ゲーム?それは僕が逃げ切れるかみたいなゲームじゃ無いよね?」

「まさか。普通のゲームよ。もう一人でやるの飽きちゃって」

 そう言って壁掛けテレビの下にある棚からコントローラーを取り出してきた。

「一つ?」

「あ……。そうか。一人分しかなかったんだ……今度買わないと」

「で、どうするの?」

「じゃあ、こっちのゲーム」

 そう言われてついて行くと、東雲さんの部屋に案内された。

「いいの?部屋に入っても」

「いいのよ。私が案内してるんだし。でも引き出し開けたりはしないでよ」

 流石にそれはない。女の子の部屋に入って引き出しを漁るなんてことは流石に出来ないでしょ。

 それで何をするのかと部屋を見回していたらデスクの上に例の写真立てがあるのが見えた。窓からの日光が反射して写真はうまく見えない。かと言ってこの前にあれだけ拒否されたものを見に行くのも……。

「東雲さんちょっといい?僕の位置からは反射して見えないんだけど一応。デスクの上の写真って見られちゃいけないものじゃない?」

「あ!あー……。でも相良君には見てもらっておいた方が良いかも」

 そう言って写真立てを持って僕の方にやって来た。

「これね、私が十歳の頃の写真なの。で、こっちがパパでこっちがママ。周りにいるのはパパの友達」

 それはなんの変哲もないありふれた家族写真だった。これをなぜ見られたくなかったのか。聞いても良いのかな。なんて思っていたら東雲さんから話し始めてくれた。

「この前にこの写真を伏せたのは、パパの顔を見られちゃまずいかなって思ったの。ほら、この顔見たことない?」

「ん?」

 そう言われて写真の顔をまじまじと眺める。

「ごめん、分からないや。有名人だったりするの?」

「一応ね。ほら私、東雲って苗字じゃない?知らない?東雲財閥って」

「あ、それなら聞いたことある。って、あの東雲財閥の一人娘ってこと⁉︎」

「そうなるわね。パパは私に変な人が着かないように心配してるみたいなんだけど、そんなの自分で選びたいし」

 僕は選ばれたのだろうか、と一瞬思ったけども、今は興味を持った、程度が関の山だろう。それ以上の感情を抱いても仕方がない。と言うよりも僕自身がどう思っているのかもまだ曖昧だ。

「それでゲームってなんですか?」

「ああ、これ。ネットゲーム。MORPGって言うのかな。ダンジョン攻略の時だけフレンドとマルチプレイをするようなものなの。フィールド上に他のプレイヤーがいるようなMMORPGって言うのもあるんだけど、流石に怖くて」

 そう言って立ち上げたゲーム画面では、はどこまでも続くフィールドを主人公なのかな。とにかく縦横無尽に歩き回っている東雲さんがいた。

「このゲーム、シナリオもすごく良いんだけど、キャラクターが可愛いの。それで可愛い子が強い!」

 理不尽だ。ゲームの中でも可愛い子がつよいだなんて。日陰者は辛いんだぞ。「それで僕は何をすればいいの?これも一人一台パソコンがないと遊べないよね?」

「そうね。だから相良君はこっちのノートパソコンでアカウント作って一緒に遊ぼう!」

 言われるがままにそのネットゲームのアカウントを作ったらオープニングが始まった。どうやら生き別れた兄弟を探す旅に出る、というシナリオらしい。

「これ、操作はどうやるの?コントローラーみたいなのがあるの?」

「ないよ。ネットゲームだからキーボードで操作するの。この辺のキーで前後左右、弓矢とか狙いをさだめるのはこのキー。慣れるとコントローラーよりも操作し易いよ」

 そう言われてフィールドを歩いてみたけど、最初はやっぱり慣れない。十字キーのあるコントローラーに慣れすぎているのか。

「それと、今の話し方、いい感じになってきたよ。敬語で改まってなくて」

「そう?」

「そうだよ。最初は敬語で話されてこそばゆかったもん。こっちの方がいいって。あ、そこは向こうに向かって。しばらくはこのランクって言うのをあげて行くんだけどさ……」

 東雲さんは僕の肩越しに操作の説明をしてくれて髪の毛が僕の鼻腔をくすぐる。すごくいい匂いだ。女の子はなんでこんなにいい匂いがするのかな。クラスの女子もそうだけど、東雲さんは別格な気がした。

「それでね、敵が出てきたらマウスでこう……」

 そう言ってマウスを持つ僕の手を上から東雲さんの手を被せてきた。めっちゃ暖かい。操作説明が頭に入ってこない……。

「ちょっと聞いてる?」

「ん?ああ。聞いてる聞いてる」

「なら良いんだけど。しばらくは見ててあげるから教えた通りにやってみせて」

 なんだか家庭教師みたいだな。失敗したら叱られちゃうのかな。それはそれでなんというか、叱られてみたい気もする。

「これ、面白いね。画面上で出来るかなって思ったことが全部出来る。壁も登れちゃうし」

「あ、壁のぼりは最初は注意して。このメーターが無くなると死んじゃう。あと飛べるようになるまで飛び降りても死んじゃう」

「え?マジで?」

「うん。マジ。だからさっさとランクを十五くらいまで引き上げるのが良いかな。基本的にこのメインシナリオと依頼事項をこなしていればあっという間だから。っと、もうこんな時間か。門限とか大丈夫?」

 十七時。外は薄暗くなっている。

「一応十八時までに帰れば問題ないかな。でもそろそろ失礼しようかな」

 とここまで話して、例の三人組のことを思い出す。それに東雲さんも気が付いたのか「私も行くから大丈夫」と言ってくれた。

 一階のエレベーターホールを抜けてホールに出ると、例の三人組はまだ待っていた。

「お嬢様。困りますよ本当に。お父様になんて説明すれば良いんですか」

「近藤は私の味方よね?」

「ですから困っているのです。相良様のことをお父上のご報告は致しませんが、いつバレてもおかしくないんですから」

「あの。やっぱり僕は東雲さんと会わない方が良いんでしょうか?」

 僕は東雲さんの味方という近藤という男に話しかけた。

「そうして頂けると助かりますが……」

 そう言って東雲さんの方を見る。 

「はぁ……。しかし、お嬢様はその気がないようなので、出来るだけ私の方でなんとかしますが、限界はあります。その際はご容赦願いますよ」

「ありがとう。近藤」

「それでは相良様、正面玄関ではなく裏口の方から出て頂けますか。私どもの車を回しますので」

 そう言われて裏口から出ると黒塗りの高級車が待っていて早く乗るように促された。

「本当にお嬢様には困りましたよ。相良様には本当に悪いと思いますが、お父上からの言い付けでして」

「ええ、昨晩、僕の家にそのお父上から直々に電話が入ってます」

「それを早く言ってください……。おい、駅前の方に。相良様、ご自宅までお送りしようかと思いましたが、誰かに見られるやも知れません。恐縮ですが駅前で」

「構いません。近藤さんにご迷惑のかからない方法で」

 そう言って僕は駅前に降り立った。それにしてもあの東雲財閥の一人娘だとはなぁ。そんな人とお近づきに慣れたのは何かの幸運なのかもしれないけど、特になにをするわけでもないし。

「ま、どうにかなるでしょ」

 と家に帰るまでは思っていたのだが。

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