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【第二十話】

「あそこ」

「ああ」

 言われた場所には車が一台。でもいつもの黒塗りの車じゃない。色は黒だが別の車だ。しかし、警察の車とは思えない。僕達は若干遠回りして石碑の裏に回って車の中の様子を確認した。

「あれ?近藤さんではない?涼子、あの人誰か知ってる?」

「え?あ、本当だ。私も知らない人だ。大丈夫かな」

 逆に考えると近藤さんは動けないので、別の人を寄越した。その可能性がある。僕達が出ていくか迷っていたらスマホにまた非通知設定の着信が入った。そして運転手に座る男の手に光るものを見つけて目をやるとスマホのようだった。もしやと思って電話に出る。

「もしもし」

「ああ。良かった。電話に出てくれた。湖のところまで来たかい?」

 そう言って運転席の男は辺りを見回している。十中八九、この電話主はあの運転手。

「あなたは誰なんですか?」

「安心して欲しい。亜美の兄だ。僕も覚醒剤の罪を着せられて逃げているところだ。佐伯刑事が濡れ衣の証拠を掴んでくれたのだけれど、東雲家に握りつぶされた」

「そうですか。それでは今からそちらに。では一旦切ります。さて。涼子、どうする?」

「どうするもなにも。今の状況考えたらいくしかないと思うけど?」

 確かにこのまま走って逃げるには無理がある。それに、この車の運転手が仮に追手の場合、簡単に捕まってしまう。

「それじゃ行くか」

 僕らは運転席の男に近づいて窓をしたからノックした。それに応えるようにウィンドウが下がって僕達に車に乗るように合図を出してきたので、僕達はそのまま後部座席に乗り込んだ。

「事情は後でいいかな。ひとまずはこの場所を先に離れた方が良さそうだ」

「そうですね。お願いします」

 そう言うと車は静かに走り出した。電気自動車のようだ。エンジン音が全くしない。真っ暗闇だがその中をライトも点けずに走る車。どうなってるんだ。そして、暫く走って農道の脇に車は停まった。

「ここまで来れば大丈夫だろう。私は亜美の兄、浩介だ。知っての通り近藤さんのところで働かせて貰っている」

「そうですか。ところでそれは……」

「ああ。すまない。暗視装置だ。あの中をライトを点けて走るわけにはいかないからね」

 そんなものまで用意できるのか。近藤さんは一体何者なのか。しかし、あの近藤さんの別邸がなぜバレたのか。もしや近藤さんの身に何かあったのだろうか。

「近藤さんはどうなってるんですか?あの場所がバレたと言うことは、警察に拘束されているのでしょうか」

「残念だが。しかし、君たちを無事に連れ出せて良かったよ。あのまま捕まっていたらどうにもならなくなりそうだったから」

「でも、僕達の無実はどうやって証明するんですか?唯一の証拠になる覚醒剤のでっち上げも握りつぶされたと」

「別の線で佐伯刑事が当たってくれている。僕が逃げられたのも佐伯刑事の手引きがあってこそだ」

 佐伯刑事。そこまでして僕達に肩入れしてくれるのは何故なのか。東雲家の力に押し潰されれば将来にだって関わるだろう。

「それで、この後はどうするつもりなんですか?」

「連絡を待つ、しかないかな。佐伯刑事からか、君の父親か。どっちが早いか分からないけれども」

「父さん?父さんも何かやってくれてるの?」

「ああ。東雲家も一枚岩じゃないのさ。君の父親に戻ってきて欲しいと思っている人間も多数いると言うことだ」

 それにしても。警察本体が敵になってる状況じゃどうしようもない気がするが……。待つしかないのか。こちらから動くことはできないのか。コップの指紋について無実を晴らせば……。いや、涼子の母親が元気であることを証明すればいいのだ。それなら……。僕があれやこれや考えていたら涼子が浩介さんにこう言った。

「病院に行きましょう。そして母さんがなんともないことを証明するの。簡単な事だわ」

「でも警察が……」

「多分居ないと思う。だって面会謝絶なんでしょ?それに佐伯刑事のような人もいるんでしょ?だからそこに警察が居るのは逆に変な事になると思うの。居るとしたら東雲家の人間だと思う。だから私が囮になっている間に良樹が証拠を掴んで来て」

「証拠って言っても何をすればいいのか」

「簡単じゃない。人質状態にすれば良いのよ。警察は母さんが昏睡状態と言い張ってるし、東雲家は母さんに万が一の事がある事を嫌うだろうし。良樹にそんな勇気があれば、だけども」

「簡単に言ってくれる。ナイフでも突きつければ良いのか?」

「そんなことしなくても良いわよ。単純に東雲家に突き出せば良いのよ。その前に指紋の件について白状させてからのほうがいいと思うけど。できそう?」

「やらないといけないんだろ?」

「話はまとまったか?」

 浩介さんはそう言って車を出した。今度はキチンとヘッドライトを点けて。一般道を走るのにライトが消えてる方が不審な車だろう。木をかくすなら森の中だ。

 僕達は高速道路には乗らずに下道でひたすらに東京を目指した。高速道路で追い詰められたら逃げ場がなくなるからだ。

「浩介さん。この車って大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。これは東雲家の車だからな。しかも特命を受けた任務に使うものだ。警察もこの車は見逃す事になってる」

 東雲家は警察とどこまで繋がっているのか。少々の恐怖を感じながらも、これから行う事についてイメージトレーニングを繰り返した。

 

「到着したぞ。救急受付から中には入れる。僕は万が一を考えてここで待機する事にする」

「分かった。それじゃ涼子、行こう」

 僕達は救急受付に涼子のみ入っていく事にして、自分は受付から見えないように屈んで進んだ。

「あの。緊急の用事がありまして。はい。母に面会を……」

「少々お待ちください」

 受付の人が裏に入って行った隙に僕は受付を駆け抜けて階段に向かった。

「確か五階の突き当たりだったな」

 途中、巡回の人間に見つかるかもしれないと隠れながら進んだが、幸にしてそのような人には出くわす事がなかった。

「ここだな」

 僕は部屋の引き戸をゆっくりと開いた。そして中に入って静かにドアを閉めた。入り口にかかったカーテンの隙間からベッドの様子を伺う。

「これで本当に良かったの?あなた」

「ああ。兄貴には悪いが……」

「⁉︎」

 涼子のお父様が何故こんなところに。でもこれは都合が良いかも知れない。僕一人が証人になるより、総帥本人が証人になる方が確実だ。しかし、どう出たものか。

「涼子はどうするつもりなの?」

「涼子か。涼子には海外に行ってもらうつもりだ。国内に残すと厄介だからな。それに兄貴には逃亡幇助の罪をつけるつもりだ」

 その他、諸々の事柄を涼子の母親に話し始めたので、僕はスマホの録音機能を起動して全てを記録した。このまま去っても良いかも知れないが、佐伯刑事が拘束されたらそれまでだ。ここで自分が打って出るのが確実だろう。

「全部聞かせてもらいました」

 僕はカーテンを開いてスマホをかざしながら前に進んだ。

「な……、何故こんなところに!そうか近藤の仕業だな?しかし、君は近藤の……」

「やっぱりあの警察はあなたが寄越したものでしたか。しかし、昏睡状態のはずの人間がこうして話をしているのは何故なのでしょうかね。さっきの話は全部録音させて貰ったけども、指紋のついたコップについても話してもらいます」

 すると観念したのか涼子の父親は全てを話し始めた。

「ダメなんだ。君の父親に東雲家を手渡してはダメなのだ」

「何故です?もう父は外の人間になってるじゃないですか。苗字だって相良の名になってます。今更東雲家に関わることなんてないと思いますけど。それに僕も東雲家を乗っ取ろうなんて考えてません」

「それがダメなのだ。近日中にこの事は世に出回るだろう。私に兄がいる事が。そうなったら必然的に君の名前が出て来る。世の中は私が隠蔽したと考えるだろう。その前に君には沈んでもらわなければならない」

「そうすれば僕の父も必然的に沈むと?」

「そうだ」

「そんな簡単にはいかないと思いますよ」

「え?」

 背後から声がして振り向くとそこには佐伯刑事が居た。

「お話、聞かせてもらいました。そのような事をしても晴人はあなたの思うようにはいかせないわ」

 晴人?誰だ?

「‼︎」

「気がついた?私は晴人の母、峰子。あなたの元、愛人ね。覚えていてくれて嬉しいわ」

 僕は混乱したけどもすぐに話を飲み込むことができた。晴人というのは東雲家総帥、そこにいる男の隠し子。そしてその母が佐伯刑事ということだ。

「何故今更出て来た。君は十分すぎる報酬を与えただろう。今後関わらないと約束もしただろう」

「私は真実が知りたかったの。だから、この良樹くんが追い詰められた時、何かあると確信したの。あなたが何をするのかね。でもこうして分かってみればくだらないことね。本当に。結局は自分の思い通りしたかっただけなんて」

「君に……、峰子に東雲家の何がわかる。この家は闇の中に生きるべきだ。その道を歩くのが自分の役目だと信じているのだ」

 何を言っているんだ?自分が闇の中を生きるのなら何故父さんを排除しなければならないんだ?

「兄貴の息子が逮捕される。そうすれば必然的に表舞台には出て来れなくなる。兄貴が東雲家に戻ることはなくなる」

 そう言って僕の方を見て話を続ける。

「君には悪いと思っているがこうする他に方法はなかったのだよ。一番傷の浅い方法は。君の父親……、兄貴にはにはこの世界に戻って来て欲しくなかった。しかし、これで私は君と近藤に濡れ衣を被せた罪に問われるだろう。そうすれば必然的に兄貴が東雲家の当代となるだろう。君はその地位に耐えられるか?」

「そんなの分からないけども、濡れ衣を着せられるのは御免かな」

「私なりの優しさだったのだがな……。君にはまだ分からないだろうが」

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