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【第十九話】

 翌朝、近藤さんから貰ったスマホの着信音で目が覚めた。着信名は佐伯とある。なんで佐伯刑事がこのスマホの番号を……。というよりもなんで登録されてるのか。出るか迷っていたら、涼子が先に電話に出てしまった。

「はい。もしもし」

 スマホから漏れ聞こえた会話はこんなものだった。

『東雲家が血眼になって僕達を探している。佐伯刑事は亜美のお兄さんに着せられた覚醒剤所持について偽装工作だという証拠を掴んだ』

「良樹、変わってって」

 そう言われて涼子からスマホを手渡された。

「はい。相良です」

「今、そっちにいることはまだ警察にも情報は伝わっていない。が、状況証拠が揃った上での逃亡なので、まるで犯人扱いだ。今、私が覚醒剤の出所を押さえるところだ。それが成功すれば、今回の濡れ衣計画は崩れる。それまではそこでこちらからの連絡を待っていて欲しい」

 僕は了解して電話を切った。しかし、翌日になっても佐伯刑事から電話がかかってくることはなかった。

「どうする?」

「どうするって。良樹はここから車なしで移動できると思う?」

「うーん。無理だろうな。ってか、食料ってどのくらいあるんだ?」

「おかずは缶詰が一年分くらい。ご飯も水を入れるだけのやつが同じくらいはあるかな。さっき見てきた。とにかく、ここにはヒトがいないって事にしなくちゃいけないのよね?暖炉も煙が出るしやめておいた方がいいのかしら?」

 そんなことを言ったってここは十二月下旬の那須だ。外の気温は氷点下になっているだろう。布団はかなり分厚いものが用意されていたが、それにしたって限界はある。

「涼子はお風呂とか入らなくても平気なの?」

「なに?気にする?」

「いや、僕は男だからあまり気にしないけども……」

「じゃあ、私も気にしない事にする。臭いとか言わないでよ?」

 僕達は布団に肌を寄せ合って包まって暖をとりつつ取り止めのない話をしていた。

「良樹はさ。私を見つけて話しかけてくれたじゃない?あれってなんで?やっぱり一目惚れみたいなやつだったの?」

「なんだろうな。クラスの出し物に来た時が印象的すぎて忘れられなかったってやつ?」

「それで探したの?完全に一目惚れじゃん。私は今の環境から遠ざかって全然違う場所に行ったらモテるのかな」

「モテるに決まってるでしょ。こんなに人当たりがよくて、び……その……」

「び?」

「美人、でさ……」

「へぇー。そう思ってくれてたんだ。ありがとね。でもそうかぁ。そういう環境で生活ってしたみたいなぁ。モテるとかそう言うのじゃなくて、特別視されないような。良樹も私の実家を知ってるから多少なりとも何か感じるところはあるでしょ?」

「ないといえば嘘になるかな。でもあってもなくても関係なく涼子に惹かれていったと思うよ。それは確信している」

「すごい自信だ。私、愛されてるなぁ。私も良樹に愛を返さないと」

「わ!またそういうことをする……」

「だって元気なんだもん」

「高校生なんだからイタズラしないでよ……」

「私もまだ高校生だからね?」

「分かってるけども……。しかし、これからどうなるのかな。佐伯さんからの連絡が来ないとどうにもならないけど、来ないし。近藤さんにこちらから連絡取ってみる?」

「それは私も思ったんだけど、入ってないのよ。電話番号。流石に近藤の電話番号までは覚えてないから……。そうだ。良樹の実家にかけてみるとかは?」

 それは僕も考えたことだ。僕の父さんなら何か知っていてもおかしくなはない。でも、僕達が消えていの一番にマークされるのは僕の実家だと思うし、電話をかけたら逆探知、なんてされる可能性もある。どうしようか考えていたらポストに何か投函される音がした。そして去っていくバイクの音。

「何か来たのかな。見てくる」

 僕は玄関に行ってポストを覗くと一通の封筒が入っていた。

「なんか手紙。この住所だけ書かれてて差出人は書かれていない。開ける?」

「開けないと分からないじゃない」

 まぁ、こんな薄い封筒に仕掛けがしてあるとも思えないし、開けても問題ないかな。

「それじゃ……」

 封を開けると、一通の便箋が入っていた。差出人は僕の父さん。父さんからは今の状況を教えてくれた。

『良樹。今お前たちがどこにいるのかは近藤さんから聞いた。そして今、私たちの家には刑事が張り付いている。また良樹の容疑は晴れていない状況だ。佐伯刑事が覚醒剤については事実無根というところまでは持って行ったのだけれど、良樹の指紋のついたコップについてはどうにもこうにも説明がつかなくてな。不利な状況だ。今、佐伯刑事がその件についても調べてくれているが、まだ決着はついていない。詳細はまた追って手紙を出すから、そこに身を潜めておいてくれ』

 

「やっぱり指紋の件が解決していないのか。あの隠しカメラについては隠蔽されたままなのかな」

「多分ね。だって、私のお母様が映ってる可能性があるんでしょ?東雲家が公開するわけない。指紋の謎も解けちゃうし」

「というよりもやっぱり、涼子のお母さんって昏睡状態になってないのかな。なんのメリットがあってこんなことをしてるのかな」

「そこよね。私を追放したかったのかしら?」

 涼子を旧姓に追いやってから内縁の妻として東雲家に戻る。そんな感じなのかな。でも、東雲家を引き継がせようとしてる子供の母親はどうなるんだ?そこだけはどう考えても分からない。そもそも今その人がどういう立場にいるのかも分からない。

 

 今日は十二月二十四日。クリスマスイヴだ。普通なら恋人と過ごすクリスマスなんてロマンチックなものだけども、逃亡者の身ではそんな気分でもなく。

「ねぇ、今日ってクリスマスイヴでしょ?なんかしないの?」

「なんかって言ったって何も出来ないじゃない」

「まぁ、そうなんだけど、何かしようよ」

 僕達は考えた結果、ケーキくらいは用意しよう、という事になった。

「雪のケーキかぁ。こんなのサプライズで貰ったらロマンチックなのになぁ。今の状況だとなんかごっこ遊びみたい。でも楽しい」

 僕達は玄関先のテラスに積もった雪でケーキ作りに興じていた。だがそれがいけなかった。

 その日の夜にサイレンの光が部屋の中に入ってきて目が覚めた。

「涼子、涼子!逃げるぞ!」

「んん??なに?どうしたの?」

「見つかったみたいだ。近藤さんが言ってた床下から外に逃げるぞ」

 キッチン床のカーペット下にある地下食糧庫。そこを通ると少し離れた場所に出れると教えてくれていたのだ。僕達はその場所から外に向かった。出口を出たらそこは薪小山のようだった。サイレンの灯った車は別荘宅の玄関に数人の人間を下ろして何かをやっている。

「今のうちだ」

 僕達は暗闇に紛れて近くの藪に身を隠した。

「雪に足跡がついてるからいつまでもここには居れないと思う。どこに向かおう」

 そう話していたらスマホが鳴動した。非通知設定。出るべきか迷ったが今はこれの可能性を信じるしかない。

「もしもし」

「近藤です。今そちらには警察がいるかと思います。お伝えした通り、床下から外に出ましたか?」

「はい」

「そうしたら、マップを開いて湖の方向に来てください。湖の名前が刻まれた石碑のある駐車場で待ってます。それでは」

 近藤さんはそれだけ言って電話を切ってしまった。

「涼子、これって信用してもいいと思う?」

「近藤にも警察がついていて、こんな連絡をしてきたってこと?」

「その可能性を考えて。どう思う?」

「でもこれにかけてみないとどうにもならないと思うわよ。それにこうして一晩明かすのは厳しいと思う」

 確かにスマホの天気予報に出ている現在地の気温は氷点下八度。この時間でこの気温だ。明け方にはもっと下がるだろう。それに明るくなったら逃げるにも逃げにくくなる。

「賭けてみるか」

「うん」

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