【第十二話】
それから程なくして僕の家に大量のゲーム機とソフトが送られてきた。母さんからは何?と聞かれたけども、友人がもうやらないからって貰ったと言っておいたのだが……。どうしてこうなった。
「おい!良樹、それは反則だ!」
「そうよ。何でそこでそんな事するのよ!」
僕の部屋には東雲さん以外に和人と亜美。やかましくゲームを興じていた。東雲さんは賑やかで楽しいと言っていたから良いのかもしれないけども、僕は東雲さんと二人でゲームがやりたかったのに……。
「東雲さんはさ、何でこんなやつと仲良くなったの?」
ゲームを一緒にやっていると打ち解けるのも早いのか和人がそんな口調で東雲さんに聞いている。その質問は僕も興味がある。
「んー。なんでだろ。多分、何のしがらみもなく私に声をかけてくれたから、かしら」
「もしかして学園祭の時?だとしたら俺の功績だな!良樹!」
確かに探してこいと言ったのは和人だけど、話しかけたのは自分の力だし。でもまぁ、ここはそういう事にしておこう。
「しかし、あの東雲財閥のお嬢様と一緒に遊べるとはなぁ。人生何があるか分からないな!」
和人はコントローラーを右に左に振り回しながら話していた。そこに紙パックのジュースをストローで飲んでいた亜美が割って入ってきた。
「本当に良樹から声を掛けたの?なんてを掛けたの?」
「えーっと。何だっけな……」
必死だったからなのか思い出せない。本当になんだったっけな。
「十七点。私が射的で十七点取ったから云々って」
ああ、そうだ。そう言ったんだ。それで、私の事が気になるの?って言われて……。
「しかし、この良樹がねぇ。よく声を掛けたな。今でこそこんな関係だけども、最初会ったときは無理だろって思ったもの」
「和人君もそう言うのね。私に近寄ってくる人たち、私に話しかけにくいって言ってくるの。別に取って食う訳でもないのにね。もしかして亮太がいるからかしら」
多分それだろう。昼食すら一緒に食べてると言っていた。と言うことはいつも一緒に居るのだろう。
「そう言えば金城君って同じクラスなの?」
「ん?違うクラス。だから私、クラスの中で浮いちゃって。最近は慣れたけども最初は寂しかったなぁ」
東雲さんでもそう思うことがあるのか。と思ってしまったけども、クラスで話せる相手が誰もいないというのは想像しただけでも厳しいモノがある。仮に僕に和人と亜美が居なかったらどうなっていただろう。他の誰かと打ち解けて居たのだろうか。
「同じクラスの人と話す事も無いの?」
「聞いてくるなぁ。和人君。そうね。ほとんど話さないわね。事務的な事は話すけども。友人としてって感じじゃないわね。残念ながら」
ここまで言うのだからよっぽど孤立しているのだろう。だから僕から声を掛けられて新鮮な気分になって相手をしてくれたのだろう。僕も最初から東雲財閥の一人娘って知ってたら話しかけにくかった、と言うよりも声を掛けられなかったに違いない。
その日はそのまま皆でゲームを楽しんでお開きとなった訳だが、帰り際に「二十時に」と小声で声を掛けられた。ネットゲームの集合時間だろう。僕は小さく二回頷いてから東雲さん達を玄関まで送っていった。
『こんばんは』
『お。来たね。今日はここの祠でレベルアップに必要な素材を集めます。良樹はまだレベルが低いから私が前衛に出てサポートするから』
『よろしく頼んだ』
僕たちはネットゲームのチャットで繋がっている。最近は実家に帰ることも増えたらしいが、夜にこうやってパソコン越しに会えるのはやっぱり嬉しい。
『涼子はさ。なんで僕の事をこんな風に相手にしてくれるの?』
『ん?それは決まってるじゃない。嫌いな相手じゃないからよ』
嫌いな相手。裏を返せば好きな相手?普通の相手?仮に好きな相手だとしたら。僕は色々と考えてチャットの手が止まってしまった。
『おーい。聞いてる?』
『すまん。聞いてる。ちょっと考え事してた』
『考え事かぁ。当ててみようか?多分今私が嫌いな相手じゃないって言ったからでしょ』
思いっきり図星である。また答えに窮していたら『あたり』と書き込みが先に入ってしまった。
『いいじゃない。こんな関係も。私は心地良いよ。近藤がね、最近の私は活き活きしてるって』
『そうなんだ』
そんなことを言われたら更に勘違いしてしまいそうだ。
『そういえば、近藤さんの助手に亜美のお兄さんをって話はどうなったの?』
『ん?あれかー。今どうなってるんだろう。今度聞いてみるね。でさ、話は変わるけども、和人君ってさ、亜美ちゃんのこと好きなの?』
『また本当に話が変わったな。どうだろうな』
多分、和人は亜美のことが好きなのだろう。だから僕が一緒にいると少し残念そうな反応をすることがある。
『絶対にそうだと思うんだよね』
『いやに断定的だな』
『この前もずっと亜美ちゃんのこと見てたし。私、いつも一人でしょ?だから人間観察には自信があるのよ。クラスの誰と誰がー、みたいな』
『それはクラスで占い師でもやったら話題になりそうだ』
僕がそう書き込むとしばらく返信がなかった。何か悪いことでも言ったのだろうか。目の前に居ればなんとなくでも分かるものがあるが、ネット越しだとその辺がわからなくてタイミングが難しい。
『どうかした?』
『ううん。なんでもない。それじゃ、今日のデイリーを始めますよ』
その日はデイリーをこなしただけで、素材集めをする前に東雲さんは落ちてしまった。僕が何か気に触ることを言ったのか、考えてみるけども、よく分からない。今度会った時にでも聞いてみよう、とこの時は簡単に考えていたのだが……。
「電話に出ないな。実家に帰っているのかな」
最近、自宅電話にかけても一向に出る気配がない。受話器からは虚しい呼び出し音が響くだけだ。パソコンゲームもログインの形跡がない。なんだか僕の前から東雲さんが消えてしまったような感覚に襲われて、僕は居ても立っても居られないなくなってしまった。
「何か連絡する手段は……そうだ!」
僕は亜美に連絡してお兄さんの状況を確認した。そして無事に近藤さんの助手に合格したとのことだ。僕は早速、教えてもらった亜美のお兄さんに連絡を取った。
「あの。初めまして。亜美の、亜美さんの友人やってます相良と言います。近藤さんに連絡が取りたいのですが、取次をお願い出来ませんでしょうか?」
「要件は?」
「それは……」
「お嬢様の情報について知りたいと言うのなら、お教えすることは出来ません。ただ……これは僕の独り言なんだが、最近のお嬢様は元気がなくて近藤さんにも何故だか分からないっと。要件はそれだけならこれで失礼するよ」
「ありがとうございます!」
元気がない。明らかにあの日以来のことに違いない。近藤さんにも分からないと言うことは、話せないような内容なのかな。僕はどうしても東雲さんに会いたくて、放課後のホームルームが終わったら即、学校を出て東雲さんの通う学校へと向かった。車で送り迎えして貰ってると言っていたから、その合間が唯一のチャンスだ。一言、一言でも話せば何か分かるに違いない。僕はそう信じて急いで電車で東雲さんの学校に向かった。