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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
三日目 破滅の渦へ集えよ【狩人】
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A0309 山頂方向へ

「あああの、しゅ朱里さん。ぼぼぼ僕も行っていいですか?」


 川魚(かわな)が朱里に同行を持ちかけたのは、いくつか理由があった。

 鉤縄の機動力ならば朱里について行けることもその一つだが、それよりも大事なのがモアと後虎(アトラ)である。


 この時代に来て、川魚は何ができただろうか何をしてきただろうか。

 そもそも、川魚は対人能力に難があり、ろくに話もできずにここまで来た。仲良くなりたくてもなんとも上手くいかない。


 川魚は最初、自分に勇気をくれた後虎を守ろうと思った。彼女なら川魚のヒロインになってくれるとおもったのだ。


 …………それが、ええと。男だった?

 心は女の子だと断言しているし、モアもそのつもりのようだけれど、正直川魚には全く少しも理解できなかった。


 残念ながら川魚は、母親の教育によって本人が思っている以上に偏見に満ちていた。

 全く気にしないモアとや、考えるのを放棄した堀と違い、露骨にがっかりしていたし、どう接すればいいか分からずに距離を置いていた。


 誰とも上手に接することのできない性格が功を奏した。お陰で川魚は少しも不審がられなかった。


 後虎は自分のヒロインではなかった。

 ではモアは? 事ある毎に川魚を持ち上げてくれる。


 持ち上げてくれるけれど、それがなんのためなのかは恋愛を本でしか知らない川魚にだって分かった。

 あのツンデレは、川魚を褒めることで堀の様子を(うかが)っているのだ。モアの目が向く先を、川魚は確信していた。


 後虎たちと居ても、川魚は脇役にしかなれない。必要とされている気もしない。

 それならば、自分が役に立てる場所にいたい。そしてそれが可愛い女の子か美人のお姉さんならば尚更(なおさら)言う事無しだ。


 流された後虎を追いかける、ほんの半日ほどの冒険で、川魚は自分が強くなったような錯覚をしていた。

 川魚を威圧的に支配した門浦はモアにコテンパンにされていたし、顔見知りなら説得に貢献できる気もしていた。


 朱里お姉さんに一目置かれたいという気持ちは、少年の心をときめかせた。

 もちろん、川魚は理解している。


 自分のようなニキビ面で吃音(きつおん)のブサメンは、誰からも相手にされないだろう。

 でも、だからこそ、実力で認められたいし、もしも【望み】が叶うならば、イケメンに生まれ変わりたかった。ついでにどもりもなくしたかった。


「隠密性と通常の移動速度は私が上だが、【武器】を使うと凄まじい速さだな川魚少年。

 それにしても、そんなにぶん回されて目が回らないのか?」


 川魚の全力移動は、両手から交互に鉤縄を呼び出し、引き寄せる力での空中移動である。

 鉤縄で引っ掛けられる場所に限られるが、動きはまるでスパイダーマン。木々の間を縦横無尽(じゅうおうむじん)に飛び回る事が可能だ。


 しかし当然、引っ張られて飛び回る。遠心力を受けて大きく円を描くこともある。

 だが、川魚は言われて初めて気が付いた。


 川魚はジェットコースターに乗った経験がない。そもそも遊園地に行ったことがない。

 学校行事でも、遊び目的の遠足は母親が許さなかった。しかしそれでも、高速の乗り物に乗るとGで振り回されることは知っていたし、脳内の血液が遠心力で集まり、意識を失う可能性も知識にあった。


 それが、自分には全く起きない。

 それどころか、逆さまになっても無茶苦茶な軌道をとっても、川魚は上下を正確に見定めた。身体は地面に降りるように枝や幹を蹴った。空中であることに(わず)かの不便すら感じなかった。


「ぼぼ、僕の能力、みみたいです」

「ならば、君は他にも武器を持つと良さそうだ」

「ぶぶぶ【武器】ですか?」


 朱里は頭を振った。【武器】の話をしている訳では無い。


「高機動を活かす武器だ。川魚少年の鉤縄では、相手との引っ張り合いに為りかねない、欲しいのは射撃武器かな。

 飛び回るだけ『ではない』という可能性を見せるだけで、戦いの幅が広がるだろう」

「ななななるほど」


 通りがかり様に斬りつける鎌か、ナイフが一番いい。ナイフならば近接戦も射撃戦も行けるだろう。

 あるいは……川魚は憧れの武器があった。鉤縄に基本は似ている。フックの内側が刃物で、相手の腕や首を切り落とす必殺の武器。



 |血滴子(空とぶギロチン)である。



 空とぶギロチンは、五十年近く前の香港映画に登場する必殺の暗殺武器で、鉄の帽子のような形をしている。

 川魚は別の武器を空とぶギロチンだと勘違いをしていた。さもありなん。川魚は実物の映画を見たことがなく、それが登場する小説を読んだだけだった。


 しかし、川魚の胸に空とぶギロチンは深く突き刺さっていた。

 子供でいる事を許されない川魚は、それ故にいわゆる中二病に罹患(りかん)しても自省ができず、自然治癒もできない。


「川魚少年にも棒手裏剣を一本渡しておこう。小さく軽いが、うまく打てばベニヤくらいなら貫通する。

 それに、速度をつけて投げたならば、私よりも高い威力を出せるだろう」


 運動エネルギーは足し算である。


 止まった状態で投げた石よりも、走りながら投げた石のほうが、走行エネルギーが乗る分速度が上がる。

 川魚は棒手裏剣と、その他にいくつか投げやすい小石を探した。


 『帰還待ち組』は争いを好まないはずだ。戦いを意識する必要はないだろう。

 そう思いながらも、川魚は水切りに使うような平たい石を四つほど、ポケットに詰め込んだ。


 その見通しは甘かった。


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