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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
三日目 破滅の渦へ集えよ【狩人】

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S0308 洞窟

 山の麓、川沿いから少し離れた崖に、その洞窟はあった。

 草木も生えない断崖絶壁に、ぱっくりと傷口じみた紡錘(ぼうすい)型の穴が口を開けている。


 入り口は大きく、幅三メートル半、高さも二メートル強ありそうだった。

 ただ、地上三メートル以上の位置にあっては、侵入は困難に見える。


「マジでここかよ」


 茂みから顔を出して偵察する女、垂れ目がちで下膨れ、小動物を連想させる地味な顔立ちと、鍛え抜かれた肉体美及び圧巻のメートルサイズ巨乳というミスマッチ。その上口も性格もお世辞でも良いとは言えない人物。小野がいつも通り疑わしげに尋ねた。

 女性にしては長身の彼女は、相変わらずの服装だった。

 泥は落ちたがパサついたままのセミロングを後ろで縛り、上は自前のタンクトップの残骸ブラと管金の学ラン。


 何も変わらぬメーター谷間とヘソと日焼けしたパンツ丸出しスタイルである。

違いがあるとすれば、その下。引き締まって形良いヒップの下。ムッチリと肉付き良い太ももの下。カモシカのような脚線美輝くふくらはぎの辺り。鹿皮の簡易ブーツであろう。

 草鞋のように編んだ干し草と毛皮で作ったこの発明品は張井の作品であり、裸足で怪我をしがちなのネアンデルタールために考えたのだという。


「えと…………階段?」


 蚊の鳴くような声の石見(いわみ)。ざんばらの前髪で目鼻を隠したままなのは変わらず、三つ編みおさげも変化なし。

 昨日昼、鶴来によって切られたセーラー服の胸元は、繕い様がないのでそのままに無残な口を開いていた。


 しかしその中の下着は見えず、小野が包帯変わりに巻いた赤いスカーフが見え隠れしている。

 なお、これまで失わずに来た通学鞄は、荷物になるので『要塞』に置いてきた。


「いや、茂みに梯子(はしご)が隠してある」


 アニメキャラのシャツに膝抜けジーンズ。垢っぽい頭に無精ひげの張井(ハリー)は、近くの茂みを示した。

 丸太に斧で切れ込みを入れただけの簡素な梯子が無造作に転がっている。

 小野がそれに強い不快感を示しているのを、管金(すがね)は見逃さなかった。


「高い所、ニガテ?」


 汚れたワイシャツと学生ズボン。足は裸足の管金。

 身長五尺未満、頭と手足が大きく、顔のパーツもいちいち大振りだ。


 二足歩行の狛犬か、ディフォルメした仁王像のような外見であるが、性格は象のように温和である。


「いや……認めたくねーが、張井のやり方しかねーんだな」

「?」


 忸怩(じくじ)たる思いがあるのだろう。だが、それは感傷であるという自覚もしているのだ。

 何が正しくて、何が正しくないのか。


「あたしらがこの時代にどれだけ介入していいのかだよ」

「俺は彼らを助けるためなら躊躇(ちゅうちょ)しないがね」


 ツンツンとしたひげを汚れた爪でしごきながら張井。

 どちらが正しいかなど、神ならぬ身で分かるはずもない。


「……【敵】、も……してるん、ですよ……ね?」


 そう、梯子だ。

 張井が教えたネアンデルタール達は木の加工をできなかった。


 小野たちは知らないが、笛吹(うすい)らが戦った【鹿角(かづの)】は黒曜石のナイフを棍棒に埋め込んでいた。後虎(アトラ)たちが相手をした【牛頭(ごず)】など製鉄の準備をしていた。露天掘りや炭作りまで行っていた。


 明らかに【ドラゴン】はネアンデルタール達に知識を与えている。


「【ドラゴン】と【ラストイル】の目的が分からない」

「……」


 だが、考える時間はおしまいだ。洞窟の入り口付近に見慣れた仮面が動いていた。

 よく考えると、木の皮を剥いた仮面も、同様に伝えられた技術なのだろう。


「中は?」

「入り口はなだらかな下り坂、奥は分からない。だが深そうだった」


 張井が案内できるのはここまでだ。彼は前回ここで逃亡した。


「俺はやっぱり」

「いや、やめとこうよ」


 同行したがる張井を止めたのは、意外にも管金だった。彼は困ったように眉根を寄せて、言いにくそうに言葉を続けた。


「あの人達が【敵】にどんな事されてるか分からないけど、【敵】は元々あの人達だった」


 それは張井も分かっている。【ドラゴン】はネアンデルタール達を改造している。

 分かっていて、だからこそ助けに行きたいのだ。


「もう遅いかもしれない」

「……! その……っ」


 冷淡な言い方に、思わず石見が止めに入る。

 だが張井は傷付いた表情で、しかし目だけは決意に満ちて首を振った。


「……確かに、俺は足手まといだな。想像だけで辛い」

「その分あたしらは原始人が何人死のうが知ったこっちゃねぇ」


 肩を叩いて激励(げきれい)する小野を、石見は不安そうに見つめた。

 本当に? 本当にそうなの?

 管金も小野も、さっきまで『要塞』で老人や子供と食事を囲んでいたのだ。

 肉に食いつき、木の実をこねたお焼きを分け合った。


 なのに本当に大丈夫なの?

 だが、口にしても何も変わらない。石見は石のように口を(つぐ)んですがだ。


「作戦の確認だ」


 いくつもの迷いを断ち切る鋭さで、小野が口を開く。


「まず前提。梯子は一人で運べない。

 【敵】は罠などは張っていないが、上から槍や投石があり得る」


 問題は安全な突入だ。だが一方的に【敵】が有利となる。

 崖の中腹の洞窟は、天然の城壁に守られていた。


「まず俺が入り口に矢を打ち込む」


 張井の弓矢は個人戦や乱戦には不向きだが、先制攻撃できるタイミングでは異様な強さを発揮する。

 雨霰と降り注ぐ256本の矢に【敵】が倒れるか逃げるかしている間に洞窟に突入。


 その方法は。


「小野さんがおれを踏み台にして登るんだよね……逆にしない?」

「お、管金くんがあたしを足蹴にしたいらしいぜ?」

「う~」


 こうやって茶化されると、管金は不承不承従う他ない。

 敵陣に切り込む危険を小野に負わせたく無いのだろうが、実力はともかく口では勝ち目は皆無なのだ。


「手を貸してやるから登れよ」

「やっぱり逆の方が……」


 小野が管金を引っ張り上げて入り口を制圧。その間に石見と張井が梯子を用意という算段だ。


「よろしく……お願い、します」

「リアルJKとの共同作業! 上がる!」

「……」


 無言で石を出す石見に、張井は慌てて両手を振った。


「落ち着け! イッツジョーク!」

「……?」


 石の握りや手首を確認していた石見は、不思議そうに小首を傾げた。


「違和感は?」

「ない……です」


 肩を回し、石をぎゅっと握る。

 石見は病み上がりだ。しかし、投球練習はいらない。【ラストイル】が用意した対【ドラゴン】用【義体】はウォームアップを必要としない。


「はじめて……ください」


 石見に促され、一人騒いでいた張井も覚悟を決める。

 右手に【防具】の弓篭手(こて)のみを、左手に長弓を呼び出す。


「じゃあ、試してみようか! 愛の共同作業ってやつをさ!」



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