A0308 後虎の有用性
「アトやんのはアレじゃねェ〜? 周りで何か起きた時にィ〜、パッと動けるヤツゥ〜」
モアの言葉に後虎は首を傾げるばかり。それもそのはず、後虎はそれを特別なことだと思っていないからだ。
それは、未来のない後虎が常に目の前の問題にだけは全力で取り組んできた訓練の賜物。
現在の問題に誰よりも早く対応できる。長期的視野や危険察知を致命的なまでに持たない代わりに、現在の出来事への反応速度は段違い。
いつでも自然体であるため感情の起伏も少なく、ある意味で常に臨戦態勢。
【牛頭】戦で飛び出した遊撃、立ち並ぶ【敵】のうち、朱里を狙う相手を正確に選択した腕。
その能力が学内で後虎を「変だけど面白いヤツ」として認知させ、ラクロス部のエースにしていた。
後虎はレスポンスタイムが異様に短い。絶対に迷わない。即断と即決の才能。それが最も輝くのは試合であり、何よりも。
「後虎、君は射撃と白兵戦のどちらも行えるな?」
「まー一応的な?」
しかし、刀を使った戦いにはやる気がない。後虎にとって一応以上のものではなかった。
「君は遠近両用で機動力があり、目端がきく。結果、乱戦において敵が一番突いてほしくない場所を狙い撃ちにできる」
「ありましたね」
「そだっけっか?」
【牛頭】戦で、朱里を狙おうとした【敵】を、狙った瞬間に狙い撃ちしたように。
「…………モア、ケーサツ嫌いだけどォ〜、こりゃ一緒に行くのが得策っぽォ〜い」
「どしたん?」
「これからチーム戦になる訳じゃァ〜ん? なら、作戦や編成する奴が必要でしょォ〜」
それが、長月だというのだ。
モアは突撃しかできず、堀は強固な前衛指揮官。後虎は遊撃。三人ならばこれで十分だった。
朱里が斥候兼作戦参謀で、川魚も斥候役だろう。
鶴来と蒔絵が生き延びていたら、モア堀ペア同様にアタッカーとタンクのペアがもうひとつ用意できただろう。
代わりに管金たちと合流できれば……もう二人か三人。
もしも『帰還待ち組』が協力してくれるならばさらに数が増える。
彼らの能力を素早く見抜ける長月は、集団戦にはなくてはならぬ存在だと言えた。
「そーいえばァ〜、ケーサツは何できんのォ〜?」
「僕はさっきも言ったけど、長い槍だ。少し待ってくれ」
梅宮は長いまつげを震わせて、中空にある架空の棒を掴んだ。すると集まる光の粒子。
十秒以上かけて呼び出されたのは、12フィートあるいは4ヤードの棒の先に、1フィートの木の葉状刃の付いた簡素な武器。
物干し竿、あるいは竹竿と見紛うそれは、いわゆる長槍。
見上げるような威容、長槍の基本戦術は振り下ろしと突きである。
3管金という長さの棒が振り下ろされた場合、どれほどの破壊力になるかは想像に易かろう。
ただし、当たればだが。
一般的に長槍は歩兵が戦列を組んで扱う武器である。たったの一本で振り回した所で、大した脅威とは言えない。
「でっか!!」
「最大20フィート、1フィート毎に1秒かかる。リチャージは召喚から5秒、毎回違う長さを用意できて、十本までしか出したことはない」
「梅宮さんの【武器】は、見ての通り完全に集団戦用だ。事前に用意しておけば、味方全員を槍歩兵として運用できる」
そうは言っても……と、モアと後虎は長月と長槍を見比べた。ちょっとどころではなく使いにくそう。
彼らが先に張井と出会っていたならば、梅宮への評価はまるで違っていただろう。
『現地人に武器を持たせて戦う』という発想の有無が、梅宮への評価を分けた。
「一応、僕は柔道と剣道は有段者で、特殊警棒もあるから」
「あっ」
「オジサンどしたのォ〜?」
堀は、とある事に気がついて声を上げた。梅宮。柔道の有段者。四人でかかっても素手では勝ち目がない。
堀は彼に心当たりがあった。ほんの半年前、全国ニュースで有名になっていた。
なるほど、なるほど……ラクダやキリンを思わせるのんびりした外見と、ノッポの姿からは想像もできなかったが、この男は確かに【狩人】だ。
『殺し奪うだけの才能』の持ち主だ。
「もしかして、手錠や拳銃も?」
「手錠はあるけど、銃は持っていないんだ」
慌てて誤魔化す堀。これは言うべきではない情報だ。梅宮を見る目が変わってしまう。
そもそも、『殺し奪うだけの才能』と呼ばれている時点で【狩人】の人間性は知れたもの。
堀は自分を常識人だとは思っていない。むしろ狂人の類だと自負していた。
モアも後虎も悪人ではないが人間性には疑問がある。
……しかし、この世界に来る前に確実に殺人を経験している人間と、堀は初めて遭遇していた。




