A0301 合流
罠だらけの森を迂回して、後虎たちは河原に戻った。
現在時刻は午後三時頃。後虎とモア、堀、そして川魚の四人は、とりあえず川上を目指すこととした。
やりたいことはいくつかあった。
防具作り、朱里たちと合流、そしてもう一組。
「川上にしばらく歩いた辺りで、背の低い男の子と会いましてね。朱里さんの知り合いで管金さんと言うそうです」
「ああ、パンモロのおねーさんと一緒の?」
「え」「え?」
顔見合わせる後虎と堀。パンモロ。パンモロとは……どれだけ想像してもパンツもろ出し以外思いつかない。
堀は少し悩んでから横を歩くモアを、正確にはその鼠径部を見た。
ハイレグバニースーツのモアが居るのだ。パンモロもおかしくはあるまい。
「オジサンキモ過ぎィ〜、目付きがエロいんですけどォ〜」
「ああごめんなさい。ちなみに俺たちが会ったのは男の子だけです」
「けけけ怪我人が、い居るって」
「言ってましたね」
.「あと、男どもに絡まれてた子も助かってるといーね」
しかし残念ながら、管金は少し入り組んだ場所で料理をしていた。二つのチームはこうしてすれ違い、再び出会うのは少し先のことになる。
四人はしばらく上流に向って歩いたが、日が落ちる前に移動をやめた。
「犬の敵に襲われた場合、全滅しかねません。良い野営場所を探しましょう」
という堀の提案で、一同はしばらく河原や森を調べた。川魚が少し離れた場所にある岩の裂け目を見つけ、その入口にバリケードを作って今晩の寝床にした。
不寝番は前半を川魚、後半を堀。色々あった後虎と、真土戦で怪我の増えたモアは休むことに。
「えーと、もっぴょん。一緒に寝ていーの?」
「アトやんさァ〜、心は女子でしょォ〜?」
ちなみに男子は外で寝る。
川魚が捕縛した人数分の鳥は、堀が処理して焼いていた。四人で焚き火を囲む。肉が焼けるまでは休憩だ。
土に包む焼き方には利点がいくつかある。そのうちの一つが、焦がす心配がないことにある。
堀は甲冑登山などという苦行まがいの趣味を持つが、残念ながらサバイバル知識は漫画や小説で仕入れた程度。
キャンプはしても、狩りなんてしてこなかった。知識はあっても実行は初めてである。
「塩が欲しいですね。汗もかきましたし」
「お風呂入りたい! 割とガチで!」
「無理矢理ィ〜、お湯なんて用意できる訳ないじゃァ〜ん」
ゲラゲラ笑うモアを見ながら、堀は風呂の事を考えた。
火がある。川も近い。出来ない訳では無い。だが、濁っていた川の水が綺麗になっていないと厳しいし、事前準備も手がかかる。
「マジでやんなくていいからねェ〜? どーせすぐに汚れるしィ〜」
「え? できんの? 凄さが段違い。そーいや川はどうやって渡ったの?」
「オタククンの紐でビュンってェ〜」
「マジでか、かわにゃんリアルにスゴイ」
突然褒められて、困惑を隠せない川魚。その顔が急に引き締まる。
川魚の五感が非常に優れていることは、堀とモアは良く知っていた。五感だけではない。危険察知能力も秀でていた。
立ち上がるモアと堀、何者かが近付いて来ている。
「身構えないでくれ、私だ。朱里だ」
「ああ、お疲れ様です」
「…………後虎くんも無事だったようだな。良かった。本当に良かった」
樹上から顔を出した黒尽くめの女性。狐を思わせる美女、棒手裏剣の朱里だ。
隠しきれない疲労感と、堀たちの無事を確認しての安堵。朱里は力無く笑って地上に降りた。
「へもい?」
「それは何語かな……少々くたびれた」
後虎がモアに寄り、空いたスペースに朱里を招き入れる。朱里は礼を言い、座り込んだ。全身にのしかかる疲労感に、今にも倒れそうに見えた。
「管金さんに会いましたよ」
「生きていたか……良かった」
朱里の疲弊は肉体的のみならず精神的なものにも見えた。何かあったのだ。堀は居住まいを正した。
「いいニュースと悪いニュースがあるんだが……自分で言うとなかなか恥ずかしいな」
無理矢理にでも笑う朱里。堀はその悪いニュースが何なのか、なんとなく想像がついた。
モアも、川魚も、もしかしたら後虎までも気付いているかもしれない。可能性はゼロではない。
「悪い方からお願ァ〜い」
「鶴来少年と長良嬢が死んだ」
「嘘でしょ……?」
予想通りの答えに、押し黙る三人。後虎はやはり後虎だった。
「【幹部級】と相打ちだった。彼らのお陰で【敵】の製鉄所は破壊された…………それがいいニュースさ」
「でもさァ〜、【敵】がまた復旧させちゃうんじゃないのォ〜?」
「堤を壊して露天掘りの穴を水浸しにした。一から掘るなら何日掛かりになるやら……そもそも、もう掘らない可能性もある」
いたちごっこになる前に、【ドラゴン】を殺さねばならない。
だが、朱里は何か考えがあるようだった。
「ああ、あの後、なななな何があったんですか?」
川魚の問に、朱里は暗い目を一瞬向けた。しかし無理に微笑む。引きつった笑顔は痛々しかった。
「出てきてくれたんだな、助かる。私は朱里お姉さんだ」
「かかかか、川魚です」
「よろしく、川魚少年……さて、何があったのか、か」
朱里はアンニュイに髪をかきあげた、言いたくないのではなく、どこから話すのかを悩んでいるのだ。
結果は伝えた。二人は死んだ。
では、次に伝えなければならないことは?
「まず、【幹部級】の役割について、一つの仮説がある」




