A0212 バニーの乳はとても硬い
「他人の死に方に口出しすんな、死んじゃえ、ざァ〜こ!!」
太陽のようなまばゆい輝き、モアの呼び出したクレイモア、刃渡り2.9フィートの広刃の両手剣が振り下ろされる。
致命的な一撃を、堀が【盾】で冷静にガード。
防御を見越していたモア、防がれた反動を利用して横回転。遠心力を利用した左からの切り上げ。
堀がガード。憎たらしいほどに表情に変化はない。
そこに前蹴り。剣を放り出し、消しながら堀の膝に一撃。さらに息のかかるような距離に入り込んでのボディブロー。
たたらを踏む堀。距離を取るも、河原の石に足を取られて体勢を崩した。
その目に映る、太陽のようにまばゆい光。
「…………どうしたんです?」
「オジサンさァ〜、ホントウザァ〜い。ここまでされても【武器】出さないのォ〜?」
左腕を前に、再度身を守る構えを取りつつも【武器】を、ホーリーウォータースプリンクラーを呼び出さない堀。
白けたようにクレイモアをしまうモア。
「呉井さんと殺し合いたくはありませんからね」
「殺されない自身あるのォ〜? 調子乗りすぎィ〜」
「いや、今止められなかったら死んでましたね」
苦く笑う堀、殴る蹴るされた場所が痛むのか、小さく咳き込む。
「左腕が痺れていましてね。呉井さんの攻撃を続けて受け止められるのは二度が限度です…………【盾】を狙いましたね?」
「ざァ〜こ、ざァ〜こ。情けなァ〜い」
多くの装甲は、基本的に相手の攻撃を受け流すために存在する。衝撃を正面から受け止めては、装甲は簡単にへこみ、破壊されてしまう。
そのために装甲は湾曲または角を付けて、エネルギーを斜めに散らす。受け止めるのではなく、受け流すのが装甲の目的なのだ。
当然、盾もまた然り。
初日のモアとの攻防は、モアが堀ごとジャージ男を真っ二つにしようとしていた。受け流しては彼に被害が及ぶかもしれないという堀の気遣いがあった。
しかし、今は違う。
堀は完全に受け流すつもりで【盾】を構えた。モアの一撃はそれを見越して、まっすぐの振り下ろしではなかった。
打撃を盾で正面から受け止めるなど、あってはならないと堀は思う。ヘヴィファイトと呼ばれる甲冑競技の経験から、相手の一撃を盾で防いでも、衝撃までは防ぎきれないことは分かっていた。
それが、二度に渡って【盾】に直撃を食らったのだ。
「侮っていた訳じゃありませんが、本気で抵抗しないと無理だって理解されました。俺の負けです」
「アッハ! ざァ〜こ! よわよわァ〜! 舐めプしといて恥ずかしくないのォ〜?」
ハラハラしっぱなしの川魚を放置して、殺意も屈託もない笑顔でモアが笑う。
「オジサンさァ〜、自分だけとか思わない方がいいと思うよォ〜?」
「そうですね。自信過剰になっていた事を認めます」
満足そうに微笑むモア。
堀のは確かに格闘技だけではなく甲冑戦闘の経験があった。様々な武器を相手にしたこともあったし、盾の扱いにも馴れていた。
しかし、【狩人】は全員が『殺し奪うだけの才能』があるのだ。彼らの【武器】はその魂に紐づけられている。
侮れる相手ではない。それを再認識させるには十分な結果だった。
『敵を侮るな』。モア自身は、その教訓を先の【牛頭】戦で学んでいた。脇腹の傷がその対価だ。
「防具作んのはいいけどさァ〜、特攻服は脱がないからねェ〜」
「特攻服は生地が厚いので、お願いするとしたら前を閉めること位ですね」
「オジサン、えっろォ〜い。モアの胸が気になっちゃうゥ〜?」
バニースーツの大きく開いた胸元、大きく豊満なバストを見せつけるように前屈するモア。
堀は大きく頷いた。
「気になりますね。胸は気になりますけど、俺は紳士を目指して居るのでノーコメントにしておきます。
防具を作るなら具足か篭手です。狙い所ですからね」
「木の皮でェ〜?」
「いえ、足はブーツを加工してでしょうね」
「だから持ち運んでたのォ〜? オジサンキモいからシュミかと思ってたァ〜」
モアが履いていた赤いピンヒールブーツは、堀が無理矢理ビジネスバッグに押し込んで運んでいた。
最初から再利用を考えてのことである。
「何にせよ、後虎さんが見つかってからです。後虎さんにも何か作った方がいいでしょうし」
ビジネススーツの堀と、学生服の川魚は、服の生地が厚い。後虎は上着こそ厚着だが、下半身はミニスカートにニーハイソックス。防御面では不安がある。
「アッハ! オジサンばっかみたァ〜い。アトやんにも殴られちゃうかもよォ〜?」
「…………」
モア同様に、後虎にも服装へのこだわりがあるのは確実だった。それよりも生命が大事だと堀は思うものの、きっと本人たちには生命よりも大事なのだ。
「ねェ〜、オジサァ〜ン?」
「どうされました?」
両手を広げるモア。殴られる直前に投げ捨てられていた杖代わりの棒を拾い、差し出す堀。しかし無視。モアは両手を広げて何かをアピール。
「さっきのでお腹の傷が開いたかもォ〜」
「えぇ……」
勝手にキレて好き勝手に殴りかかった挙げ句にこれである。堀は不満を口にしなかったが、表情は如実に彼の意志を表明していた。
「おんぶゥ〜」
「あー……俺も脛とかみぞおちとか痛むんですけどね……」
その瞬間に堀の脳内でどれほどの計算が成されたのか。結局彼は座り、モアに背中を向けた。
「アッハ! でもザンネェ〜ン! バニー服の胸は型崩れ防止に骨入ってまァ〜す!」
「嘘でしょ!? あ、硬い! 背中にゴツゴツ当たって痛い!!?」
とかなんとか言いつつも、堀は網タイツにつつまれた太ももの感触を楽しんだのだった。




