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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
二日目 虚無と残酷の声がする
30/224

A0203 誰が断崖絶壁だって?


 雨でぬかるんだ山の中腹を、五人の男女が登っていく。

 露天掘りと製鉄を企む【敵】幹部を倒すための即席チームだ。


 元気に先頭を歩くのは後虎。先端をピンクに染めたライトブラウンの髪と、ゆるく着崩した制服が特徴的ないわゆるギャル。

 ぬかるむ道にも文句を言わず明るく一同を牽引(けんいん)する。


 その武器はラクロスのクロス。

 しかして、それは後虎の【武器】ではない。そのことに、誰が気付いているだろうか。


「イェーイ! 味方一杯で頼もしさが段違い(たのち)ー!」

「アトやんさァ〜、調子乗りすぎィ〜」

「メンゴメンゴ!」

「いーじゃんいーじゃん! 元気が一番だよ!」


 続くのは特攻服を着た真紅のバニースーツ、呉井モア。ご丁寧に付けっぱなしのウサ耳が歩く度に左右に揺れる。

 【武器】は切れ味と小回り重視の両手剣、クレイモア。剣呑極まる戦闘狂。


 隣を歩くのはストライプのスーツに、ポニーテールの女。大手企業のホッケー部員、長良蒔絵。

 【武器】は長巻。一般的にはあまり馴染みのない武器だが、扱い的には両手剣の部類に入る。


 刃渡り三尺の大太刀に、同じく三尺の握りを取り付けた、薙刀と太刀の(あい)の子のような姿形。

 しかし実際には柄を長くすることで梃子(てこ)の原理を大きく利用できる。槍より短いが太刀に似て扱いやすいため、戦国時代や室町時代では重宝されていた。


「目的地まではまだかかりますか?」

「この調子ならすぐです。坂を登れば見えるでしょう」


 最後に二人の男。

 ドブネズミ色のスーツの男は堀山水(さんすい)

 その【武器】はホーリーウォータースプリンクラー。いわゆるメイス。

 広範囲の【バリア】を持つ防御型の役立つ男。


 明るい紺のブレザーは、鶴来(つるぎ)翔斗。 

 【武器】はショートソード。刃渡り1フィート10インチの取り回しの良い短剣である。


 しばしば勘違いされがちであるが、西洋におけるショートソードは武士の脇差しのようなサブウェポンではない。

 歩兵同士の乱戦では同士討ちを防ぎ、屋内や閉所では長剣より重宝され、槍などの長物相手には懐に入り込む。


 適材適所、多くの戦場で重宝された万能の武器なのだ。


 そんな彼らから少し離れた樹上に潜む影。『帰還待ち組』との遭遇以降、後虎たちを追跡する者。

 だが、敵意なしと判断され、放置されている者。


 可哀想と思うなかれ。

 後虎は本当に着いてきているのか確信を持っていないし、モアは襲いかかってくるのを楽しみにしている。堀は鳴くまで待とうホトトギスだ。


「蒔絵くん、翔斗くん。案外早かったな」


 坂を登りきった五人を待っていたのは、全身黒のスポーツウェアの人物だった。

 鋭角なショートボブ、フルフェイスヘルメットのように顔の全面を覆える可動式のサンバイザー。


 賢明なる読者諸君の中には、彼女の定規で引いたように垂直な胸部に見覚えがある方もおられるのではなかろうか。

 控えめに言って断崖絶壁。ほとんどまな板。


 この場に居ない小野がバストサイズカーストにおける頂点捕食者ならば、彼女はその真逆。最下層オブ最下層。おっぱいにおける管金(すがね)


 そう。見坊朱里である。


 彼女は前回【敵】と交戦した六人のひとり。翔斗と蒔絵が仲間を求めて移動している間、潜伏して見張りを続けていたのである。


「ちっす、無茶苦茶(ヤバ)格好いい(ヤバ)美人! あーしは後虎っす」

「見坊朱里だ。話は聞いているな?」

「モチ」


 【敵】の編成と戦術については、肉を食べながら説明があった。

 【敵】が立てこもっているのは木を焼いている炭焼き釜に隣接した場所で、柵に囲われた空間である。


 周囲の木は切り倒されて見通しが好い。逆に近づく側は掘り返された地面や残された切り株に注意が必要だ。

 【敵】幹部の武器が何なのかは、堀が聞いただけで言い当てた。


「アトルアトルだ……いや、時代的に考えればあり得るかな」


 アトルアトルは、原始的なスプーンかお玉に良く似た道具で、くぼみに槍を乗せて投擲(とうてき)する、投石器ならぬ投槍器である。


 人間がものを投げる時、どの関節を使うのかご存知だろうか。肩、肘、手首だけではない。脚を踏み込み、地を蹴って、腰を回して全身で投げる。

 身体中を動かすことで、より多くのエネルギーを込めて投射が可能になるのだ。

 さてここで、少しだけ想像して欲しい。


 人間に関節が一つ増えたら、関節ひとつ分の追加エネルギーは、どれほどのものになるのだろうか。


 アトルアトルは擬似的に関節を増やす道具である。

 恐るべきことに、通常の槍投げに比べてアトルアトルを利用した投擲は、おおよそ1.5倍の射程と威力を有する。

 一般の槍投げの世界記録など、アトルアトル使用の槍投げ選手なら軽々と越えてくる。

  

 ましてや身長180センチを越える筋骨隆々の戦士の一撃ならば。


 【敵】の大半は痩せた原始人である。それでも、その射撃は危険極まっていた。


「【敵】は【幹部】含めて十人。全員があの道具を使っている。しかし我々は幸運だ。

 先程まで別の一隊が逗留(とうりゅう)していたのだが、川下の方に降りていった」


「別の一隊?」

「もう一人、【幹部級】が居た。白兵武器主体に見えたよ」


 相手が射手だけならば、まだやりようがある。しかし、前衛との混成部隊となったならば攻略難度が更に跳ね上がる。


「やるなら今ですね」


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