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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
二日目 虚無と残酷の声がする
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A0202 露天掘り


「クソッ、原始時代? 原始時代……! 弥生時代まで含まれるかもしれないですけど、何にせよ石器時代だろ? そこに? 馬鹿か? ふざけるな、ふざけるなよ!!」


 それまでの丁寧さをかなぐり捨てて、手が白くなるほど拳を握り立ち上がる堀。

 何が起きたのかと目を丸くする二人の訪問者、蒔絵と翔斗。


「『露天掘り』ですよ! しかも木を焼いてる!? 木炭じゃないですか! 技術チャートどうなってんだよ!!」


 頭を掻きむしる堀、その顔相は恐怖と怒りで青ざめて引きつっていた。


「ほりっち!」

「ちょっとあんたらァ〜、ウチのオジサンにナニしたのォ〜?」


 取り乱す堀にただならぬものを感じたのか、洞窟に潜んでいた後虎(アトラ)とモアが飛び出して来る。

 露骨に不機嫌なモアは、飛び出しながら武器を呼び出す。太陽のような輝きがその背中から溢れ、蒔絵は目を丸くし、翔斗が庇うように前に出た。


「呉井さん! 違う! 違います! 心配しないで、待って下さい!」

「はァ〜? 調子乗りすぎィ〜。心配なんてしてないんですけどォ〜」


 青ざめながらも弁明する堀に、モアは唇を尖らせる。


「ええと?」

「俺の仲間です。貴方がたの出方をうかがっていました」


「バニーにギャル、かっわいい……いいないいな」

「蒔絵さん?」

「でもあたしじゃ似合わないし……」

「蒔絵さん??」


 話が面倒くさくなりそうだ。堀は再び頭を掻きむしった。


「え? おねーさんカワイイじゃん? ぜってー似合うて。あーしが保証する」

「ホント〜?」

「割とガチに」


 翔斗と目が合う、堀は肉に視線を落とした。


「すいません、俺はこの二人と【敵】を倒しに行きます」

「ん? 寂しーじゃん。一緒に行こうぜ」


 勝手に決めたことを謝ったつもりが、当然のように焚火の前に座る後虎。後虎ならそうだろう。だがモアはどうだ?

 不平不満が飛び出すはず。


「モアお腹すいたァ〜。オジサンさァ〜、それしかできないんだから早く肉焼いてよねェ〜」

「モアちゃん……」

「キッモォ〜、調子乗りすぎィ〜」


 肉で手を打ってくれるのだ。ついつい感動して名前で呼んでしまった。堀は深呼吸した。モアの事だ。強いと聞いて黙っていられなくなっただけかもしれないし

 とりあえずは肉を焼き、そして何が危険なのかを伝える必要がある。堀は気を取り直した。


「まず、すり鉢状の穴は『露天掘り』。オーストラリアやアフリカの宝石鉱床で使われる掘り方です」

え、もしかして()!? 宝石掘ってる!?」


 目を輝かせる後虎、だが堀は首を振

る。


「いいえ、恐らく目的は宝石ではありません。現代では宝石に使われていますが、それだけではないのです。

 非常に原始的で、労働力さえあれば可能な方法です。


 皆さんがイメージする鉱山よりも浅く、鉱脈に辿り着きにくいのですが……鉄鉱石を掘っている可能性が高いでしょう」

「鉄鉱石」「鉄って地面から取れるん?」


 そこからか……堀は言葉を飲み込んだ。死んだという奴も説明が面倒だったのだろう。


「もしも鉄鉱石なら、燃やしている木は木炭を作るため。【ドラゴン】は原始時代に鉄を作る気なんですよ」

「オジサンさァ〜、それの何が危険なのォ〜?」


 言い方は煽るようだが、考え込みつつ問うモア。まだ肉が焼けるまで時間がある。


「鉄は比較的加工しやすく、何より頑丈です。鋳型に流し込んだ質の悪い鉄を研ぐだけで、鋭いナイフが作れます」


 肉が焼けやすいように、サバイバルナイフで削ぎながら堀。

 防具のない状態では、石の武器も鉄の武器も同様に危険だろう。


 だが、石の武器では服が貫けずに打撲で済んでも、鉄の武器ならば肉まで裂かれて重傷になりうる。


「製鉄所を作られた場合、武器の大量生産も可能になります。でも俺が恐ろしいのは、【敵】が防具を作ってきた場合です」

「飛び道具じゃなくてェ〜?」


 飛び道具も危険だ。武具は常に相手の射程より遠くから、相手の武器より固い防具で、一方的に叩くことを目的に進化してきた。

 何か思う所があるのか、翔斗と蒔絵が押し黙る。


「飛び道具は前提です。我々……【狩人】ですか? 【狩人】の天敵は物量。

 石斧を持った連中なら十人居ても呉井さんの脅威になりませんが、投石用の石を持った相手が十人居たら脅威になり得ます」

「はあァ〜!?」


 青筋を立てるモア。堀は続けた。


「上手くやらないと負傷します。それが『脅威』です」

「オジサンさァ〜、モアがそんなざこに負けると本気で思ってんのォ〜?」

「十人なら負けないでしょう。ただし、三十人ならどうです? 百回に一回は負けてもおかしくないのでは?」

「…………」


 モアの視線が怒りに燃える。状況を想像して、確かに確実とは言い難いとは分かっている。

 だが、それでも侮られることに我慢がならないという顔。


「さて、蒔絵さんと翔斗さんも想像したと思いますが……そこで相手が腕と胴体に鉄板を付けて身を守っていた場合、危険度はどの程度上がりますか?」


 肉から滴った脂が火柱を上げた。もう食べ頃だ。

 そして、堀の話も区切りがついた。防具の危険性は理解をしてくれただろう。


 堀はその他のいくつかの懸念を飲み込んだ。

 【ドラゴン】とは何者なのか。


 露天掘りに製鉄だなんてあっていい技術ではない。今が新旧どちらにしても石器時代であるならば、それだけで世界が変わる。

 もしもこの、【敵】が生き残ってしまったら、鉄器を用いて人類史を塗り替える。


 そんなことが許されるのか。堀は打ち震えた。


「でさ、その強い【敵】は、十人がかりで石を投げてくんの?」


 後虎の疑問に、翔斗が頭を振った。


「いいえ、奴らが投げてくるのは槍でした」

「翔斗くんともう一人が【盾】持ちで、あたしと他に二人が重い武器だったんだけど」


 視線を感じ、堀はモアを見た。石が槍になっただけで、何が違う? その鋭い視線がそう語る。


「【盾】はご存知ですか?」

「俺が」


 堀の答えに二人は頷いた。ならば話は早い。いや、ならばこそ危険なのだ。


「奴の槍は【盾】で防ぎきれません。大砲みたいな攻撃に跳ね飛ばされて、隣りにいた奴はバンザイ状態で他の槍を受けて死にました」

おけおけ(りょ)、でも肉焼けてっし朝ご飯にしよーぜ!」


 満面の笑みで脂滴る肉を見る後虎に、二人は不安な顔をした。

 だが堀とモアは短い付き合いながら、後虎が後先考えないし話もあまり聞かないことを理解していた。



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