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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
【王(ドラゴン)】

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A0607 決意

「これ『洞窟』わりとマジでピンチがさ段違い(ピンチ)じゃね? モッぴょんどー思う系?」

「さっきの場所はァ〜、モアたちを足止め目的かなァ〜って」


 罠の駐屯地の戦いで、笛吹(うすい)寅木屋(とらきや)を失った後虎(アトラ)たち。

 無様に罠に引っ掛かり死にかけた木場と、寅木屋の死に呆然とする。染田(しみた)は荷馬車に積み込んで、女三人で作戦会議をしながら移動中だ。


「二人も殺られたけど?」

「ダメモトっしょ」


 【敵】とアンネの間にどんな話し合いがあったのかは分からない。だが、少なくとも、アンネは信用されていなかった。

 わずかな手勢で、鉄砲玉のように扱われていた。


「オタクくゥ〜ん、『洞窟』までどんくらァ〜い?」

「ままままっすぐ帰ってこ小一時間です。とと途中に待ち伏せが」


 ある。モアも後虎も確信を持っている。時間稼ぎの次は、急ぐ脚を狙って潰す。


「穴、縄、柵、槍だね…………かわにゃん?」

「ああ、ええと……」


 御者台に座っていた川魚が立ち上がっていた。後虎が小首を傾げる。モアは嘆息し、そして頷いた。


「危ないよォ〜?」

「そそその危険を、は排除してきます」


 手綱を手渡され、それまでぼんやりしていた染田が顔を上げる。川魚は乾いた笑みで頬を掻く。


「おま……バカか! みンなで行きゃいいだろ!」

「だだ駄目です。ここの先にあるのは、き騎兵用の罠だから」


 馬を殺すか、馬ごと殺すか、あるいは馬上では対処の難しい罠となるだろう。


「なら俺も」

「し染田さんは、かか神崎さんを守る仕事があります」

「は……?」


 眉根を寄せる染田。威嚇するかのような顔。数日前の川魚ならば、恐ろしくて萎縮(いしゅく)していただろう。

 だが、今は違う。染田に本気で凄まれても、再び門浦に恫喝(どうかつ)されても、耐える強さを川魚は得ていた。


「シミヘンは、アンジーに付いてよ。五十人くらいは頼むよん」

「……………………は?」

「え? なにそれ」


 染田だけでなく神崎も寝耳に水。五十人とは、村を一つ引き受けろとでもいうのか。

 言うのだ。


「途中に【敵】いたら二人でどーにかして」

「どーにかって……ふざけンな!!」


 激昂(げっこう)する染田を、モアが鼻で笑う。火に油を注ぐかのように。


「ダッサァ〜、できないのォ〜?」

「はァッ!? 出来ンに決まってンだろが! つーか、テメーらはどーすンだよ!?」

「あーしらは五十人ずつまでならぶっ殺して、ランランを【ドラゴン】にぶつける」


 気楽に答える後虎、いきなり名前を呼ばれ、悄然(しょうぜん)としていた木場(ランスロット)が顔を上げる。


「……何を。何を言っているのだ?」

「ランランの【武器】、スーパー【ドラゴン】ぶっ殺しウェポンなんでしょ?」

「馬もあれば殺れるって言ってたよねェ〜?」

「そ、それは……」


 自信も戦意も喪失していた木場は、突然の言葉に口籠る。出来るつもりだった。しかし、実戦とイメージは全く違った。

 今は、戦う事すら可能とは思えない。


「き木場さん……ぼぼ僕らはロケットの燃料です。き木場さんを押し出すための」

「それは……だが少年よ、我輩は……」


 大気圏外にロケットを飛ばすには、凄まじいエネルギーが必要となる。そのためには膨大な燃料が必要で、その燃料を入れるタンクが不可欠となる。

 だが、燃料を燃やし尽くしたその後は、そのタンクの重さが邪魔になる。


 故に。1グラムでも自重を軽くするために、ロケットは宇宙を目指しながら次々パーツを切り離すのだ。


「さ最初は、僕です」

「かわにゃんには頼みたい事がたくさんあんだけどね」

「そそその言葉だけで、じゅ十分」


 何しろ、騎兵よりも早く進み、障害を取り除くなんて、川魚以外には不可能なのだから。

 内気で吃音(きつおん)症の少年の言葉に、それまで力を失っていた木場の瞳が揺れる。たった一度の失敗だけで……我輩は……。


「ぼ、僕は、あああ後虎さんに踏み出す勇気を貰いました。ほ堀さんからは、た戦う勇気を……」


 途切れ途切れに、それでもはっきりと。川魚は自分の気持ちを口にした。

 嬉しげにニヤけるモアと後虎。少年の成長を間近で見てきた二人。


「だ、だから今は……そのお礼をする時です。ぼ、僕の【望み】は、もう叶って」


 この言葉は、誰よりも木場の胸を突いた。彼の【望み】はロマンの追求だ。この時代でしか出来ない英雄的な戦いだ。

 それを、女子供にお膳立てされて、それでも震えて駄々をこねる憶病者でいられようか。


「でででも、一応【望み】はありますから、ちゃちゃんと生き残るつもりです」


 川魚の脳裏に浮かぶのは、一人の青年。【望み】を叶えるために研ぎ澄ました刃のような。

 落ちた銀の星。もしも生き残れたら、川魚に再起のチャンスをくれた彼に【望み】を譲渡したかった。


「かわにゃん……ええと、なんつーかさ」

「はい」

「こないだはごめんね」


 頭を掻く後虎。モアが首を傾げる。川魚は微笑んで(かぶり)を振った。


「ああれは僕が悪かったですから、ぼ僕こそごめんなさい。つつ次に会うまでには、すす少しはマシな人間に、なります」


 後虎が男だと知って、川魚はあからさまにガッカリした。それが態度に出ていて、後虎と敵対した時に指定された件だ。

 あの後は、不思議と普通に接することが出来ていた。


「じゃあ、あーしはマジいい女になる」

「つーかァ〜、ナギはとっくにいい男じゃァ〜ん? ま、サンスィの次にだけどォ〜」


 モアの冗談に、川魚は目元を擦った。最高の賛辞だった。


「じゃ、じゃあ、みみみなさん。がんばって」

「うぇーい!」「またねェ〜」


 それが彼らの別れとなった。



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