S0605 砲撃
「ま、マンモス……!」
誰かが呻くように言った。【敵】が、【マンモス王】が乗騎として選んだのは、原始時代の象徴とも言える大型生物だった。
マンモスの肩から背中は、高さ約4メートル。路面バスの車高よりも少し高いくらいだと言えば、その高さは想像できるだろうか。
対して『洞窟』の入口となる裂け目は地上約3メートル。二階のベランダの高さである。
当然の話であるが、高さは有利である。特に守るにあたって、攻め手が高所に登らねば侵入できないという状況は大きなアドバンテージとなる。
3メートルの高さから石を転がり落とす、これだけで脅威的な武器となりうる状況こそが、『洞窟』側にとって少なくない利点であった。
それが、マンモスによって簡単に覆された。
【鳥獣調教役】の存在と能力が説明された際に、象兵については話に上った。上ったが、忘れられた。
理由は簡単、【狩人】たちはこの時代で一度も、ぞう、誰一人マンモスに遭遇していなかったからである。
ライオンの生息するような地域なのだ。象が生息していてもおかしくない。そんな風に考えるべきだった。
【狩人】たちはマンモスの巨体に気圧された。そして先頭のマンモス頭部に立つ【マンモス王】の威光にも。
「伏せろ!!」
長月の悲鳴に、その場にいた全員が即座に反応した。
管金、石見、小野、鶴来、長月、梅宮の六名である。
投槍器から繰り出された石槍は、凄まじい速度で飛来した。【狩人】たちが遮蔽に隠れたため、槍は壁に被弾、爆発した。
『焙烙火矢』あるいは『焙烙玉』と呼ばれる武器がある。漫画に出てくる『爆弾』そのまま、密閉された陶器の壷に黒色火薬を詰めて、導火線に火を付けて投げ込む手榴弾やロケット弾のような武器である。
【狩人】たちにとって幸運なことに、この際【マンモス王】の使用した爆弾は陶器ではなく革袋に詰められていた。
素焼きの壺すら存在しない時代である、革袋に砂利と火薬を詰め込むことで代用されたのだ。
それでも、火薬の燃焼とそれによる衝撃、爆音は強大だった。
「長月!」
壁の近くに居たのは長月だった。しかし、破片と爆風の直撃を受けたのは彼女ではなく、咄嗟に庇った鶴来だった。
彼は赤い房の付いた純白の騎士甲冑に身を包んでいた。各部位の先端が黒い。鶴を想起させるカラーバランス。
「すまん」
「……なんだって?」
【防具】越しでも爆風の直撃は少なくない衝撃を与えたのだろう、爆音は耳の機能を一時的に麻痺させ、鶴来は少し苦しそうに答えた。
「梅宮さん! 張井に声かけて宍戸を連れて来てくれ逃げるぞ!」
「あ、はいっ!」
小野の言葉に梅宮が洞窟奥を目指して走る。入口周辺はいがらっぽい火薬の臭いともうもうと立つ白煙で覆われていた。
そこに飛来する、次の槍。今度の中身は少し黄色く白濁した半固体。
「ひん!」
「あ、ヤベっ!」
悲鳴をあげる石見、頭からかぶったのだ。その生臭い悪臭に、誰もがすぐに正体に気が付いた。
「おいおい! 大砲の次はナパームかよ!」
ナパーム弾は焼夷弾の一種で、科学的に作られた粘度の高い油脂で周辺一帯を焼却する兵器である。
今回の攻撃はそこまで致命的なものではなく、むしろ火炎瓶に近い。
学生運動などで使用された火炎瓶は、ガラス瓶に燃料を詰めて、火をつけて投げ込むだけの簡素な武器だ。
当たり前だが投擲中や着弾時に火が消えてしまうことが多く、着火に難がある。
この二度目の射撃も着火はしなかった。『洞窟』の入口付近に脂がばら撒かれ、不幸な石見が直撃を浴びた程度だ。
「爆弾二射目が来るぞ!!」
小野の叫びと、着弾は同時だった。
爆音、閃光。
「ぁっああ!?」
付着した脂が燃え上がる。吐き気を催す悪臭と共に、石見が松明のように燃え上がった。




