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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
五日目 嵐前

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A0509 コンビネーション

「シミヘン! やるじゃん! 斜面滑るのどうやったん?」

「なんだよそのAV男優みたいな呼び方」


「ギターの神様じゃないのか? 気持ち悪い奴だな」

「シミ汚れ防止の撥水加工でしょ?」


 みんな好き勝手に言っているが、染田(しみた)のアクロバティックな動きはたしかにすごかった。川魚(かわな)は思い出しながら小さく唸った。

 自分にも完全平衡感覚があるのだ。接近戦を恐れぬ覚悟があれば、似た動きができるのかもしれない。


 川魚は、手元に戻したカトラスを見て少し構えた。


「オタクくゥ〜ん、簡単にマネできる動きじゃないからァ〜、今のままでいいと想うけどォ〜?」

「あ、えええええと」


 モアに見られていた。気恥ずかしくてカトラスを隠す。だが、すぐに考え直して(かぶり)を振った。


「にに似た武器なので、ささ参考になるかなって」

「ワイヤーある分〜、オタクくんの方が動きが激しいじゃァ〜ん? でもまァ〜、剣の使い方は聞くといいかもねェ〜」


 川魚は頷いて、自慢気な染田に駆け寄った。

 【敵】と馬はとどめを刺され、馬は寅木屋(とらきや)によって後ろ足を腿から切断されていた。


「今晩の飯にしよう」

「お、槍げとずさー。さすがだねあーし」


 【敵】の持っていた石槍を回収する後虎(アトラ)、クロスで投げるためであろう。

 だが一瞬悩んだ後に神崎に差し出す。


「え? 私は長月ちゃんから借りたトンファーがあるわよ」


 視線集中能力の関係で、囮となる神崎には防御力も必要だ。

 そのため、彼女は長月のトンファーを【貸与】されていた。


 大事なのは【武器】としてのトンファーではなく、【盾】としても利用できる点である。

 【盾】の貸与が行えるのは現時点では長月ひとりだ。これは大きな意味を持つ。


「まだまだ歩くなら杖あると楽ちんが段違い(らくチ)じゃん? 使う時まで持っててよ」

「…………そうね、ありがとう」


 このメンバーで、体力面の不安が最も大きいのは神崎だ。次が木場(ランスロット)、彼は鍛えているとはいえ壮年である。若いものには勝てない。

 いつまでもこの場に留まるのは危険だ。一同は足早に移動した。


 この時点で分かった情報が二つ。


 まず、【敵】に感知能力が無いことの確定。そして騎兵の存在。

 今回は奇襲に成功したため大した脅威ではなかったが、襲撃を受ける側になった場合犠牲者が出かねない。


「今更だけどォ〜、サンスィが製鉄所が危険だってったのが実感できたかもォ〜」

「鉄? 鉄の武器の危険性か?」


 笛吹(うすい)の問にモアは笑顔で否定。


「防具ゥ〜、さっきの【敵】の脚見たァ〜?」

「ああ、木製の脛当てをしていたな」


 落馬して首を斬られたため無意味だったが、馬上の【敵】は枝を束ねた具足で脚を守っていた。

 馬上の人間は、想像するよりもずっと高い位置にある。今まで明確なイメージを持たなかった【狩人】たちも、この一戦で騎兵の危険性を実感できた。


「ウスィのよわよわ剣でもォ〜、あれごと刺せるでしょォ〜?」

「防具があるなら、避けて刺すだろうな……だが」


 染田も同様に鎧のない部分を斬るだろう。モアと寅木屋ならば鎧ごと切断する。

 しかし、一人相手なら簡単でも、複数相手にできるのか。そして、何よりも厄介なのは。


「猟犬とのコンビネーションを組まれると上手くいくかどうか。頭上と足元の両方を対処は…………」


 ここで、笛吹は何かに気が付いたようにモアを睨んだ。真紅のバニーは悪びれもせずその視線を受け止める。美剣士はため息一つ。


「昨晩のライオンでか?」

「アッハ! 話し分かんじゃァ〜ん」


「ここまで話して分からない奴がいるものなら面を拝みたいね。組むなら寅木屋か?」

「よろしくねェ〜」


 笛吹は、少しばかり不思議そうにモアを見つめた。先程の切りつけるような鋭さではない。モアは嫣然(えんぜん)と微笑んで小首を傾げる。


「そういうタイプじゃあないと思っていた」

「お互い様じゃなァ〜い?」


 お互い、我の強さは自覚していた。


 にも関わらず、モアはコンビネーションのためのツーマンセルを進言しているのである。昨晩の【敵ライオン】戦で笛吹の援護能力の高さを目にしたからだ。

 笛吹はその、モアの気遣いに驚いていた。そういうことを言い出すタイプには見えないからだ。


 お互いに、この時代の旅の中での成長だった。


 モアは【ドラゴン】に確実に勝つために、煽るような物言いをグッと抑えて堀の振る舞いを真似しようとしていた。

 笛吹は【鹿角(かづの)】戦以降は単独での戦いに限界を感じていた。


「指揮官殿、相談がある」

「改めて上官扱いされると、逆に身構えてしまうが何かね?」


 笛吹の呼びかけに、髭を擦りながら木戸が振り返る。

 彼は一応、こちらのチームのリーダーという扱いだ。


「【敵】への対処として、基本的にツーマンセルを組むことを提言する。

 オレと寅木屋、呉井と後虎、染田と川魚だ」


 木戸は少し考え込み、しかし何が気に食わなかったのか首を縦には振らない。


「どうせなら、六人でのチーム行動も考えよう。

 前衛コンビの笛吹・寅木屋組が中央。攻撃力に優れる呉井・後虎組を右翼に。【盾】がある染田・川魚組が左翼。


 たったの八人しか居ないんだ。フォーメーションとコンビネーションは練習しておいて損はあるまい」

「名案だ。行軍もその形で行こう」


 いつ【敵】の哨戒と遭遇するか分からないのだ。緊張感を持って行動する必要があった。


「あ、も一個いィ〜?」

「何かねレディ」

「さっきみたいなのを見つけたらァ〜、ガンガンブッ殺そうよォ〜」


 剣呑な発言に、木場の眉間にシワが寄る。


「理由を聞いても?」

「コンビ練習とォ〜、【敵】を減らすためかなァ〜」

漸減(ぜんげん)作戦というか、各個撃破というわけだな。それで行こう」


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