S0109 もう一人
「よろしくの前に、だ」
不意打ちだった。
管金の背後から低く鬼気に満ち満ちた女の声がした。いつからそこに居たのか。
背筋を粟立たせる慄きに、管金は振り向こうとした。
「あ、の……」
「脇を刺された経緯を教えろ」
だが、石見の手がガッチリと、万力のように離さない。管金は振り向き、もう一人の女を探し、そして石見とを交互に見た。
石見の表情は、暗闇に包まれて窺い知れぬ。
「う……小野、さ、ん……」
囁くように、言いづらそうに石見。管金は彼女が、新たな人物と知己であると理解した。
小野という女はいつの間にか忍び寄ったのではない。居たのだ。
最初からそこに居たのだ。
管金が石見と喋っている間も息を潜めて。そして恐らく、管金が危険な相手ならその背後から一撃加える為に。
突然、骨からの激しい震えが管金に走った。小野とかいう女に狙われていたという可能性。
攻撃を予告していた笛吹や樹上から狙っていた朱里とは違う。完全にいつでも殺せる準備をしていた訳だった。
「いや、待てよ」
管金はふと、恐怖の源泉に気付いた。そして小さく笑った。
「何がおかしい?」
「ふへへ、いやそのね。あんたは悪い人じゃないなって」
「は?」「え……?」
小野と石見が、異口同音に唖然とする中、管金は自分の発言にひとり納得していた。
「おれを刺したアンネはさ、話を聞いて食べ物を見たら、警告も脅しもなかったんだ。ただ刺した。わき腹をザクッと。そんで目が覚めたのが今なんだよ」
そうだ。小野の警告を管金は若干誤って受け取りかけた。女性二人で、得体の知れない男を拾ったのだ。
臆病な管金なら、見て見ぬ振りをしてしまうだろう。でも、この二人は助けてくれたのだ。危険を承知で
「手は出してねーんだな?」
「こ、転びそうなのを支えた位かな」
小野が鼻を鳴らす。信じていないのだろう。
朱里の考えでは、グループ化している人たちの方が、管金を受け入れてくれる可能性は高いとか。
だが、これほどあからさまに敵意を向けられては、さすがの管金も状況を見極められる。
「二人とも助けてくれてありがとうございます」
まず管金は、手を握ったままの石見に、そして背後の小野に頭を下げた。
「食べ物もありがとう。感謝してます」
酸っぱい木の実はあまりおいしくはなかったが、涙が出るほどおいしかった。
「あ、あの……っ」
「……」
手を緩め、何か言おうとする石見。しかしその先は言葉にならない。
管金は微笑んだ。見えてないとは思うが、石見の優しさに報いたかった。同時に、小野の用心深さも理解できた。
「おれの持ってる情報を教えたら、どっか行きます」
「……!」
再び、石見の手が強く握られる。
足元も見えない暗闇の中を移動するなんて、正気の沙汰ではない。
危険すぎるという心配ゆえだろうか。
「そうかい」
だが小野は、より一層剣呑に、威嚇するような声で応えた。
「ならあたしが知りたいのは二つだ」
石見が息を呑んだ。小野の声は感情が籠もらず、それゆえに無感情の下からは強い怒りが見え隠れしていた。
「出て行くなら明日でいいかと、あたしらのチームに入る気はあるか」
「小野さぁん!」
瞬間、石見が飛び出した。彼女のそんなに大きな声ははじめて聞いた。
石見は石を飛び越え小野に抱きつき、小野は受け止めきれずに尻餅をついたようだ。
「痛って、危ないだろ!」
「ご、ごめ……」
ゴールデンウィークなので明日も投稿いたします。




