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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
五日目 嵐前

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A0502 単独行動


「おいお前ふざけんな。ワガママ言ってんじゃねえ」

「本気も本気なんですけどォ〜?」


 舌打ちし、不機嫌さを隠しもしない小野に、モアは挑発的に笑う。

 それが余計に苛立ったのか、小野はモアの胸ぐらに手を伸ばし、振り払われた。


「モア一人が残って、まあ負けて死んでも大した損失じゃないじゃァ〜ん?」

「馬鹿か? 【狩人】は百人居たんだぞ?」

「それでェ〜?」


 突然話題が変わった。モアが不審そうに小野を見上げた。


「それがこれしか残っていないんだ。一人分の損失だって許せるか!」


 この場に集まった【狩人】は十八人。百の魂の六分の一程度にすぎない。

 思わぬ言葉にモアが、そして他にも何人か驚きの顔。しかし、その偽善者ぶりが心に響いたという訳では無い。


「怪我人は逃さにゃならん、その掘って奴はデカいのか?」

「ヒロくん位あるかな」

「結構重そうだ。笛吹(うすい)管金(すがね)。頼めるか?」

「いいよ」


 小野に指名された管金は一も二もなく頷いた。しかし笛吹は渋い顔。


「オレはこの手だぞ?」

「【敵】の接近を察知するのが仕事だ。獣殺しは管金に任せろ」

「待って待ってェ〜」


 珍しく困ったようにモアが割り込んだ。話について行けていないのだ。

 堀の死体を回収に行くのは許さないとか、そういう話じゃ無かったのか?


「急いで掘って野郎を回収して逃げんだよ、文句あっか?」

「な、無いけどォ〜」


 文句はないが、そこまでして貰う義理もない。モアの目がそう揺れる。


「荷物、服、欲しいもんは山程あんだよ。坊さんもいるし遺体はねんごろに弔ってもらえ、遺品は活用する。あたしの狙いはそっちだ」

「う、うゥ〜ん……」


 うまく言いくるめられた気がする。

 モアは目の前のおっぱいをじっと見つめた。そう、おっぱいだ。

 身長が15センチも違うせいで顔よりもおっぱいが見やすいのだ。


「それだよ」

「どれェ〜?」

「あたしも、テッサも、クリスも、一応管金も服が欲しいんだよ。分かるだろ?」


 分かる。モアは頷いた。

 小野はドでかい乳をボロ布でだけ覆って、歩くだけでばるんばるん揺らしているのだ。そういう趣味でなければ服は当然欲しい。


 クリスは全裸だし、テッサはワイシャツと毛皮のエプロンだけの姿。管金も【敵】と見紛わんばかり。


「俺と染田(しみた)が行くんじゃぁダメなのかい?」


 手伝いを立候補する寅木屋(とらきや)

 この晩の戦闘に参加していない二人は元気なものだ。


「なら頼んだ……それと、そっちの君も頼む」

「…………ぼぼぼ僕ですか?」

「ああ、君は縄だろ? 高所からの援護を頼みたい」


 つまり、モア、川魚(かわな)、笛吹、そして染田に寅木屋という面子だ。


「ホントにいいのォ〜?」

「さっさと行け、【敵】に会う前に……待てよ」


 小野がふと何かに気が付いたように考え込んだ。

 そして不機嫌そうに眉間にシワを刻みながら顔を上げる。


「今は流れであたしが取り仕切っちまってるが、今後どうするか、リーダーは誰かは人心地着いてから決めるぞ。

 全員生きて集合するまでは揉め事は無しで頼みたい。


 …………で、可能ならその後も殺し合いは控えて欲しい。以上がお願い。これからが本命だ」


 そこまで話して、しかし小野は少なからず躊躇(ちゅうちょ)していた。

 『それ』を話していいのか迷っている様子。


「小野さん、アンネは使ってたよ」

「…………何の話だ?」


 管金の言葉に小野だけでなく鶴来も顔を上げる。それはある意味、アンネの明確な裏切りを意味していた。


「マジかよ……でもこいつ使ってなかったよな?」

「だから、何の話だ?」

「【防具】だよ」


 管金の言葉に、鶴来は瞬きした。呆気に取られた顔。

 彼は知らなかったと断言できる。そうでなかったらアカデミー賞ものの演技だ。


「【防具】? 【盾】ではなく?」

「あ! あれケブラーじゃないん?」

「そんな物あったなら……」


 【狩人】たちの反応は、初めて【防具】の存在を知った小野たちと酷似(こくじ)していた。

 それはそうであろう。【防具】が存在するならばしなくていい怪我も、死ななくていい者もあったはずだ。


 とりわけ、モアは噛み付かんばかりの勢いで小野の襟首……は無いからボロ布ブラ……も千切れそうだし。

 伸ばした手が掴む場所がなくワキワキさせた。


「非難は後で甘んじて受ける。殴るなら殺さない程度に頼む」

「むむむゥ〜、ムカつくけどォ〜、モアたちに言うタイミング無かったでしょォ〜」


 【防具】が存在するなら、堀の死は免れたかもしれない。そう考えると怒りがぶり返すのだろう。

 モアは歯ぎしりしながら拳を握った。


「詳しくはまた後で説明するが、【防具】は回復や毒耐性と併用できない」

「なるほど、だからアンネは腹を空かしていたのか」


 彼らは知らない事だが、管金たちが平気で食べたいた木の実で腹を下して苦しんだり、手の傷の治りが遅く、二日経っても苦しんでいたのも【防具】を常時身につけていたからである。


「【防具】の使用は戦闘直前がいい」

「はァ〜い」


 気のない返事をしたモアの全身を、輝く粒子が包む。

 ウサ耳の代わりに長い羽根飾りの二つ付いた黄金色のヘルメット。両手には肘まで覆う同色の篭手(こて)。脚は太ももまである具足。


 エグいハイレグのバニースーツの上に、タータンチェックのミニスカートとリボン、ワイシャツ、ラクダ色のブレザー。

 そして、特攻服は変わらず。


「アッハ!」

「もっぴょんJK??」

「中学の制服ゥ〜」


 装着も解除も数秒足らず。モアは懐かしい戦闘服に唇を歪めた。

 あの、素晴らしかった日々の、青春の残り香に胸が熱くなる。


 同時に、自分にはそれしかないのだと気付かされて、隣でニコニコと何も考えてなさそうな後虎に目を向けた。

 この子の【望み】を叶えてやらねば。


 モアみたいに、ならないように。

 


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