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武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
四日目 十二対十二

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S0416 八対十三 時間稼ぎ

 メガネを割られ、股間のバットを再起不能にされた倉木は、宍戸の穴に放り込まれた。

 それにしても馬鹿な敵である。テッサの言う通り、相手を舐め過ぎだ。


 自分同様に設置型の【狩人】ならば、穴から簡単に出られると分かるだろうに。

 三人は石見(いわみ)の石を積んで出たが、テッサだけなら鎖を繋いですぐにでも出れた。


 小野は穴の中に唾棄(だき)し、それ以上は興味をなくした。落下の衝撃で倉木が死んでいようが生き残っていようが関係ない。

 まずは水だ。顔面に精液をかけられて半泣きの石見のために、水が必要だった。


 小野たちの明かりは、倉木が持っていた松明のみ。穴の中で方向感覚は失われ、太陽はとっくに沈み、川の方向も分からない。


「あ! ……ぅぁ」

笛吹(うすい)張井(ハリー)と合流するか?」

「……ぁ、その……管金(すがね)さんが……」


 石見の弾んだ声にテッサが手を叩く。小野は興味なさそうに視線を逸らすも、その口元は緩んでいた。

 石見は、自分の【武器】である石の在処を感知できる。あまり意識しすぎると思考力に支障が出るため、今は最小限のもののみを追いかけている。


 具体的には管金、笛吹、張井。

 石見は、三人の動向を把握していた。


 動き出した管金、止まっている笛吹、何やらずっと動き回っている張井。

 石見が何か伝えようとしたその瞬間に、大地を揺るがす爆音が鳴り響いた。同時に、少し離れた場所で火の手が上がる。


「えっぅえっ……?」

「爆弾ですか?」

「だとしたら……張井の野郎だな」


 素早く反応したのは小野、次いでテッサ。石見の頭を押さえつけて地を這わせる。


 不機嫌そのものといった表情で、しかし小野は確信していた。あの知識チート野郎が、隠れてこっそり火薬を作っていたとして、なにか不思議はあろうか?

 あるに決まっているが、張井ならやりかねないという悪い意味での信頼感がそこにはあった。


「張井の立ち位置がわからねえ。敵に回っていてもおかしくないぞ」

「そういうタイプなのですか?」

「違うと言いたいが、びっくりするほど胡散臭いんだよ」


 正義感と倫理観の高い男で、分不相応な英雄願望に焦がれている。

 ここまでなら味方であると信頼したいが、だからといって人間は変わるもの。女か、脅迫か、合理性か。何にせよ張井が自分を諦めたとしても不思議はない。


 そもそも、張井と小野たちはわずか数時間程度の知り合いである。


「情報が足りませんね。優先順位を決めましょう」

「生存が最優先、次いで合流と仲間集めだ。敵を殺すのはどうでもいい」

「誰の生存で誰との合流です?」


 小野の言葉を額面通りに受け取ると、自分たちが生き残るためならば他の誰かを見捨てるべき。そう取れる。

 しかし、テッサも石見も小野の露悪的な言い草なんてとっくにお見通しだった。


「味方全員だよ」

「…………なら、張井さんから……?」


 小野が不承不承頷く。

 そう、最初は張井だ。彼が何かをしているのなら、最も危険な位置にあるはず。


 宍戸のせいで分断された後虎(アトラ)や笛吹のことも気にかかるが、死んでないことを祈るしかない。






 小野たちが張井を目指して移動している頃、危機にあるのは張井ではなく長月であった。

 彼女もまた爆発は張井によるもので、目的は陽動にあると考えた。そして張井による鶴来(つるぎ)と土屋の襲撃を時間稼ぎであると予測した。


 すでに鶴来への愛想が尽きていた長月は、張井への援護とばかりに鶴来と土屋、二人との交戦を開始した。

 無謀極まる。


「こいつ!」

「狙いが甘いぞ、齧った程度の格闘技で自慢気だな」


 鶴来の鋭いローキックを、長月が左の【盾】で止める。背が低いので姿勢を低くすると下段攻撃が正面になるのだ。そのまま駆け抜け鶴来を盾にして、横殴りの矢の豪雨から身を守る。

 【盾】だけでは身を守りきれない。鶴来は【武器】を抜き払った。刃渡り2フィート6インチの両刃長剣で矢を打ち払う。


 振り向き様の一撃、長月はすでに距離を取っていた。長い髪の先端だけを切り飛ばす。


「土屋!」

「あいよ」


 矢嵐から逃れるために距離をとっていたはずの土屋が、2メートル近い巨体を活かしておおきく振りかぶる。

 オレンジ大の石が、打ち下ろすように投げられた。


 長月は内心舌を巻いた。この二人、思いの外コンビネーションがいい。

 投石を左の【盾】で弾く、同時に鶴来が素早く距離を詰めている。大振りの長剣、長月は呼び出した【武器】で受ける。


「おいおい、お前トンファーの使い方知ってるのか?」

「それは冗談で言っているのか?」


 長月のトンファーは、持ち手と短い方の張り出しが四寸、長い方の張り出しが一尺二寸、つまり、合計長さは一尺六寸。 

 取り回しが良く軽量で、材質はポリカーボネートに近い。


 三箇所の先端はそれぞれすっぽ抜け防止の円錐が取り付けられていて、今長月は長い方の張り出しを掴んでいた。

 筋力で劣るものの、長月は鶴来の剣を枝分かれした先端で受ける。即座に手首の返し。


「むっ」


 梃子(てこ)の原理でねじられる長剣、一歩引く鶴来、逆に長月は踏み込む。

 左手にもいつの間にか同じ構えのトンファー、鶴来の(すね)を狙い撃ち。


「この!」


 ハンマー状のトンファーの一撃は、鶴来を怯ませるだけの威力があった。

 というか、長月の膂力(りょりょく)ではそれが限界なのだが。


 下がりながら振るわれた長剣を、右の【盾】で受ける。

 トンファーは弱い【武器】だろう。長月は心中で自嘲する。非力で無力な私と同じで。


 しかし、両手に【武器】も両手に【盾】も選択できる。汎用性と意外性、奇襲効果は十分だ。そこもまた、よく似ている。

 鶴来の懐に入り込もうとするも、膝で邪魔される。先程は挑発したが、鶴来の格闘術は馬鹿にできない。膝と蹴りを防ぎ、【盾】のフックを【盾】で止め、振り下ろされた長剣からバックステップで距離を取る。


 さらに後退……いや、遅い。

 突進してきた土屋の蹴りを、長月は【盾】で止めた。止めたのだ。


 だが100キロを越す土屋の巨体だ。30キロしかない長月には荷が重すぎた。

 ボールみたいに吹っ飛ぶ長月。受け身を取り、速やかに体を起こすも、その目に映ったのは危険にギラつく長剣の輝き。


「なかなか手こずらせてくれたな」


 広がれ鶴翼、舞え利剣。


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